片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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最終章 永遠の翼

episode803

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 明るい陽の光に起こされて、メルヴィンはゆっくりと目を覚ました。プライベートバルコニーのほうから、室内いっぱいに陽光が射し込んでいる。寝る前にカーテンを閉め忘れたようだ。

 腕の中を見ると、キュッリッキはまだ眠っていた。とても穏やかな寝顔だ。

 無防備で愛らしい寝顔を見つめ、起こさないようにじっとする。

 リュリュが手配してくれたこの部屋は、この船で最上級のスイートルームだった。とても船の中とは思えないほど、贅を凝らした内装である。一介の傭兵風情が泊まれるような部屋ではないが、キュッリッキと一緒になるということは、こうした上流環境もセットでついてくるということになるのだ。

 一昨日見せられた書類の中身を思い出し、メルヴィンは軽いめまいを感じてため息をついた。

「う…ん…」

 身じろぎして瞼を震わせると、キュッリッキは目を覚ました。

「すみません、起こしちゃいましたね」

 申し訳なさそうに言うメルヴィンの顔を見上げ、キュッリッキは小さく微笑む。

「……んーん、もうそろそろ6時じゃないかな」

 サイドテーブルに置かれた時計を見て、メルヴィンは苦笑する。

 黄金でできた針は、まさに6時を指そうとしていたからだ。

「リッキーの体内時計は、ほんと正確ですね」

「えへへ、習慣だもん」

 キュッリッキはくすっと笑い、そして自分からメルヴィンにキスをした。

「もうちょっと、こうしていたいなあ~」

「かまいませんよ」

 嬉しそうに微笑むと、キュッリッキを抱き寄せ、額に口付ける。

 二人はしばらく抱き合いながら横たわっていたが、突然ドアをノックする音がして顔を見合わせた。

「オレが出てきます」

 メルヴィンは身体を起こすと、裸の上にバスローブを羽織ってドアを開けた。

「オハヨウ、よく眠れたかしらん?」

「おはようございます。とてもよく眠れました」

 すでに身支度を整えているリュリュだった。

 その姿をじっと見つめ、メルヴィンは目を瞬かせる。

「ん?」

「あ、いえ…その…」

「なぁによぅ?」

「……私服も男物を着るんですね…」

 リュリュは表情を動かさず、メルヴィンの頭をチョップした。

「オカマが男物着ちゃ悪い?」

「い、いえ、そんなことは」

 淡い若草色のコットンの半袖シャツに、白いスラックス姿である。ごく普通の、夏場の男性の服装だ。

 いつも化粧はバッチリしているが、女性の服装をしている姿は一度も見たことがなかった。

「外見で性別を主張することはヤメたの。ベルたちとハワドウレ皇国の学校へ進学する頃にね。どんなに外見を変えようと、身体は男だもの。でも、アタシは女よ。自分でそのことがちゃんと判っていればいいわ。メイクは欠かせないけどネ」

 なるほど、とメルヴィンは生真面目な顔で頷いた。

「性転換しようかとだいぶ悩んだンだけど……て、ンもう、話が脱線しちゃったじゃない。7時には朝食が食べられるから、支度していらっしゃい」

「判りました」

「それとあーた」

「はい?」

「昨夜は小娘に手を出さないようにって言ったでしょ」

 バスローブからはだけて見える鍛えられた逞しい胸に視線を固定させ、リュリュは叱るように言う。

「ちっ、違いますって! 暑いので裸で寝ていただけです。やってません!」

 顔を赤らめて慌てるメルヴィンに、リュリュはくすくすと笑う。

「あーたのアレ、ベルのモノに匹敵するほど立派だから、あんまり毎日やると、小娘壊れちゃうからホドホドにネ」

「リュリュさんっ!」

「ハイハイ。早く着替えていらっしゃいね」

 からかうような笑い声を立てて、リュリュはダイニングのほうへ歩いて行った。

 渋面でリュリュを見送って部屋に戻ると、ベッドの上に座って、キュッリッキが首をかしげていた。

「何を話していたの?」

 たっぷり間を置いて、メルヴィンはガックリ肩を落とした。

「……ええと……朝食は7時からだそうです」

「ふにゅ?」

「あと30分くらいですね、着替えましょうか」

「うん…」

 思いっきり疲れた表情で言うメルヴィンを、キュッリッキはひたすら不思議そうに見つめていた。
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