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最終章 永遠の翼
episode778
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「おっさん、ホントにスケールがデカすぎるっつーか…」
「もはやスケールとかいう問題じゃなくね??」
ルーファスの呟きに、ザカリーがツッコむ。
「短い人生でしたねえ…。せっかく傭兵界でのし上がってきたばかりだったのに。アジトは吹き飛ばされるし、こうして宇宙空間ってところまで飛んできちゃうし、目の前の壮大なファンタジーに殺されそうになっているし……」
まるでワイングラスを片手に、しみじみといった口調でカーティスに言われ、皆げんなりとため息をこぼした。
人間相手になら、こんな弱音は吐かない。何としてでも勝って生き延びる。しかし、相手は神だの化物だのの類である。専門外も甚だしい。
「キューリさん、本当にまいっちゃってるようだし、これは奇跡も起きないかもですね…」
メルヴィンに縋って泣いているキュッリッキを見つめ、シビルは諦めたように肩を落とした。
無数に出現した雷霆(ケラウノス)を見つめ、キュッリッキは絶望の眼差しを宙に彷徨わせた。
(どうしよう…どうしよう…、アタシだけじゃなく、みんなも巻き込まれて死んじゃう)
自分を強く抱きしめるメルヴィンも、あの力の前では儚く散ってしまう。
そうさせないために、今ここで、自分が踏ん張らなくてはならないのに。
なのに、頭の中は大混乱で、考え一つ浮かばない。
結局、ベルトルドを助けることもできず、みんなを死なせることにしかならないのだろうか。
自分に出来ることは、本当にもうないのだろうか。
涙で滲む目を見開いたその時、ひとりの男と目があった。
(あっ…)
男は無邪気な笑みをその端整な表情に浮かべ、キュッリッキに強く頷いた。
その瞬間、ドラゴンの周りに浮かんでいた雷霆(ケラウノス)が、全て光の粒子となって消えていった。
キュッリッキは手を前に差し伸べる。その差し伸べられた手を、眩いばかりの黄金の光が包み込み、徐々に膨らんで人の形になった。
「ロキ様」
ぽつりとキュッリッキは呟くと、光は弾け飛んで、男が現れた。
身長は2メートルを超え、二十代後半に差し掛かったくらいの容貌の男である。ニコニコと笑顔が絶えず、近寄りがたいというより、人懐っこさのある美貌をしていた。
「久しぶりだね、キュッリッキ」
「ロキ様…」
ロキと呼ばれた男は、掴んでいたキュッリッキの手を優しく引き寄せると、腰を落としてキュッリッキを抱きしめた。波打つ長い金色の髪から、絶えず光の粒子が雫のようにこぼれ落ちる。
「よく頑張ったね」
幼子を優しくあやすような口調で言うと、労わるように頭をそっと撫でた。優しくキュッリッキを見つめる青い瞳には、慈悲の光が溢れんばかりだ。
「ロキさまぁ…」
キュッリッキは大きくしゃくり上げると、ロキに縋って大きな泣き声をあげた。
「あやすのは、いつもティワズの役目なんだけど、今回は俺でゴメンな」
にこにこと笑いながら、ロキはその細い背中を優しくポンポンっと叩いた。そして、呆気にとられているメルヴィンに、ロキは小さくウィンクした。
「初めまして、キミがキュッリッキの恋人だね。彼女をよろしく頼むよ」
「え、あ、はい」
メルヴィンは困惑したように返事をすると、思わず頭を下げた。
「あはははは、真面目な性格だねえ」
泣き続けるキュッリッキの顔を上向かせて優しく微笑むと、そっとメルヴィンのほうへと追いやった。
「さてさて、この状況をどうにかしないと、これじゃキュッリッキでもお手上げだ」
ロキは両手を腰にあてると、ヤレヤレといった口調でため息をこぼす。
「スコル、ハティ、お前たちの手にも余りまくっただろうね」
先程から身を伏せて怯えているスコルとハティは、更に怯えの色を深めて目を閉じていた。
「そして、久しぶりだねえ、このバカ息子たち」
フェンリルとフローズヴィトニルに、ジロリとした視線を投げかけると、ロキは指をパチリと鳴らした。すると、フェンリルとフローズヴィトニルの巨体が、一瞬にして仔犬の姿になって床に転がった。
