片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
860 / 882
最終章 永遠の翼

episode797

しおりを挟む
「やれやれ、我らをこんな場所に呼び出すとは、相変わらずキュッリッキは突拍子もない子だね」

 なんだか嬉しそうな表情で、ロキが笑った。

「ごめんなさい」

 肩をすぼめて、キュッリッキは素直に謝る。そして真ん中に立つ初老の男を、喉を反り返して見上げた。

「お久しぶりです、ティワズ様、トール様」

「キュッリッキよ、何用じゃ」

 大地も海も震わせることのできる、雷のようなずしりとした声でトールが言い放つ。

 ティワズは優しい瞳でキュッリッキを見つめ、小さく頷いた。

「今日はね、ティワズ様とトール様にお願いがあるの。そして、ロキ様はその証人になってもらうの」

「なんじゃとぉ?」

 モップのようにゴワゴワと垂れ下がる黒い眉毛の下から、紫電の光をまとわりつかせた漆黒の瞳が、ギョロリとキュッリッキを見据える。

「証人かあ、それは面白そうだね」

 対照的に明るい青い瞳のロキは、人懐っこい笑顔をトールに向けた。

「まずはトール様。そこにいるリュリュさんに、いっぱい謝って!」

 少しも怯まないキュッリッキが、細い人差し指を呆気にとられているリュリュに向ける。

「なぜ儂が、あの人間に謝らねばならん?」

 トールは不思議そうに目を瞬かせた。

「トール様のミョルニルが、リュリュさんのお姉さんを殺したからだよ」

 リュリュはハッとなってキュッリッキを見つめ、次いでトールを見上げる。

「人間たちの世界でいうと、31年前にキミが一発振り下ろしたあの雷だね」

 思い出せずにいるトールに、ロキが嫌味っぽい笑みを口の端に乗せて言った。

「……ああ、禁忌を犯そうとした、あの娘のことか」

「そうそう、キミの咄嗟の判断で殺してしまった人間。そのせいで後になって我らの可愛いキュッリッキが、大迷惑を被ることになったんだよ」

「なにィ!?」

「アタシの大迷惑なんかどうだっていいのっ!! ちゃんと謝って、トール様!」

「ぐぬぬ…」

「ほらほら、謝りなよトール。じゃないと、キュッリッキに嫌われちゃうよ?」

「嫌っちゃうよ」

 ロキとキュッリッキに畳み掛けられ、トールは巌のような体躯を不快そうに揺すった。そして、ずっしりと鈍い動作で片膝を折ると、真っ黒な双眼でリュリュを見据えた。

「命を奪ったことは謝る。すまぬ」

 あまりにもサックリと素直に謝られ、リュリュは目をぱちくりさせて硬直した。

 神が非を認めて、人間に向けて謝った。

 目の前の巨人が、神であるということはイマイチ理解できていないまでも、なぜかリュリュは納得してしまっていた。謝ってもらったところで、リューディアは帰ってこないし、31年の時間も巻き戻ってこない。それでも、理不尽に姉を殺した真犯人が謝ったことで、ほんの少し、色々なことが報われたような思いも去来していた。

「あっはははは。神だって人間に謝ることあるんだよ。あのことは、やり過ぎだったって、トールも反省するトコがあったからね」

「そうなの?」

「ああ、対処法は色々あったのに、反射的に雷落としちゃったんだ。飛行技術をほかの人間の目に触れさせる前に、焼き捨ててしまおうとして、人間ごと…ネ」

 意外そうにするキュッリッキに、ロキが苦笑を滲ませ説明する。

「神でも、過ちはおかすものなのさ。でも、その過ちのせいで、後々キュッリッキが大変な目に遭ってしまって、キュッリッキにも謝らないといけないな、トールよ」

「むぅ…」

「アタシには謝らなくっていいよ。――ティワズ様には、お願いがあるの」

 先程から一言も発さないティワズを向いて、キュッリッキは真剣な眼差しを注いだ。

「人間たちに、飛行技術を返して欲しいの」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

処理中です...