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最終章 永遠の翼
episode796
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蒼天の元、喪服に身を包んだライオン傭兵団は、迎えに来た馬車にそれぞれ乗り込み、ハーメンリンナに連れて行かれた。
葬儀のために急遽セッティングされた大広場は、かつてモナルダ大陸戦争において、ベルトルドが盛大に式典を開いた場所でもある。
軍人たちはすでに整列し、乱れ一つ無い人間畑を築いていたが、その隣には黒いドレスに身を包んだ貴婦人たちが、手にハンカチを握り締め泣きじゃくっていた。
馬車から降りたライオン傭兵団は、所在無げに突っ立っている。
「お久しぶりですねえ、お嬢さん」
「あっ」
泣きはらした顔を声の方へ向けると、陽の光に白い毛を艶やかに光らせる、ブルーベル将軍が歩いてきた。
「白クマのおじいちゃん」
反射的にキュッリッキは、ブルーベル将軍のどっしりとした身体に抱きついた。
「可哀想に、目が真っ赤になっていますねえ」
「うん…」
キュッリッキの頭を優しく撫でながら、ブルーベル将軍は痛ましそうにキュッリッキを見つめる。
「久しいな、伯父貴」
腕を組みながら、ガエルが小さく会釈する。
「ガエル…。お前たちが閣下を、止めてくれたんだね」
「止めたのはキューリだ」
「そうか……」
ベルトルドたちの企みを知っていながら、ブルーベル将軍は止めるどころか協力してきた。その犠牲にキュッリッキがなることも知っていた。だから、キュッリッキも無事帰還した報告を聞き、その姿を見た瞬間、心の底から安堵した。自らの罪が許されたような錯覚に陥るほどに。
「さあお嬢さん、火葬が始まる前に、お二人にお別れをしてきなさい」
そっと促され、キュッリッキは壇上を振り向いた。
透明なガラスの柩に白い百合の花が敷かれ、その上にベルトルドとアルカネットが、それぞれ寝かされていた。
「うん…」
すでに壇に上がっていたリュリュに手招きされて、キュッリッキはゆっくりと階段をのぼった。一歩一歩のぼるたびに、心と身体が重く感じる。
リュリュのもとへたどり着いたら、ベルトルドとアルカネットと、本当に最後のお別れになってしまうから。だから、ゆっくり、ゆっくりと歩いた。
リュリュの傍らに立つと、泣きはらした目で、ガラスの柩をじっと見つめる。
ベルトルドとアルカネットは、別々の柩におさめられていた。
血の汚れも綺麗に清められ、軍服も新しいものを着せられていた。こうして見つめていると、二人はただ、眠っているだけのよう。
ベルトルドがいつも望んでいたキスをしてあげれば、すぐにでも目を覚ますかもしれない。そんな風に思うと涙ぐんでくる。
二人が死んで、まだそんなに日が経っているわけではない。
「ベルもアルも、綺麗になってるでしょ。ひと晩かけて綺麗にしてあげたのよ…」
キュッリッキにしか聞こえないほどひっそりとした声で、リュリュは悲しげに呟く。
どんな想いを持って、死体となった彼らと過ごしたのだろう。リュリュの横顔を痛ましく見つめた。
「……アタシね、ベルトルドさんに見せてもらったの。ベルトルドさん、アルカネットさん、リュリュさん、そしてリューディアの子供の頃の4人の思い出」
「そう…」
「リュリュさんが、一番辛いね」
「ふふっ、そうね……。長い分想いと記憶があって。でもね、うまく言葉に紡げないのよ。言いたいこと、沢山あるはずなのに」
「アタシは誰よりも付き合いが短いけど、ずっとずっと、昔から一緒にいたって思っちゃうくらい、二人がそばにいるのが、当たり前みたいに思ってた…。んーん、当たり前だった」
「とくにベルは、小娘と一緒にいる時が、一番幸せそうだった。あーたとメルヴィンがくっついたときは、そりゃもう花嫁の父みたいな表情(かお)して悔しがってたくらいネ」
キュッリッキは引きつった薄笑いを浮かべた。
「さあ、お別れを言ってあげて」
リュリュはキュッリッキの肩にそっと手を置いて、そして少し下がる。
大広場に居並ぶ人々が、キュッリッキを静かに見守る。
「ベルトルドさん、アルカネットさん、アタシ、こんな時、どんな風に言えばいいのか知らないの。作法とか教わったことないし、……葬儀って初めてだし、判んない……」
こぼれ落ちてくる涙を、手の甲で拭う。
「色んなこといっぱい言いたいけど、ちっとも整理できてない。だから、それはまた今度言うね。今は、ベルトルドさんとの約束を、果たそうと思う」
俯かせていた顔を上げると、キュッリッキは前方の空間に、ひたと目を向けた。
葬儀を行うと言われた時から、考えていたこと。
「絶対に、約束、守るの……」
虹色の光彩を散りばめた神秘の瞳が、光をどんどん強める。
キュッリッキの目は、アルケラを見ていた。
幾重にも折り重なる厚い雲をかきわけ、光り輝く黄金の雲の間をくぐり抜け、やがてその姿を捉え、それぞれ目が合う。
「来てください、ティワズ様、トール様、ロキ様!」
