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最終章 永遠の翼
episode808
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「31年……。あれからもう31年もの月日が経って、やっと解放されたんだわ…」
リューディアへの想いからも、アルカネットの束縛からも。死ぬことで自由になれた一生は、なんと切なく虚しいのだろう。それでも、ベルトルドなりに生き抜いたのだと、サーラは強く頷いた。
「葬儀の時ね、ベルトルドさんとアルカネットさんの幽霊が出てきたの。でね、二人共笑顔で旅立っていったよ」
「そう……」
サーラは悲しげな笑みを、キュッリッキに向けた。
「私もその場にいたら、きっと鉄拳を顔のど真ん中に見舞っていたでしょうね」
「えっ」
霊体に攻撃をあてるなど、と思いつつ、サーラの拳ならきっと当たるかもしれない。そう思ってキュッリッキはガクブルしながら生唾を飲み込んだ。
悲しさ半分、色々プラス怒り半分、というのが、今のサーラの心境だろうとキュッリッキは思った。
「ふぅ~、今日は星空も大盤振る舞いね。ほら見て、星の大河もあるでしょう」
二人はデッキチェアに深々と寝そべり、空を彩る星星を見つめた。
濃紺の夜空に煌く星たちは、皇都から見るよりもずっと明るく綺麗で、大きさも輝きも全然違っていた。光が雨のように降ってきそうで、それを想像すると自然と笑みがこぼれた。
「レディたち、お風呂が沸いたよー。一緒に入ってきたらどうかな」
家の方からリクハルドが叫んでいた。
「そうね、一緒に入りましょうか。ウチのお風呂結構広いのよ」
「はいっ」
キュッリッキとメルヴィンは、とても広いゲストルームに案内された。
大きな窓が海に面していて、開け放たれた窓からは、潮騒が絶えず聞こえていた。
ベビードールの寝巻きに着替えたキュッリッキは、蚊帳をめくりあげてベッドに飛び込む。洗いたての枕カバーやシーツからは、おひさまの匂いがした。
「気持ちがいいの~」
うつぶせになってはしゃぐキュッリッキを見て、メルヴィンも微笑んだ。
「ベルトルドさんは、ここで生まれ育ったんだね。青い海で遊んで、明るい星空を見上げて。リクハルドさんの美味しいご飯を食べて、サーラさんに怒られて」
「そうですね」
キュッリッキの横に寝そべり、メルヴィンは天井を見上げた。
「サーラさんと話してるとね、ベルトルドさんと話してるみたいな気分になっちゃった。ベルトルドさんって、サーラさん似なんだね」
「リクハルドさんにもよく似てましたよ……とくにこう、女性関連の話題になると、物凄く親子だなあ……と」
二人は顔を見合わせ、そして吹き出した。
「ベルトルドさんは、両方に似てるんだね」
「紛れもなく親子ですね、ホント」
ひとしきり笑うと、二人はなんとなく黙り込んだ。
灯りがなくても、星と月明かりでこんなにも室内は明るい。穏やかな波の音も、聞いていると癒される気分になった。
「アタシね、本当はここへくるの、ちょっとイヤだったの…」
メルヴィンに腕枕をしてもらいながら、キュッリッキはメルヴィンにぴったりと寄り添った。
「ベルトルドさんやアルカネットさんのことを思い出して、涙が止まんなくなっちゃうって思ったから。いろんなこと思い出して、頭グチャグチャしちゃうって……でもね、来てよかった」
「リッキー…」
「サーラさんにいっぱい話をして、聞いてもらったからかな。ちょっとだけ心が軽くなった気持ちがするの」
「”母親”というものに、安心感を持ったんでしょう、多分ですが」
「……うん、そうだね。きっと、そうだと思う」
ベルトルドやアルカネットとは違い、もっとキュッリッキの気持ちに寄り添ったアドバイスや回答をしてくれた。女同士というのもあるし、サーラは母親という立場に身を置くから、母親としての視点から言ってくれたこともあるだろう。
「そっかあ…。あれが、お母さん、ていうものなんだね」
父親も母親も、キュッリッキはどんなものか知らない。自分を捨てる存在だとしか認識していないからだ。
いつか、自分も母親という存在になる日がくるのだろうか。もしそうなったとき、自分は母親を、やっていけるのだろうか。
今はまだ、自信が持てそうもなかった。
「さあ、寝ましょう」
「うん。おやすみメルヴィン」
「おやすみなさい」
メルヴィンはキュッリッキをしっかり抱きしめ、頭にキスをして目を閉じた。
闇の中に、聴き慣れた声がする。
その声は、自分を呼んでいた。
――さあリッキー、目を覚ましてごらん。
優しいその声に、キュッリッキはゆっくりと目を開いた。
リューディアへの想いからも、アルカネットの束縛からも。死ぬことで自由になれた一生は、なんと切なく虚しいのだろう。それでも、ベルトルドなりに生き抜いたのだと、サーラは強く頷いた。
「葬儀の時ね、ベルトルドさんとアルカネットさんの幽霊が出てきたの。でね、二人共笑顔で旅立っていったよ」
「そう……」
サーラは悲しげな笑みを、キュッリッキに向けた。
「私もその場にいたら、きっと鉄拳を顔のど真ん中に見舞っていたでしょうね」
「えっ」
霊体に攻撃をあてるなど、と思いつつ、サーラの拳ならきっと当たるかもしれない。そう思ってキュッリッキはガクブルしながら生唾を飲み込んだ。
悲しさ半分、色々プラス怒り半分、というのが、今のサーラの心境だろうとキュッリッキは思った。
「ふぅ~、今日は星空も大盤振る舞いね。ほら見て、星の大河もあるでしょう」
二人はデッキチェアに深々と寝そべり、空を彩る星星を見つめた。
濃紺の夜空に煌く星たちは、皇都から見るよりもずっと明るく綺麗で、大きさも輝きも全然違っていた。光が雨のように降ってきそうで、それを想像すると自然と笑みがこぼれた。
「レディたち、お風呂が沸いたよー。一緒に入ってきたらどうかな」
家の方からリクハルドが叫んでいた。
「そうね、一緒に入りましょうか。ウチのお風呂結構広いのよ」
「はいっ」
キュッリッキとメルヴィンは、とても広いゲストルームに案内された。
大きな窓が海に面していて、開け放たれた窓からは、潮騒が絶えず聞こえていた。
ベビードールの寝巻きに着替えたキュッリッキは、蚊帳をめくりあげてベッドに飛び込む。洗いたての枕カバーやシーツからは、おひさまの匂いがした。
「気持ちがいいの~」
うつぶせになってはしゃぐキュッリッキを見て、メルヴィンも微笑んだ。
「ベルトルドさんは、ここで生まれ育ったんだね。青い海で遊んで、明るい星空を見上げて。リクハルドさんの美味しいご飯を食べて、サーラさんに怒られて」
「そうですね」
キュッリッキの横に寝そべり、メルヴィンは天井を見上げた。
「サーラさんと話してるとね、ベルトルドさんと話してるみたいな気分になっちゃった。ベルトルドさんって、サーラさん似なんだね」
「リクハルドさんにもよく似てましたよ……とくにこう、女性関連の話題になると、物凄く親子だなあ……と」
二人は顔を見合わせ、そして吹き出した。
「ベルトルドさんは、両方に似てるんだね」
「紛れもなく親子ですね、ホント」
ひとしきり笑うと、二人はなんとなく黙り込んだ。
灯りがなくても、星と月明かりでこんなにも室内は明るい。穏やかな波の音も、聞いていると癒される気分になった。
「アタシね、本当はここへくるの、ちょっとイヤだったの…」
メルヴィンに腕枕をしてもらいながら、キュッリッキはメルヴィンにぴったりと寄り添った。
「ベルトルドさんやアルカネットさんのことを思い出して、涙が止まんなくなっちゃうって思ったから。いろんなこと思い出して、頭グチャグチャしちゃうって……でもね、来てよかった」
「リッキー…」
「サーラさんにいっぱい話をして、聞いてもらったからかな。ちょっとだけ心が軽くなった気持ちがするの」
「”母親”というものに、安心感を持ったんでしょう、多分ですが」
「……うん、そうだね。きっと、そうだと思う」
ベルトルドやアルカネットとは違い、もっとキュッリッキの気持ちに寄り添ったアドバイスや回答をしてくれた。女同士というのもあるし、サーラは母親という立場に身を置くから、母親としての視点から言ってくれたこともあるだろう。
「そっかあ…。あれが、お母さん、ていうものなんだね」
父親も母親も、キュッリッキはどんなものか知らない。自分を捨てる存在だとしか認識していないからだ。
いつか、自分も母親という存在になる日がくるのだろうか。もしそうなったとき、自分は母親を、やっていけるのだろうか。
今はまだ、自信が持てそうもなかった。
「さあ、寝ましょう」
「うん。おやすみメルヴィン」
「おやすみなさい」
メルヴィンはキュッリッキをしっかり抱きしめ、頭にキスをして目を閉じた。
闇の中に、聴き慣れた声がする。
その声は、自分を呼んでいた。
――さあリッキー、目を覚ましてごらん。
優しいその声に、キュッリッキはゆっくりと目を開いた。
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