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最終章 永遠の翼
episode786
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ほんの数十分ほど前に、宇宙というところにいたライオン傭兵団は、ケレヴィル本部内にあるエグザイル・システムに無事たどり着いた。
エグザイル・システムはほんの一瞬で、人間も物も転送してくれる便利な装置だ。
1万年前の世界で作られた超巨大艦フリングホルニ内のエグザイル・システムの一つは、ケレヴィル本部の地下にあるエグザイル・システムと繋げられている。
どれだけの時間待っていてくれたのか、柔らかな笑みを浮かべるパウリ少佐に出迎えられ、ライオン傭兵団は広い応接室に通された。
一緒に戻ってきたシ・アティウスは、パウリ少佐と一緒に部屋を出て、どこかへ行ってしまった。
暫くしてリュリュも顔を見せたが、すぐに部屋を出て行った。
ソファセットや椅子、床の上に、皆思い思い座り込み、そして黙り込んだ。
とてつもない疲労感もあるが、それを上回るほどの喪失感。それがずっしりと彼らの上にのしかかっていて、いつものような軽快な冗談が飛び交うこともなく、各自うな垂れていた。
ザカリーは両手をズボンのポケットに突っ込んで窓際まで歩いていくと、よく磨かれた窓ガラスに額を押し付けた。
窓の外は日が陰り始めており、薄い水色とオレンジ色が重なり合い、ところどころ紫がかった夕暮れの色合いをしている。どこか寂しげで、切なさを齎す、そんな空だった。
それをぼんやりと見つめ、そして疲れたようにため息を小さくもらす。
「あっ、ベルトルドさん起こしてあげないと、もうすぐ夕食の時間だよ」
そこへ突然、ハッとした様子でキュッリッキが声を上げた。
「ねえメルヴィン、ベルトルドさんどこにいるの? 起こしてあげるの」
「リッキー……」
ソファに並んで座っていたメルヴィンは、キュッリッキを痛ましく見つめ、そしてもうベルトルドが起きることはないと、はっきり言わなければと口を開いた。その時、
「凄く疲れていたから、自然と起きるまで寝かせておいてあげよう。お腹がすいたら、きっと目を覚ますから」
キュッリッキの横に座ったタルコットが優しく言った。キュッリッキはちょっと首をかしげたが、こくりと頷く。
「そうなんだあ……じゃあ、起こさないほうがいいね」
「うん。それに、夕食が出来るまでまだ時間があるから、キューリもちょっと寝るといい。疲れてるだろ?」
「んー……ちょっとだけ眠いかも」
「ならメルヴィンに膝枕してもらって、夕食まで寝てて」
「そうする」
キュッリッキは嬉しそうに微笑んで、メルヴィンの膝に頭を乗せ横たわると、ほんの数秒で寝入ってしまった。
珍しくすぐ眠ってしまったキュッリッキを見つめ、メルヴィンはタルコットに困惑げな顔を向ける。
「タルコットさん……」
「まだ頑なに判らせなくていい。――キューリなりに、心にバリアを張ったんだと思う。色々辛すぎて、受け入れたくないんだ、今はね。急かさなくても、この先嫌でも現実と向き合わなくちゃならない」
「ええ…」
「だから、今は話を合わせてあげればいい」
「はい、そうですね…」
タルコットは妖艶な顔に優しい笑みを浮かべると、メルヴィンの肩を軽く叩いた。
「キューリの支えになれるのは、メルヴィンだけなんだから。頑張って」
「……ありがとうございます」
どこかホッとしたように、メルヴィンはタルコットに笑んだ。
3人のやり取りを息を詰めて見ていた仲間たちは、安堵の表情を浮かべた。
ライオン傭兵団は夜になるまで大放置されていたが、ようやくそこへ再びリュリュが姿を見せた。
