866 / 882
最終章 永遠の翼
episode803
しおりを挟む
明るい陽の光に起こされて、メルヴィンはゆっくりと目を覚ました。プライベートバルコニーのほうから、室内いっぱいに陽光が射し込んでいる。寝る前にカーテンを閉め忘れたようだ。
腕の中を見ると、キュッリッキはまだ眠っていた。とても穏やかな寝顔だ。
無防備で愛らしい寝顔を見つめ、起こさないようにじっとする。
リュリュが手配してくれたこの部屋は、この船で最上級のスイートルームだった。とても船の中とは思えないほど、贅を凝らした内装である。一介の傭兵風情が泊まれるような部屋ではないが、キュッリッキと一緒になるということは、こうした上流環境もセットでついてくるということになるのだ。
一昨日見せられた書類の中身を思い出し、メルヴィンは軽いめまいを感じてため息をついた。
「う…ん…」
身じろぎして瞼を震わせると、キュッリッキは目を覚ました。
「すみません、起こしちゃいましたね」
申し訳なさそうに言うメルヴィンの顔を見上げ、キュッリッキは小さく微笑む。
「……んーん、もうそろそろ6時じゃないかな」
サイドテーブルに置かれた時計を見て、メルヴィンは苦笑する。
黄金でできた針は、まさに6時を指そうとしていたからだ。
「リッキーの体内時計は、ほんと正確ですね」
「えへへ、習慣だもん」
キュッリッキはくすっと笑い、そして自分からメルヴィンにキスをした。
「もうちょっと、こうしていたいなあ~」
「かまいませんよ」
嬉しそうに微笑むと、キュッリッキを抱き寄せ、額に口付ける。
二人はしばらく抱き合いながら横たわっていたが、突然ドアをノックする音がして顔を見合わせた。
「オレが出てきます」
メルヴィンは身体を起こすと、裸の上にバスローブを羽織ってドアを開けた。
「オハヨウ、よく眠れたかしらん?」
「おはようございます。とてもよく眠れました」
すでに身支度を整えているリュリュだった。
その姿をじっと見つめ、メルヴィンは目を瞬かせる。
「ん?」
「あ、いえ…その…」
「なぁによぅ?」
「……私服も男物を着るんですね…」
リュリュは表情を動かさず、メルヴィンの頭をチョップした。
「オカマが男物着ちゃ悪い?」
「い、いえ、そんなことは」
淡い若草色のコットンの半袖シャツに、白いスラックス姿である。ごく普通の、夏場の男性の服装だ。
いつも化粧はバッチリしているが、女性の服装をしている姿は一度も見たことがなかった。
「外見で性別を主張することはヤメたの。ベルたちとハワドウレ皇国の学校へ進学する頃にね。どんなに外見を変えようと、身体は男だもの。でも、アタシは女よ。自分でそのことがちゃんと判っていればいいわ。メイクは欠かせないけどネ」
なるほど、とメルヴィンは生真面目な顔で頷いた。
「性転換しようかとだいぶ悩んだンだけど……て、ンもう、話が脱線しちゃったじゃない。7時には朝食が食べられるから、支度していらっしゃい」
「判りました」
「それとあーた」
「はい?」
「昨夜は小娘に手を出さないようにって言ったでしょ」
バスローブからはだけて見える鍛えられた逞しい胸に視線を固定させ、リュリュは叱るように言う。
「ちっ、違いますって! 暑いので裸で寝ていただけです。やってません!」
顔を赤らめて慌てるメルヴィンに、リュリュはくすくすと笑う。
「あーたのアレ、ベルのモノに匹敵するほど立派だから、あんまり毎日やると、小娘壊れちゃうからホドホドにネ」
「リュリュさんっ!」
「ハイハイ。早く着替えていらっしゃいね」
からかうような笑い声を立てて、リュリュはダイニングのほうへ歩いて行った。
渋面でリュリュを見送って部屋に戻ると、ベッドの上に座って、キュッリッキが首をかしげていた。
「何を話していたの?」
たっぷり間を置いて、メルヴィンはガックリ肩を落とした。
「……ええと……朝食は7時からだそうです」
「ふにゅ?」
「あと30分くらいですね、着替えましょうか」
「うん…」