キュッリッキが叫ぶと、突如大広場の空間がぐにゃりと湾曲し、強烈な黄金の光が乱舞した。そして、大量の光の粒子を大広場に降り積もらせ、気づいた人々がギョッと目を見張るほどの巨人が3体、姿を現していた。
葬儀のために急遽セッティングされた大広場は、かつてモナルダ大陸戦争において、ベルトルドが盛大に式典を開いた場所でもある。
軍人たちはすでに整列し、乱れ一つ無い人間畑を築いていたが、その隣には黒いドレスに身を包んだ貴婦人たちが、手にハンカチを握り締め泣きじゃくっていた。
馬車から降りたライオン傭兵団は、所在無げに突っ立っている。
「お久しぶりですねえ、お嬢さん」
「あっ」
泣きはらした顔を声の方へ向けると、陽の光に白い毛を艶やかに光らせる、ブルーベル将軍が歩いてきた。
「白クマのおじいちゃん」
反射的にキュッリッキは、ブルーベル将軍のどっしりとした身体に抱きついた。
「可哀想に、目が真っ赤になっていますねえ」
「うん…」
キュッリッキの頭を優しく撫でながら、ブルーベル将軍は痛ましそうにキュッリッキを見つめる。
「久しいな、伯父貴」
腕を組みながら、ガエルが小さく会釈する。
「ガエル…。お前たちが閣下を、止めてくれたんだね」
「止めたのはキューリだ」
「そうか……」
ベルトルドたちの企みを知っていながら、ブルーベル将軍は止めるどころか協力してきた。その犠牲にキュッリッキがなることも知っていた。だから、キュッリッキも無事帰還した報告を聞き、その姿を見た瞬間、心の底から安堵した。自らの罪が許されたような錯覚に陥るほどに。
「さあお嬢さん、火葬が始まる前に、お二人にお別れをしてきなさい」
そっと促され、キュッリッキは壇上を振り向いた。
透明なガラスの柩に白い百合の花が敷かれ、その上にベルトルドとアルカネットが、それぞれ寝かされていた。
「うん…」
すでに壇に上がっていたリュリュに手招きされて、キュッリッキはゆっくりと階段をのぼった。一歩一歩のぼるたびに、心と身体が重く感じる。
リュリュのもとへたどり着いたら、ベルトルドとアルカネットと、本当に最後のお別れになってしまうから。だから、ゆっくり、ゆっくりと歩いた。
リュリュの傍らに立つと、泣きはらした目で、ガラスの柩をじっと見つめる。
ベルトルドとアルカネットは、別々の柩におさめられていた。
血の汚れも綺麗に清められ、軍服も新しいものを着せられていた。こうして見つめていると、二人はただ、眠っているだけのよう。
ベルトルドがいつも望んでいたキスをしてあげれば、すぐにでも目を覚ますかもしれない。そんな風に思うと涙ぐんでくる。
二人が死んで、まだそんなに日が経っているわけではない。
「ベルもアルも、綺麗になってるでしょ。ひと晩かけて綺麗にしてあげたのよ…」
キュッリッキにしか聞こえないほどひっそりとした声で、リュリュは悲しげに呟く。
どんな想いを持って、死体となった彼らと過ごしたのだろう。リュリュの横顔を痛ましく見つめた。
「……アタシね、ベルトルドさんに見せてもらったの。ベルトルドさん、アルカネットさん、リュリュさん、そしてリューディアの子供の頃の4人の思い出」
「そう…」
「リュリュさんが、一番辛いね」
「ふふっ、そうね……。長い分想いと記憶があって。でもね、うまく言葉に紡げないのよ。言いたいこと、沢山あるはずなのに」
「アタシは誰よりも付き合いが短いけど、ずっとずっと、昔から一緒にいたって思っちゃうくらい、二人がそばにいるのが、当たり前みたいに思ってた…。んーん、当たり前だった」
「とくにベルは、小娘と一緒にいる時が、一番幸せそうだった。あーたとメルヴィンがくっついたときは、そりゃもう花嫁の父みたいな表情(かお)して悔しがってたくらいネ」
キュッリッキは引きつった薄笑いを浮かべた。
「さあ、お別れを言ってあげて」
リュリュはキュッリッキの肩にそっと手を置いて、そして少し下がる。
大広場に居並ぶ人々が、キュッリッキを静かに見守る。
「ベルトルドさん、アルカネットさん、アタシ、こんな時、どんな風に言えばいいのか知らないの。作法とか教わったことないし、……葬儀って初めてだし、判んない……」
こぼれ落ちてくる涙を、手の甲で拭う。
「色んなこといっぱい言いたいけど、ちっとも整理できてない。だから、それはまた今度言うね。今は、ベルトルドさんとの約束を、果たそうと思う」
俯かせていた顔を上げると、キュッリッキは前方の空間に、ひたと目を向けた。
葬儀を行うと言われた時から、考えていたこと。
「絶対に、約束、守るの……」
虹色の光彩を散りばめた神秘の瞳が、光をどんどん強める。
キュッリッキの目は、アルケラを見ていた。
幾重にも折り重なる厚い雲をかきわけ、光り輝く黄金の雲の間をくぐり抜け、やがてその姿を捉え、それぞれ目が合う。
「来てください、ティワズ様、トール様、ロキ様!」
キュッリッキが叫ぶと、突如大広場の空間がぐにゃりと湾曲し、強烈な黄金の光が乱舞した。そして、大量の光の粒子を大広場に降り積もらせ、気づいた人々がギョッと目を見張るほどの巨人が3体、姿を現していた。
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