「ゴメンナサイネ、ちょっと化粧崩れがひどくって、パウリに化粧ポーチ取ってきてもらってたりしたから、時間かかっちゃったのん」
いつも通りの見事で完璧な化粧で、顔はガードされている。
ベルトルドとアルカネットと、別れをしていたのだろう。リュリュの冗談めかした言い方を察し、皆肩をすくめるにとどめた。
「あら、小娘寝ちゃってるようね」
「だいぶ、疲れていますから…」
メルヴィンがそう言うと、リュリュは頷いた。
「そうね。一番疲れているでしょうねん」
「リュリュさん、オレすげー腹減ってんっすけど」
「あら、あーた感傷に浸ってお腹いっぱいじゃないの」
「気落ちしてる時は、たくさん食べる主義なんですよ」
「前向きな思考ねん」
本気で空腹を訴える表情のザカリーを見ながら、リュリュは呆れたように笑った。
「疲れてるあーたたちを、ここで休ませてあげたい気持ちは山々なんだけど、ケレヴィル本部には、大勢を寝かせる部屋がナイのよ。これでも一応、研究所だから」
「出て行くのはやぶさかじゃないんですが、その……アジトが木っ端微塵に吹っ飛ばされてますし…」
沈んだ声音で言うカーティスに、リュリュは苦笑する。
「あーたたちのアジトだけじゃないわ。ハーメンリンナの外は酷い有様よ。ナントカ火事はおさまったんだけど、広大な焼け野原と化しているわ」
ベルトルドの放った雷霆(ケラウノス)によって齎された大火災は、皇都イララクスの大半を焦土と化してしまっていた。死傷者も多く出て、平和なのはハーメンリンナの中だけ状態だという。
「それに、フリングホルニ発進の影響が世界各地に出ていて、皇国も救援だのなんだので、今ゴタゴタしてるわ、とっても。――ベルの置き土産のせいで、ホント、イヤんなっちゃう」
ギリッと歯ぎしりして、口の端を歪めたリュリュを、皆恐々と見つめる。
「ま、そんなことあーたたちには関係ないケドね。とりあえずアタシについてらっしゃい、連れて行きたいところがあるから」
エグザイル・システムはほんの一瞬で、人間も物も転送してくれる便利な装置だ。
1万年前の世界で作られた超巨大艦フリングホルニ内のエグザイル・システムの一つは、ケレヴィル本部の地下にあるエグザイル・システムと繋げられている。
どれだけの時間待っていてくれたのか、柔らかな笑みを浮かべるパウリ少佐に出迎えられ、ライオン傭兵団は広い応接室に通された。
一緒に戻ってきたシ・アティウスは、パウリ少佐と一緒に部屋を出て、どこかへ行ってしまった。
暫くしてリュリュも顔を見せたが、すぐに部屋を出て行った。
ソファセットや椅子、床の上に、皆思い思い座り込み、そして黙り込んだ。
とてつもない疲労感もあるが、それを上回るほどの喪失感。それがずっしりと彼らの上にのしかかっていて、いつものような軽快な冗談が飛び交うこともなく、各自うな垂れていた。
ザカリーは両手をズボンのポケットに突っ込んで窓際まで歩いていくと、よく磨かれた窓ガラスに額を押し付けた。
窓の外は日が陰り始めており、薄い水色とオレンジ色が重なり合い、ところどころ紫がかった夕暮れの色合いをしている。どこか寂しげで、切なさを齎す、そんな空だった。
それをぼんやりと見つめ、そして疲れたようにため息を小さくもらす。
「あっ、ベルトルドさん起こしてあげないと、もうすぐ夕食の時間だよ」
そこへ突然、ハッとした様子でキュッリッキが声を上げた。
「ねえメルヴィン、ベルトルドさんどこにいるの? 起こしてあげるの」
「リッキー……」
ソファに並んで座っていたメルヴィンは、キュッリッキを痛ましく見つめ、そしてもうベルトルドが起きることはないと、はっきり言わなければと口を開いた。その時、