思いっきり疲れた表情で言うメルヴィンを、キュッリッキはひたすら不思議そうに見つめていた。
腕の中を見ると、キュッリッキはまだ眠っていた。とても穏やかな寝顔だ。
無防備で愛らしい寝顔を見つめ、起こさないようにじっとする。
リュリュが手配してくれたこの部屋は、この船で最上級のスイートルームだった。とても船の中とは思えないほど、贅を凝らした内装である。一介の傭兵風情が泊まれるような部屋ではないが、キュッリッキと一緒になるということは、こうした上流環境もセットでついてくるということになるのだ。
一昨日見せられた書類の中身を思い出し、メルヴィンは軽いめまいを感じてため息をついた。
「う…ん…」
身じろぎして瞼を震わせると、キュッリッキは目を覚ました。
「すみません、起こしちゃいましたね」
申し訳なさそうに言うメルヴィンの顔を見上げ、キュッリッキは小さく微笑む。
「……んーん、もうそろそろ6時じゃないかな」
サイドテーブルに置かれた時計を見て、メルヴィンは苦笑する。
黄金でできた針は、まさに6時を指そうとしていたからだ。
「リッキーの体内時計は、ほんと正確ですね」
「えへへ、習慣だもん」
キュッリッキはくすっと笑い、そして自分からメルヴィンにキスをした。
「もうちょっと、こうしていたいなあ~」
「かまいませんよ」
嬉しそうに微笑むと、キュッリッキを抱き寄せ、額に口付ける。
二人はしばらく抱き合いながら横たわっていたが、突然ドアをノックする音がして顔を見合わせた。
「オレが出てきます」
メルヴィンは身体を起こすと、裸の上にバスローブを羽織ってドアを開けた。
「オハヨウ、よく眠れたかしらん?」
「おはようございます。とてもよく眠れました」
すでに身支度を整えているリュリュだった。
その姿をじっと見つめ、メルヴィンは目を瞬かせる。
「ん?」
「あ、いえ…その…」
「なぁによぅ?」
「……私服も男物を着るんですね…」
リュリュは表情を動かさず、メルヴィンの頭をチョップした。
「オカマが男物着ちゃ悪い?」
「い、いえ、そんなことは」
淡い若草色のコットンの半袖シャツに、白いスラックス姿である。ごく普通の、夏場の男性の服装だ。
いつも化粧はバッチリしているが、女性の服装をしている姿は一度も見たことがなかった。
「外見で性別を主張することはヤメたの。ベルたちとハワドウレ皇国の学校へ進学する頃にね。どんなに外見を変えようと、身体は男だもの。でも、アタシは女よ。自分でそのことがちゃんと判っていればいいわ。メイクは欠かせないけどネ」
なるほど、とメルヴィンは生真面目な顔で頷いた。
「性転換しようかとだいぶ悩んだンだけど……て、ンもう、話が脱線しちゃったじゃない。7時には朝食が食べられるから、支度していらっしゃい」
「判りました」
「それとあーた」
「はい?」
「昨夜は小娘に手を出さないようにって言ったでしょ」
バスローブからはだけて見える鍛えられた逞しい胸に視線を固定させ、リュリュは叱るように言う。
「ちっ、違いますって! 暑いので裸で寝ていただけです。やってません!」
顔を赤らめて慌てるメルヴィンに、リュリュはくすくすと笑う。
「あーたのアレ、ベルのモノに匹敵するほど立派だから、あんまり毎日やると、小娘壊れちゃうからホドホドにネ」
「リュリュさんっ!」
「ハイハイ。早く着替えていらっしゃいね」
からかうような笑い声を立てて、リュリュはダイニングのほうへ歩いて行った。
渋面でリュリュを見送って部屋に戻ると、ベッドの上に座って、キュッリッキが首をかしげていた。
「何を話していたの?」
たっぷり間を置いて、メルヴィンはガックリ肩を落とした。
「……ええと……朝食は7時からだそうです」
「ふにゅ?」
「あと30分くらいですね、着替えましょうか」
「うん…」
思いっきり疲れた表情で言うメルヴィンを、キュッリッキはひたすら不思議そうに見つめていた。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる