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最終章 永遠の翼
episode784
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ガン泣きされるかと思いきや、どこか呆けたような顔で、キュッリッキはメルヴィンに抱きしめられ泣いていない。まだ死を受け入れられていないのだろう。むしろ、メルヴィンのほうが泣きそうな顔をしていた。
二人の様子を後ろの方で見つめながら、ルーファスは激しい喪失感に蝕まれていた。
「オレさ、ベルトルド様のこと、結構好きだったんだな~って、今頃思った」
「ほほう…」
隣にいたギャリーが、複雑な色に表情を歪めて相槌を打つ。
「やることなすことパワフルでおっかなかったけど、砕けて話しやすくって、なんのかんの、オレたちに甘い人だったなーっと」
「そぉねぇ~……。ちゃーんと、アタシたちのこと、見ててくれてたよねぇ」
ルーファスの言葉を受け、マリオンが呟いた。
「おっさんから解放されんの、オレたちの悲願だったのにな」
それなのに、なんでこんなに喪失感があるんだ、とザカリーは口を尖らせた。
「看取ることができて、よかったと思っています」
やや顔を俯かせたカーティスが、力なく言う。急に心にぽっかり穴が空いてしまったようで、虚しさこの上ない。
「いつか、死体に唾を吐いてやろう、そう思い続けてきたんですが、いざ目の前にするとそんな気分じゃありませんね…。言いたいことが山のようにあるのに、どれから言ってやればいいのか、上手く言葉になってくれません」
カーティスは深々とため息をつくと、顔をあげて表情を引き締めた。
「仕事は終わりました。もうこの場に用はありません。みなさん、戻りますよ」
「ああ…、そうだな」
ギャリーが頷くと、皆も小さく頷いた。
「アルカネットの亡骸は、俺が運ぼう」
ガエルはそう言って、アルカネットの方へと向かう。
「んじゃ、御大の遺体はオレが運ぶ」
ギャリーはシラーをザカリーに預け、ベルトルドの傍らに膝をついた。
「メルヴィンはキューリを頼むぞ」
「はい」
ギャリーがベルトルドの遺体を腕に抱えて立ち上がった、その時だった。
「あれは…?」
長い金髪に褐色の肌の、まだあどけなさの残る少女が、離れたところに佇んでいた。
「あの人は……リッキー」
メルヴィンは腕の中に抱き上げたキュッリッキを軽く揺さぶる。しかし、キュッリッキはぼうっとした表情で、ぴくりとも反応を示さなかった。
「ユリディス!」
足元のフェンリルが驚いたように叫ぶ。
「お久しぶりですね、フェンリル」
少女は柔らかな笑顔で、小さく首をかしげるようにした。そしてメルヴィンの腕の中のキュッリッキに視線を向ける。
「キュッリッキは、自失しているようですね。最後に少しお話できればと、思ったのですけれど」
「親代わりのような男を、たった今、失ったばかりだからな…」
「そうですか……」
ユリディスも悲しげに表情を曇らせた。
レディトゥス・システムの中でお別れをしたけど、でもやはりもう一度会いたいと出てきたが、タイミングが悪かったらしい。巫女を排除するために放ったユリディスの力は、ユリディスの意思から切り離されている。だから、ベルトルドたちとの戦いは知らなかった。
「しかしそなた、その姿は一体…?」
「レディトゥス・システムの力を使って、立体化しています」
立体化、という言葉に、フェンリルの表情に苦いものが広がる。否応なしに、ユリディスがすでに故人であるという事実を、叩きつけられたように思えるからだ。
「そうか…」
「おお、1万年前の最後の巫女のお姿を、こうして直に拝見することができるとは…」
そこへシ・アティウスの感極まった声が飛び込んできた。あまりにも唐突すぎて、ユリディスはちょっと困ったように、小さく笑うにとどめた。
「皆様お帰りになるようですね。では、お急ぎください、私はこの艦を爆破します」
「勿体無い!」
そう思わず叫んでしまい、シ・アティウスはハッとなって頭を掻いた。
「このようなものは、この世にあってはならないものなのです」
「確かにそうですね…失言でした」
「いえ。――惑星に影響のない宙域まで運んで、そこで爆破します。皆様はお戻りになったら、この艦とのエクザイル・システムを壊すようにお願いします」