「凄く疲れていたから、自然と起きるまで寝かせておいてあげよう。お腹がすいたら、きっと目を覚ますから」
キュッリッキの横に座ったタルコットが優しく言った。キュッリッキはちょっと首をかしげたが、こくりと頷く。
「そうなんだあ……じゃあ、起こさないほうがいいね」
「うん。それに、夕食が出来るまでまだ時間があるから、キューリもちょっと寝るといい。疲れてるだろ?」
「んー……ちょっとだけ眠いかも」
「ならメルヴィンに膝枕してもらって、夕食まで寝てて」
「そうする」
キュッリッキは嬉しそうに微笑んで、メルヴィンの膝に頭を乗せ横たわると、ほんの数秒で寝入ってしまった。
珍しくすぐ眠ってしまったキュッリッキを見つめ、メルヴィンはタルコットに困惑げな顔を向ける。
「タルコットさん……」
「まだ頑なに判らせなくていい。――キューリなりに、心にバリアを張ったんだと思う。色々辛すぎて、受け入れたくないんだ、今はね。急かさなくても、この先嫌でも現実と向き合わなくちゃならない」
「ええ…」
「だから、今は話を合わせてあげればいい」
「はい、そうですね…」
タルコットは妖艶な顔に優しい笑みを浮かべると、メルヴィンの肩を軽く叩いた。
「キューリの支えになれるのは、メルヴィンだけなんだから。頑張って」
「……ありがとうございます」
どこかホッとしたように、メルヴィンはタルコットに笑んだ。
3人のやり取りを息を詰めて見ていた仲間たちは、安堵の表情を浮かべた。
ライオン傭兵団は夜になるまで大放置されていたが、ようやくそこへ再びリュリュが姿を見せた。
「ゴメンナサイネ、ちょっと化粧崩れがひどくって、パウリに化粧ポーチ取ってきてもらってたりしたから、時間かかっちゃったのん」
いつも通りの見事で完璧な化粧で、顔はガードされている。
ベルトルドとアルカネットと、別れをしていたのだろう。リュリュの冗談めかした言い方を察し、皆肩をすくめるにとどめた。
「あら、小娘寝ちゃってるようね」
「だいぶ、疲れていますから…」
メルヴィンがそう言うと、リュリュは頷いた。
「そうね。一番疲れているでしょうねん」
「リュリュさん、オレすげー腹減ってんっすけど」
「あら、あーた感傷に浸ってお腹いっぱいじゃないの」
「気落ちしてる時は、たくさん食べる主義なんですよ」
「前向きな思考ねん」
本気で空腹を訴える表情のザカリーを見ながら、リュリュは呆れたように笑った。
「疲れてるあーたたちを、ここで休ませてあげたい気持ちは山々なんだけど、ケレヴィル本部には、大勢を寝かせる部屋がナイのよ。これでも一応、研究所だから」
「出て行くのはやぶさかじゃないんですが、その……アジトが木っ端微塵に吹っ飛ばされてますし…」
沈んだ声音で言うカーティスに、リュリュは苦笑する。
「あーたたちのアジトだけじゃないわ。ハーメンリンナの外は酷い有様よ。ナントカ火事はおさまったんだけど、広大な焼け野原と化しているわ」
ベルトルドの放った雷霆(ケラウノス)によって齎された大火災は、皇都イララクスの大半を焦土と化してしまっていた。死傷者も多く出て、平和なのはハーメンリンナの中だけ状態だという。
「それに、フリングホルニ発進の影響が世界各地に出ていて、皇国も救援だのなんだので、今ゴタゴタしてるわ、とっても。――ベルの置き土産のせいで、ホント、イヤんなっちゃう」
ギリッと歯ぎしりして、口の端を歪めたリュリュを、皆恐々と見つめる。
「ま、そんなことあーたたちには関係ないケドね。とりあえずアタシについてらっしゃい、連れて行きたいところがあるから」
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