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最終章 永遠の翼
episode795
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「え…」
腫れぼったくなった目でリュリュの顔を見つめ、キュッリッキは小さく首をかしげる。
「あーたは二人にとって大切な家族だったのよ。――男と女の関係に持っていく、とか言い張っていたけど、どっからどう見ても親娘だったわ」
可愛くって可愛くってしょうがない、とキュッリッキを構う姿は、周りからは本当の親子だと見られていたベルトルドとアルカネット。血のつながりは全くないが、二人にとってキュッリッキは娘のようなものだ。
「あの二人のご両親は今も健在なんだけど、葬儀に間に合わないから、アタシと小娘が遺族代表として立ち会うの」
「葬儀はいつなんですか?」
メルヴィンの問いにリュリュはチラリと時計に目を向け、
「今日の正午よ」
「へ?」
「しょーがないのよ。葬儀に詰めかける面々の予定が全然合わなくて。今ダエヴァと軍の連中が総出でセッティングしてる頃ねん」
「いきなりすぎだろ……」
ギャリーがゲッソリと言う。
遺体は人間でも動物でも、必ず火葬にする。土葬にしないのは、疫病などの蔓延を避けるためであり、死者の魂が未練を残さないようにとの意味合いもある。
葬儀では火葬も同時に行い、その魂を参列者たちで見送る。灰は小箱のような柩に収められ、墓に埋められるのだ。
墓に収めるのはいつでもいいので、たいてい参列者が死者を弔う場は葬儀のみだ。
葬儀に使う場所は、街などに必ずある神殿で行う。神殿には火葬のための設備もある。しかし今回はハーメンリンナの中であり、ハーメンリンナにも神殿はあるが、参列者の数が神殿では収まりきれない。なので、急遽大広場にて行われることになり、軍は早朝から作業に取り掛かっていた。
「10時には迎えの馬車がくるわ。それまでにちゃんと用意して喪服着てらっしゃいね。アタシは準備があるから、もう行くわ」
渋面を作る面々を見て苦笑を浮かべると、リュリュは食堂を出て行った。
視線でリュリュを見送った一同は、思い思い食事を再開しつつ、ため息をもらす。
「感傷に浸る時間もあんまりないなあ…」
ルーファスはフォークでオムレツをつつきながら、端整な顔を悲しげに歪めた。
「もうちょっとしんみりしていたかったけど」
「灰になっても、しんみりできるだろ」
ザカリーは肩をすくめる。
「ン~まあねえ」
食の進まないフォークを置くと、ルーファスは頬杖をついた。
「世界中の美姫たちが大号泣するだろうなあ、正午には。ベルトルドさんもアルカネットさんも、すっごーいモテモテだったから」
「別に美姫だけじゃなく、醜女も普通も大号泣するんじゃね」
呆れたように言うザカリーに、食堂のあちこちから小さく乾いた笑いが漏れた。
「ベルトルドさんとアルカネットさんに、ちゃんとお別れ言えてない…」
「リッキー」
小さな声でぽつりと呟き、キュッリッキは空席になったベルトルドとアルカネットの席を見る。
「いつも優しく笑いかけてくれたの。優しい声でリッキーって呼んでくれたの。もう、笑いかけてくれない……リッキーって呼んでくれない……」
そう言って、再び泣き出してしまった。
キュッリッキの泣く姿を見ながら、胸に去来する想いに、皆それぞれの表情を浮かべて押し黙る。
「部屋へ戻りましょう、リッキー」
メルヴィンに優しく促され、小さく頷くと、キュッリッキは席を立ってメルヴィンと一緒に食堂を出て行った。
二人の姿を見送り、カーティスは紅茶のカップを皿に戻す。
「我々も遅れないよう、シャワーでも浴びて喪服に着替えましょうか。セヴェリさんすみません、我々の喪服か、以前着ていた軍服はありますか?」
「リュリュ様からお預かりして、皆様のお部屋に揃えて置いてございます」
「ありがとうございます」
