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最終章 永遠の翼
episode783
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「メルヴィン」
間髪入れず即答され、ベルトルドの顔に激しい落胆が広がる。
後ろで黙って成り行きを見守っていたライオン傭兵団の皆も、キュッリッキの迷いのなさに苦笑いが浮かんだ。――そこは容赦なしかい、と。
「オレの勝ちです」
キュッリッキの後ろに控えていたメルヴィンが、キッパリとした声でトドメを刺す。その発言に、ベルトルドはむくれた顔をしたが、やがて真顔になった。
「貴様のような青二才に託していくなど心外の極みだが、ほかに頼めそうな奴が見当たらないから、仕方なく任せてやる。――いいな、必ず全力で守り抜け」
「もちろんです。命にかえても絶対に」
「馬鹿者!」
ベルトルドは激しく一喝すると、眉を寄せて不快感をあらわにする。
「だから貴様は青二才なんだ! 貴様が死んだらそのあとはどうする? リッキーを独り遺して誰が守る。そう簡単に役割を代われる人間がどこにいるんだ。自分の命も守ってリッキーも守る、それが出来なければ金輪際リッキーに関わるな!」
「あ……、はい」
恥じ入ったようにメルヴィンは俯いた。それを見て、キュッリッキは身を乗り出す。
「メルヴィンいじめちゃダメなの!」
「違うんですよ、リッキー」
メルヴィンは自嘲して、キュッリッキの傍らに膝をつく。
ベルトルドはメルヴィンを認めた上で、共に生きていく覚悟を言っているのだ。不幸しか知らないキュッリッキを幸せと愛で満たし、必ず隣に居続ける、その覚悟を。
そう、自分が先に死んではならないのだ。絶対に――。
「全く、これでは心配で死んでも死にきれんな」
ベルトルドは小さくため息をつく。
「だが、そろそろ意識がヤバい」
キュッリッキはハッとなって、ベルトルドの肩を両手で掴む。
「必ずベルトルドさんのお願いを、神様たちに伝えるから。アタシ、ちゃんと伝えて、絶対叶えてもらうからね!」
「ああ、お願いだ」
キュッリッキの手が肩に触れていることすら、もうベルトルドは感じ取れていなかった。
「ベルトルドさんのこと大好きだからね!」
「嬉しいな、リッキー…」
まるで遠くから響くような感じで、キュッリッキの声が聞こえてくる。そして、波が引いていくように、声が遠ざかっていく。
「ベルトルドさん…死んじゃ…ヤなの…」
「……愛しているよ、リッキー…、永遠に愛して、いる…」
その後、声にならない言葉を小さく何事かつぶやき、ベルトルドの口は動かなくなった。
「ベルトルド…さん?」
ぽつりと呟くように言って、キュッリッキは小さくベルトルドの肩を揺すった。何度も、何度も、揺すり続けた。
「ねえ、ベルトルドさん」
「リッキー…」
見かねたメルヴィンが、そっとキュッリッキの手を掴み、揺することを止めさせる。
「ベルトルドさん寝ちゃったの。寝ちゃうと中々起きないんだよ、起こしてあげるの」
「いえ…このまま、寝かせてあげましょう、ね?」
「だって」
「リッキー」
メルヴィンはぎゅっと強くキュッリッキを抱きしめた。何故だか、無性に泣きたい気分だった。
最大のライバルが消えて、嬉し泣きをしたいのか。キュッリッキを脅かす存在が消えて、安堵して泣きたいのか。
どれも、違う。
ただ素直に、悲しい、と。
心がすでに泣いていた。
間髪入れず即答され、ベルトルドの顔に激しい落胆が広がる。
後ろで黙って成り行きを見守っていたライオン傭兵団の皆も、キュッリッキの迷いのなさに苦笑いが浮かんだ。――そこは容赦なしかい、と。
「オレの勝ちです」
キュッリッキの後ろに控えていたメルヴィンが、キッパリとした声でトドメを刺す。その発言に、ベルトルドはむくれた顔をしたが、やがて真顔になった。
「貴様のような青二才に託していくなど心外の極みだが、ほかに頼めそうな奴が見当たらないから、仕方なく任せてやる。――いいな、必ず全力で守り抜け」
「もちろんです。命にかえても絶対に」
「馬鹿者!」
ベルトルドは激しく一喝すると、眉を寄せて不快感をあらわにする。
「だから貴様は青二才なんだ! 貴様が死んだらそのあとはどうする? リッキーを独り遺して誰が守る。そう簡単に役割を代われる人間がどこにいるんだ。自分の命も守ってリッキーも守る、それが出来なければ金輪際リッキーに関わるな!」
「あ……、はい」
恥じ入ったようにメルヴィンは俯いた。それを見て、キュッリッキは身を乗り出す。
「メルヴィンいじめちゃダメなの!」
「違うんですよ、リッキー」
メルヴィンは自嘲して、キュッリッキの傍らに膝をつく。
ベルトルドはメルヴィンを認めた上で、共に生きていく覚悟を言っているのだ。不幸しか知らないキュッリッキを幸せと愛で満たし、必ず隣に居続ける、その覚悟を。
そう、自分が先に死んではならないのだ。絶対に――。
「全く、これでは心配で死んでも死にきれんな」
ベルトルドは小さくため息をつく。
「だが、そろそろ意識がヤバい」
キュッリッキはハッとなって、ベルトルドの肩を両手で掴む。
「必ずベルトルドさんのお願いを、神様たちに伝えるから。アタシ、ちゃんと伝えて、絶対叶えてもらうからね!」
「ああ、お願いだ」
キュッリッキの手が肩に触れていることすら、もうベルトルドは感じ取れていなかった。
「ベルトルドさんのこと大好きだからね!」
「嬉しいな、リッキー…」
まるで遠くから響くような感じで、キュッリッキの声が聞こえてくる。そして、波が引いていくように、声が遠ざかっていく。
「ベルトルドさん…死んじゃ…ヤなの…」
「……愛しているよ、リッキー…、永遠に愛して、いる…」
その後、声にならない言葉を小さく何事かつぶやき、ベルトルドの口は動かなくなった。
「ベルトルド…さん?」
ぽつりと呟くように言って、キュッリッキは小さくベルトルドの肩を揺すった。何度も、何度も、揺すり続けた。
「ねえ、ベルトルドさん」
「リッキー…」
見かねたメルヴィンが、そっとキュッリッキの手を掴み、揺することを止めさせる。
「ベルトルドさん寝ちゃったの。寝ちゃうと中々起きないんだよ、起こしてあげるの」
「いえ…このまま、寝かせてあげましょう、ね?」
「だって」
「リッキー」
メルヴィンはぎゅっと強くキュッリッキを抱きしめた。何故だか、無性に泣きたい気分だった。
最大のライバルが消えて、嬉し泣きをしたいのか。キュッリッキを脅かす存在が消えて、安堵して泣きたいのか。
どれも、違う。
ただ素直に、悲しい、と。
心がすでに泣いていた。
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