「いつまでも親の前で、親よりデカイ図体でボケッとするんじゃないよ」
冷ややかな口調で言われ、二匹は気まずそうな表情を隠そうともせず、ぺたりと座り込んだ。
「そして…、アレが例のドラゴンか。ユリディスの力は絶対だからねえ。それに、ふむふむ、懐かしいなあ、アウリスの血筋の者なんだね」
動きを完全に止めてしまっているドラゴンを見やり、ロキはウンウンと嬉しそうに何度も頷いていた。
「バカ息子たちと、息子の子孫に一度に会えるなんてねえ。感動の嵐でも吹き荒れるところだが、今回は説教だよ、フローズヴィトニル」
「ひいっ」
フローズヴィトニルは毛を逆立てて跳ね上がると、すぐさまフェンリルの後ろに逃げ込んだ。
「お前は、キュッリッキのお陰でエーリューズニルから抜け出すことができたんだよ。ヘルの元で改心したかと思えば、恩人であるキュッリッキへの暴言の数々。数万年も幽閉されていながら、全く変わらないとか、父として泣けてくるよ」
少しも泣けそうもない素っ気ない表情で、声音は相変わらず冷たいままに言い捨てる。
「おまけに巫女の命令を完全無視、半身のフェンリルの言うこともスルー、やはりお前のような悪い子は、エーリューズニルで永久に幽閉しているのがいいかもしれないな」
「それだけは、嫌だよー!!」
陰気で暗い館、美味しくもない屍人の肉、退屈極まりない過酷な環境。もう二度と、戻りたくなかった。
フローズヴィトニルは力いっぱいロキを睨みつける。相手が父親であろうと、もうエーリューズニルに戻されるのは絶対に嫌だった。
「いいかい、キュッリッキにはこの人間世界で、アルケラに住む者たちに対し、絶対の命令権を持つ。下位のものから最高位の我々神々に対してもだ。命令違反は処罰の対象となる。それをしないで放置してくれているのは、キュッリッキが優しい子だからだ。それをいいことに、お前は好き勝手し放題、暴言も吐き放題、反省の色なし。救いようがないねえ」
ロキはフローズヴィトニルの前にしゃがみこみ、顔を前に突き出して、冷ややかな青い瞳を向ける。
けっして声を荒らげてはいないし、とても静かに言っている。それなのに、辺はひんやりと冷たい空気に支配され、フローズヴィトニルはガタガタと身体を震わせた。
「もはやスケールとかいう問題じゃなくね??」
ルーファスの呟きに、ザカリーがツッコむ。
「短い人生でしたねえ…。せっかく傭兵界でのし上がってきたばかりだったのに。アジトは吹き飛ばされるし、こうして宇宙空間ってところまで飛んできちゃうし、目の前の壮大なファンタジーに殺されそうになっているし……」
まるでワイングラスを片手に、しみじみといった口調でカーティスに言われ、皆げんなりとため息をこぼした。
人間相手になら、こんな弱音は吐かない。何としてでも勝って生き延びる。しかし、相手は神だの化物だのの類である。専門外も甚だしい。
「キューリさん、本当にまいっちゃってるようだし、これは奇跡も起きないかもですね…」
メルヴィンに縋って泣いているキュッリッキを見つめ、シビルは諦めたように肩を落とした。
無数に出現した雷霆(ケラウノス)を見つめ、キュッリッキは絶望の眼差しを宙に彷徨わせた。
(どうしよう…どうしよう…、アタシだけじゃなく、みんなも巻き込まれて死んじゃう)
自分を強く抱きしめるメルヴィンも、あの力の前では儚く散ってしまう。
そうさせないために、今ここで、自分が踏ん張らなくてはならないのに。
なのに、頭の中は大混乱で、考え一つ浮かばない。
結局、ベルトルドを助けることもできず、みんなを死なせることにしかならないのだろうか。
自分に出来ることは、本当にもうないのだろうか。
涙で滲む目を見開いたその時、ひとりの男と目があった。
(あっ…)
男は無邪気な笑みをその端整な表情に浮かべ、キュッリッキに強く頷いた。
その瞬間、ドラゴンの周りに浮かんでいた雷霆(ケラウノス)が、全て光の粒子となって消えていった。
キュッリッキは手を前に差し伸べる。その差し伸べられた手を、眩いばかりの黄金の光が包み込み、徐々に膨らんで人の形になった。
「ロキ様」
ぽつりとキュッリッキは呟くと、光は弾け飛んで、男が現れた。
身長は2メートルを超え、二十代後半に差し掛かったくらいの容貌の男である。ニコニコと笑顔が絶えず、近寄りがたいというより、人懐っこさのある美貌をしていた。
「久しぶりだね、キュッリッキ」
「ロキ様…」
ロキと呼ばれた男は、掴んでいたキュッリッキの手を優しく引き寄せると、腰を落としてキュッリッキを抱きしめた。波打つ長い金色の髪から、絶えず光の粒子が雫のようにこぼれ落ちる。
「よく頑張ったね」
幼子を優しくあやすような口調で言うと、労わるように頭をそっと撫でた。優しくキュッリッキを見つめる青い瞳には、慈悲の光が溢れんばかりだ。
「ロキさまぁ…」
キュッリッキは大きくしゃくり上げると、ロキに縋って大きな泣き声をあげた。
「あやすのは、いつもティワズの役目なんだけど、今回は俺でゴメンな」
にこにこと笑いながら、ロキはその細い背中を優しくポンポンっと叩いた。そして、呆気にとられているメルヴィンに、ロキは小さくウィンクした。
「初めまして、キミがキュッリッキの恋人だね。彼女をよろしく頼むよ」
「え、あ、はい」
メルヴィンは困惑したように返事をすると、思わず頭を下げた。
「あはははは、真面目な性格だねえ」
泣き続けるキュッリッキの顔を上向かせて優しく微笑むと、そっとメルヴィンのほうへと追いやった。
「さてさて、この状況をどうにかしないと、これじゃキュッリッキでもお手上げだ」
ロキは両手を腰にあてると、ヤレヤレといった口調でため息をこぼす。
「スコル、ハティ、お前たちの手にも余りまくっただろうね」
先程から身を伏せて怯えているスコルとハティは、更に怯えの色を深めて目を閉じていた。
「そして、久しぶりだねえ、このバカ息子たち」
フェンリルとフローズヴィトニルに、ジロリとした視線を投げかけると、ロキは指をパチリと鳴らした。すると、フェンリルとフローズヴィトニルの巨体が、一瞬にして仔犬の姿になって床に転がった。
「いつまでも親の前で、親よりデカイ図体でボケッとするんじゃないよ」
冷ややかな口調で言われ、二匹は気まずそうな表情を隠そうともせず、ぺたりと座り込んだ。
「そして…、アレが例のドラゴンか。ユリディスの力は絶対だからねえ。それに、ふむふむ、懐かしいなあ、アウリスの血筋の者なんだね」
動きを完全に止めてしまっているドラゴンを見やり、ロキはウンウンと嬉しそうに何度も頷いていた。
「バカ息子たちと、息子の子孫に一度に会えるなんてねえ。感動の嵐でも吹き荒れるところだが、今回は説教だよ、フローズヴィトニル」
「ひいっ」
フローズヴィトニルは毛を逆立てて跳ね上がると、すぐさまフェンリルの後ろに逃げ込んだ。
「お前は、キュッリッキのお陰でエーリューズニルから抜け出すことができたんだよ。ヘルの元で改心したかと思えば、恩人であるキュッリッキへの暴言の数々。数万年も幽閉されていながら、全く変わらないとか、父として泣けてくるよ」
少しも泣けそうもない素っ気ない表情で、声音は相変わらず冷たいままに言い捨てる。
「おまけに巫女の命令を完全無視、半身のフェンリルの言うこともスルー、やはりお前のような悪い子は、エーリューズニルで永久に幽閉しているのがいいかもしれないな」
「それだけは、嫌だよー!!」
陰気で暗い館、美味しくもない屍人の肉、退屈極まりない過酷な環境。もう二度と、戻りたくなかった。
フローズヴィトニルは力いっぱいロキを睨みつける。相手が父親であろうと、もうエーリューズニルに戻されるのは絶対に嫌だった。
「いいかい、キュッリッキにはこの人間世界で、アルケラに住む者たちに対し、絶対の命令権を持つ。下位のものから最高位の我々神々に対してもだ。命令違反は処罰の対象となる。それをしないで放置してくれているのは、キュッリッキが優しい子だからだ。それをいいことに、お前は好き勝手し放題、暴言も吐き放題、反省の色なし。救いようがないねえ」
ロキはフローズヴィトニルの前にしゃがみこみ、顔を前に突き出して、冷ややかな青い瞳を向ける。
けっして声を荒らげてはいないし、とても静かに言っている。それなのに、辺はひんやりと冷たい空気に支配され、フローズヴィトニルはガタガタと身体を震わせた。
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