カーティスは軽く頭を下げて礼を述べると席を立ち、それを合図に皆も席を立った。
腫れぼったくなった目でリュリュの顔を見つめ、キュッリッキは小さく首をかしげる。
「あーたは二人にとって大切な家族だったのよ。――男と女の関係に持っていく、とか言い張っていたけど、どっからどう見ても親娘だったわ」
可愛くって可愛くってしょうがない、とキュッリッキを構う姿は、周りからは本当の親子だと見られていたベルトルドとアルカネット。血のつながりは全くないが、二人にとってキュッリッキは娘のようなものだ。
「あの二人のご両親は今も健在なんだけど、葬儀に間に合わないから、アタシと小娘が遺族代表として立ち会うの」
「葬儀はいつなんですか?」
メルヴィンの問いにリュリュはチラリと時計に目を向け、
「今日の正午よ」
「へ?」
「しょーがないのよ。葬儀に詰めかける面々の予定が全然合わなくて。今ダエヴァと軍の連中が総出でセッティングしてる頃ねん」
「いきなりすぎだろ……」
ギャリーがゲッソリと言う。
遺体は人間でも動物でも、必ず火葬にする。土葬にしないのは、疫病などの蔓延を避けるためであり、死者の魂が未練を残さないようにとの意味合いもある。
葬儀では火葬も同時に行い、その魂を参列者たちで見送る。灰は小箱のような柩に収められ、墓に埋められるのだ。
墓に収めるのはいつでもいいので、たいてい参列者が死者を弔う場は葬儀のみだ。
葬儀に使う場所は、街などに必ずある神殿で行う。神殿には火葬のための設備もある。しかし今回はハーメンリンナの中であり、ハーメンリンナにも神殿はあるが、参列者の数が神殿では収まりきれない。なので、急遽大広場にて行われることになり、軍は早朝から作業に取り掛かっていた。
「10時には迎えの馬車がくるわ。それまでにちゃんと用意して喪服着てらっしゃいね。アタシは準備があるから、もう行くわ」
渋面を作る面々を見て苦笑を浮かべると、リュリュは食堂を出て行った。
視線でリュリュを見送った一同は、思い思い食事を再開しつつ、ため息をもらす。
「感傷に浸る時間もあんまりないなあ…」
ルーファスはフォークでオムレツをつつきながら、端整な顔を悲しげに歪めた。
「もうちょっとしんみりしていたかったけど」
「灰になっても、しんみりできるだろ」
ザカリーは肩をすくめる。
「ン~まあねえ」
食の進まないフォークを置くと、ルーファスは頬杖をついた。
「世界中の美姫たちが大号泣するだろうなあ、正午には。ベルトルドさんもアルカネットさんも、すっごーいモテモテだったから」
「別に美姫だけじゃなく、醜女も普通も大号泣するんじゃね」
呆れたように言うザカリーに、食堂のあちこちから小さく乾いた笑いが漏れた。
「ベルトルドさんとアルカネットさんに、ちゃんとお別れ言えてない…」
「リッキー」
小さな声でぽつりと呟き、キュッリッキは空席になったベルトルドとアルカネットの席を見る。
「いつも優しく笑いかけてくれたの。優しい声でリッキーって呼んでくれたの。もう、笑いかけてくれない……リッキーって呼んでくれない……」
そう言って、再び泣き出してしまった。
キュッリッキの泣く姿を見ながら、胸に去来する想いに、皆それぞれの表情を浮かべて押し黙る。
「部屋へ戻りましょう、リッキー」
メルヴィンに優しく促され、小さく頷くと、キュッリッキは席を立ってメルヴィンと一緒に食堂を出て行った。
二人の姿を見送り、カーティスは紅茶のカップを皿に戻す。
「我々も遅れないよう、シャワーでも浴びて喪服に着替えましょうか。セヴェリさんすみません、我々の喪服か、以前着ていた軍服はありますか?」
「リュリュ様からお預かりして、皆様のお部屋に揃えて置いてございます」
「ありがとうございます」
カーティスは軽く頭を下げて礼を述べると席を立ち、それを合図に皆も席を立った。
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