片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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最終章 永遠の翼

episode802

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 見つめていた天井が急にメルヴィンの顔になって、キュッリッキは目を見開いた。

「そういえば、フェンリルとフローズヴィトニルはどうしたんですか? 彼らを見かけないんですが」

「アタシたちに遠慮して、アタシの影に潜んでいるんだって」

「え」

「それくらいの気、ちゃんと使うんだぞって言ってたよ」

「な、なるほど」

 今にして思えば、キュッリッキを初めて抱いた昨日の夜、あの2匹の神は同じ部屋にいたようなと気づいて、メルヴィンは赤面した。

 絶頂を迎えてキュッリッキが意識を失うまで、熱く激しく睦みあったのだ。素面では到底口に出せない言葉も、たくさん言った気がする。

 メルヴィンは再びベッドに腰を下ろすと、困ったように頭を抱えた。

「どうしたの? メルヴィン」

「い…いえ…」

 キュッリッキは身体を起こすと、メルヴィンの背中に抱きついて、横から顔を覗き込んだ。

「フェンリルたちに会いたいなら呼ぼうか?」

「……そのままずっと、危険が起こるまで影に潜んでいてください」

 そう言って、メルヴィンは長い長い溜息を吐きだした。



 夕食の時間が近づいて、リュリュが迎えに来てくれた。

 荷物の中には、船で着るドレスも入っている。それを着ろとリュリュに言われて、キュッリッキはどうにかドレスを自力で着た。一人で着られるデザインを、リトヴァが選んでくれていたのだ。

 薄手のシルクで作られた、ノースリーブのシンプルなドレスだ。丈は膝上までしかなく、肩から裾に向けて、青の濃淡が綺麗なグラデーションになっている。胸元には、本物のダイアの粒が、銀砂のように散りばめられ、キュッリッキの白い肌と金色の髪がより映えて美しかった。

 リュリュとメルヴィンは、シンプルな半袖の白いシャツとスラックス姿で、3人はダイニングの特別席へ通された。

 豪華なフルコースが振舞われ、3人はとにかく無言で手を動かし続けた。

 忙しすぎて、食事もまともに食べていなかったのである。酒はそっちのけで、デザートまで全て平らげると、湯気の立つ紅茶を美味しそうに飲みながら、ようやくリュリュは言葉を発した。

「食欲なんてナイ、なんて思っていたけど、案外空腹だったのね。ひさしぶりにまともに食べた気がするわ」

「アタシも。一生懸命食べちゃった」

「そうですね。普段の倍くらい、食べきりましたねリッキー」

「えへへ」

「そんくらい普段からちゃんと食べなサイ。あーた細りすぎて貧血連発しちゃうわよ」

「ううん……あんまりお腹空かないから」

「目指せ子豚体型! て思いながら、高カロリーの甘いものでも毎日毎日食べてなさい」

「ぇー」

「それはちょっと……」

「どーせ、アイオン族は太らないんだから」

 肥満体型のアイオン族など、少なくとも惑星ヒイシでは見たことがない。

「ねえリュリュさん、ゼイルストラ・カウプンキってどんなとこ?」

 少し冷めてきたアップルティーを飲みながら、キュッリッキはサラリと話題を変える。

「そうねえ、惑星ヒイシで一番の海洋リゾート地ってとこかしら。この惑星に5つある自由都市の中で、一番外に開かれた自由都市ね」

 都市としての機能が全て集う大きなアーナンド島を中心に、住人たちの暮らす無数の小さな島々が集まる群島。別名ミーナ群島と呼ばれるそこを総称して、ゼイルストラ・カウプンキという。

「アタシ仕事でラッテ・カウプンキなら行ったことがあるよ。大陸の中にあったから、普通にちょっと大きい都市だったけど」

「そうね。海のど真ん中にあるのはゼイルストラとコケマキくらいなものよ。リゾート地だから、年がら年中賑わってるし、アーナンドに着いたら、そこから小型クルーズで1時間移動になるわ」

「ベルトルドさんの記憶で見たよ、シャシカラ島」

「ええ。アタシたちの生まれた、懐かしいあの島へね」

 ベルトルド、アルカネット、リュリュたちの両親3家族だけが暮らす島。

「アーナンド島の敷地はとても高いし、観光客で溢れかえってるから、アタシたちの家族はシャシカラ島を買って、生涯シャシカラ島で暮らすって決めたの。だから、ベルとアルのお墓は、シャシカラ島へ建てるのよ」

「リューディアのお墓もあるんだよね」

「ええ。ひさしぶりにお墓参り出来るわ、お姉ちゃん」

 リュリュは様々な感情をいり混ぜて、表情に浮かべていた。

 幼馴染で親友だった二人の遺灰を持って帰郷するのは、さぞ複雑な思いがあるだろう。両手で紅茶のカップをはさみ、もうからになった中身をジッと見つめ、時折苦笑いのようなものも口元に浮かんでいた。

「さて、アタシはバーで一杯引っ掛けて寝るから、あーたたちはもうお風呂に入って、ゆっくりおやすみなさいナ」

「うん、そうする」

「それとメルヴィン」

「はい?」

「小娘結構疲れてるから、今夜は手出しせず寝かせてあげなさいネ」

 ムフッとウインクされて、メルヴィンは耳まで顔を真っ赤にさせた。

「そ、そのくらいの分別はついてますっ!」

 声が裏返りながら言い返すと、キョトンとするキュッリッキの手を掴み、メルヴィンは憤然とダイニングを出て行った。

「案外、小娘からかうよりメルヴィン弄ったほうが楽しいかもねん」

 去りゆく二人の後ろ姿を見送りながら、リュリュは優しく微笑んだ。
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