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最終章 永遠の翼
episode806
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リュリュから話を聞き終えた6人の親たちは、様々な表情をたたえて黙り込んでしまった。
「オレたちのリューディアの死が、二人をそこまで追い込んでしまったなんて…」
真っ先に口を開いたクスタヴィは、沈んだ表情で、手にしていた古ぼけた写真をそっと撫でる。
「気にすることはないのよクスタヴィ。ベルトルドもアルカネットちゃんも、もう立派な大人よ。自分たちで選んだことで死んだのなら、本望でしょう」
どこか拗ねるような顔をしながら、サーラはきっぱりと言い切った。
「それに、なんの関係もなかったキュッリッキちゃんを巻き込んで、辛い目に遭わせてしまったことを、あの子の親として心からお詫びするわ。本当にごめんなさいね」
サーラに頭を下げられ、キュッリッキは小さく首を横に振った。
「大丈夫なの。ベルトルドさんもアルカネットさんも、謝ってくれたし。今はメルヴィンが一緒にいてくれるから、もう大丈夫」
キュッリッキはメルヴィンの手をきゅっと握ると、サーラに柔らかく微笑んだ。そんなキュッリッキの顔を見て、サーラは救われたように微笑み返し、何度も頷いた。
「あの子がここにいたら、ジャンピング・ニーパットからムーンサルトプレス、とどめにパイルドライバーね」
「あらあらサーラちゃん、逆エビ固めも使っておかなきゃ…」
握り拳で物騒なことを言うサーラに、レンミッキが暗い笑みを浮かべて参戦する。
「ベルトルドとアルカネットが生きてここに帰ってきたら、100パーセント実行されるところだよ」
小声でリクハルドが言い、イスモも同意するように深く頷いた。
「深い血のつながりを感じるかも…」
薄笑いを浮かべ、キュッリッキは呟いた。ロキの血は、この二人の母親が継いでいるのだから。
「ところでリュリュ、今日は泊まっていけるんだろう?」
遠慮がちにクスタヴィが割って入ると、リュリュは壁にかけられた時計に目を向ける。
「そうねえ……今から急げば船に間に合うから、泊まっていく必要はないかしら」
「そんな」
カーリナが悲しそうに声を上げると、
「もう! 泊まっていきなさい3人とも!」
ずずいっと身を乗り出し、サーラが奮然と言う。
「リュリュちゃんは自分の家へ、キュッリッキちゃんとメルヴィン君は、ウチに泊まってちょうだいね」
「皇都復興やら他にも業務があ…」
「いい加減もう、許してあげなさい!」
両手を腰に当てて、サーラは深々とため息をついた。
「あれからもう31年も経ったのよ。二人はずうっと反省しているし、それに私たちも老いたわ。外見はどうあれ、寿命はヴィプネン族もアイオン族も、同じなのよ」
クスタヴィとカーリナは、縋るようにリュリュを見つめた。
「ベルトルドもアルカネットちゃんも死んでしまった。この島の子供で生きているのはリュリュちゃん、あなただけになってしまったわ」
「サーラおばちゃん…」
「全部でなくていいの、ちょっとずつ話をして、今度帰ってくるときに笑顔でただいまって言えるように、今日から話し合っていきなさい」
リュリュはちらりと両親を見て、小さく嘆息した。そしてサーラを見上げ、苦笑し頷く。
「そうね、そうするわ」
サーラはにっこりと笑った。
「でも、明日には帰らせて。アタシほんとに仕事が山積みなのよ、ベルとアルのせいで」
「そのことはもう、ごめんなさいね。この箱、生ゴミ捨て場に埋めてきていいわよ」
我が子の遺灰の詰まった箱を取り上げ、リュリュに差し出す。
「……さすがにお墓に埋めてあげて、サーラおばちゃん…」
「あら、そう? 残念ねえ」
(やっぱり親子だ……)
メルヴィンは背中で汗をかきながら、内心げっそり呟いた。
「さあさあみんな、こっちへおいで。ベルトルドとアルカネットのお別れ会をしよう」
キッチンからリクハルドが大声で呼んだ。
「昨日から沢山料理を仕込んであるんだ。沢山食べて、沢山飲んで、懐かしい話でもしようか」
「そうね、そうしましょ」
サーラはキュッリッキとメルヴィンの手を取ると、ニッコリと笑った。
「さあ、いらっしゃい」
「オレたちのリューディアの死が、二人をそこまで追い込んでしまったなんて…」
真っ先に口を開いたクスタヴィは、沈んだ表情で、手にしていた古ぼけた写真をそっと撫でる。
「気にすることはないのよクスタヴィ。ベルトルドもアルカネットちゃんも、もう立派な大人よ。自分たちで選んだことで死んだのなら、本望でしょう」
どこか拗ねるような顔をしながら、サーラはきっぱりと言い切った。
「それに、なんの関係もなかったキュッリッキちゃんを巻き込んで、辛い目に遭わせてしまったことを、あの子の親として心からお詫びするわ。本当にごめんなさいね」
サーラに頭を下げられ、キュッリッキは小さく首を横に振った。
「大丈夫なの。ベルトルドさんもアルカネットさんも、謝ってくれたし。今はメルヴィンが一緒にいてくれるから、もう大丈夫」
キュッリッキはメルヴィンの手をきゅっと握ると、サーラに柔らかく微笑んだ。そんなキュッリッキの顔を見て、サーラは救われたように微笑み返し、何度も頷いた。
「あの子がここにいたら、ジャンピング・ニーパットからムーンサルトプレス、とどめにパイルドライバーね」
「あらあらサーラちゃん、逆エビ固めも使っておかなきゃ…」
握り拳で物騒なことを言うサーラに、レンミッキが暗い笑みを浮かべて参戦する。
「ベルトルドとアルカネットが生きてここに帰ってきたら、100パーセント実行されるところだよ」
小声でリクハルドが言い、イスモも同意するように深く頷いた。
「深い血のつながりを感じるかも…」
薄笑いを浮かべ、キュッリッキは呟いた。ロキの血は、この二人の母親が継いでいるのだから。
「ところでリュリュ、今日は泊まっていけるんだろう?」
遠慮がちにクスタヴィが割って入ると、リュリュは壁にかけられた時計に目を向ける。
「そうねえ……今から急げば船に間に合うから、泊まっていく必要はないかしら」
「そんな」
カーリナが悲しそうに声を上げると、
「もう! 泊まっていきなさい3人とも!」
ずずいっと身を乗り出し、サーラが奮然と言う。
「リュリュちゃんは自分の家へ、キュッリッキちゃんとメルヴィン君は、ウチに泊まってちょうだいね」
「皇都復興やら他にも業務があ…」
「いい加減もう、許してあげなさい!」
両手を腰に当てて、サーラは深々とため息をついた。
「あれからもう31年も経ったのよ。二人はずうっと反省しているし、それに私たちも老いたわ。外見はどうあれ、寿命はヴィプネン族もアイオン族も、同じなのよ」
クスタヴィとカーリナは、縋るようにリュリュを見つめた。
「ベルトルドもアルカネットちゃんも死んでしまった。この島の子供で生きているのはリュリュちゃん、あなただけになってしまったわ」
「サーラおばちゃん…」
「全部でなくていいの、ちょっとずつ話をして、今度帰ってくるときに笑顔でただいまって言えるように、今日から話し合っていきなさい」
リュリュはちらりと両親を見て、小さく嘆息した。そしてサーラを見上げ、苦笑し頷く。
「そうね、そうするわ」
サーラはにっこりと笑った。
「でも、明日には帰らせて。アタシほんとに仕事が山積みなのよ、ベルとアルのせいで」
「そのことはもう、ごめんなさいね。この箱、生ゴミ捨て場に埋めてきていいわよ」
我が子の遺灰の詰まった箱を取り上げ、リュリュに差し出す。
「……さすがにお墓に埋めてあげて、サーラおばちゃん…」
「あら、そう? 残念ねえ」
(やっぱり親子だ……)
メルヴィンは背中で汗をかきながら、内心げっそり呟いた。
「さあさあみんな、こっちへおいで。ベルトルドとアルカネットのお別れ会をしよう」
キッチンからリクハルドが大声で呼んだ。
「昨日から沢山料理を仕込んであるんだ。沢山食べて、沢山飲んで、懐かしい話でもしようか」
「そうね、そうしましょ」
サーラはキュッリッキとメルヴィンの手を取ると、ニッコリと笑った。
「さあ、いらっしゃい」
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