「判りました」
もう一度ユリディスはキュッリッキを見つめる。
(強く、生きてくださいね、キュッリッキ)
「皆様の未来に、幸多きあらんことを」
二人の様子を後ろの方で見つめながら、ルーファスは激しい喪失感に蝕まれていた。
「オレさ、ベルトルド様のこと、結構好きだったんだな~って、今頃思った」
「ほほう…」
隣にいたギャリーが、複雑な色に表情を歪めて相槌を打つ。
「やることなすことパワフルでおっかなかったけど、砕けて話しやすくって、なんのかんの、オレたちに甘い人だったなーっと」
「そぉねぇ~……。ちゃーんと、アタシたちのこと、見ててくれてたよねぇ」
ルーファスの言葉を受け、マリオンが呟いた。
「おっさんから解放されんの、オレたちの悲願だったのにな」
それなのに、なんでこんなに喪失感があるんだ、とザカリーは口を尖らせた。
「看取ることができて、よかったと思っています」
やや顔を俯かせたカーティスが、力なく言う。急に心にぽっかり穴が空いてしまったようで、虚しさこの上ない。
「いつか、死体に唾を吐いてやろう、そう思い続けてきたんですが、いざ目の前にするとそんな気分じゃありませんね…。言いたいことが山のようにあるのに、どれから言ってやればいいのか、上手く言葉になってくれません」
カーティスは深々とため息をつくと、顔をあげて表情を引き締めた。
「仕事は終わりました。もうこの場に用はありません。みなさん、戻りますよ」
「ああ…、そうだな」
ギャリーが頷くと、皆も小さく頷いた。
「アルカネットの亡骸は、俺が運ぼう」
ガエルはそう言って、アルカネットの方へと向かう。
「んじゃ、御大の遺体はオレが運ぶ」
ギャリーはシラーをザカリーに預け、ベルトルドの傍らに膝をついた。
「メルヴィンはキューリを頼むぞ」
「はい」
ギャリーがベルトルドの遺体を腕に抱えて立ち上がった、その時だった。
「あれは…?」
長い金髪に褐色の肌の、まだあどけなさの残る少女が、離れたところに佇んでいた。
「あの人は……リッキー」
メルヴィンは腕の中に抱き上げたキュッリッキを軽く揺さぶる。しかし、キュッリッキはぼうっとした表情で、ぴくりとも反応を示さなかった。
「ユリディス!」
足元のフェンリルが驚いたように叫ぶ。
「お久しぶりですね、フェンリル」
少女は柔らかな笑顔で、小さく首をかしげるようにした。そしてメルヴィンの腕の中のキュッリッキに視線を向ける。
「キュッリッキは、自失しているようですね。最後に少しお話できればと、思ったのですけれど」
「親代わりのような男を、たった今、失ったばかりだからな…」
「そうですか……」
ユリディスも悲しげに表情を曇らせた。
レディトゥス・システムの中でお別れをしたけど、でもやはりもう一度会いたいと出てきたが、タイミングが悪かったらしい。巫女を排除するために放ったユリディスの力は、ユリディスの意思から切り離されている。だから、ベルトルドたちとの戦いは知らなかった。
「しかしそなた、その姿は一体…?」
「レディトゥス・システムの力を使って、立体化しています」
立体化、という言葉に、フェンリルの表情に苦いものが広がる。否応なしに、ユリディスがすでに故人であるという事実を、叩きつけられたように思えるからだ。
「そうか…」
「おお、1万年前の最後の巫女のお姿を、こうして直に拝見することができるとは…」
そこへシ・アティウスの感極まった声が飛び込んできた。あまりにも唐突すぎて、ユリディスはちょっと困ったように、小さく笑うにとどめた。
「皆様お帰りになるようですね。では、お急ぎください、私はこの艦を爆破します」
「勿体無い!」
そう思わず叫んでしまい、シ・アティウスはハッとなって頭を掻いた。
「このようなものは、この世にあってはならないものなのです」
「確かにそうですね…失言でした」
「いえ。――惑星に影響のない宙域まで運んで、そこで爆破します。皆様はお戻りになったら、この艦とのエクザイル・システムを壊すようにお願いします」
「判りました」
もう一度ユリディスはキュッリッキを見つめる。
(強く、生きてくださいね、キュッリッキ)
「皆様の未来に、幸多きあらんことを」
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