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最終章 永遠の翼
episode777
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離れた位置で、喧嘩する狼たちとキュッリッキを交互に見ていたメルヴィンは、グッと顎を引くと、隣にいたタルコットにヴェズルフェルニルを押し付けた。
「すいません、この鷲お願いします!」
「いや、これ鷹だし」
「頼みます!」
間違いを訂正しつつ、タルコットは面食らって左腕にヴェズルフェルニルを留まらせたまま、目をぱちくりさせた。
「リッキー!」
キュッリッキを呼びながら、メルヴィンは駆け寄った。
「メルヴィン……」
頼りなげな表情で振り向くと、キュッリッキは縋るように手を伸ばした。
「リッキー」
伸ばされた手を握り、メルヴィンはキュッリッキを抱きしめた。
「フェンリルとフローズヴィトニルが、言うこと聞いてくれないの。アタシ、どうすればいいのメルヴィン」
泣き出したキュッリッキの頭を優しく撫でながら、メルヴィンは情けない表情を浮かべて目を閉じる。
「ごめん、オレもどうすればいいか、答えてあげられません。でも、一緒に考えましょう」
召喚士というものは、神の力を操る凄い存在である。そう、世間では言われている。噂には尾ひれが付いて広がるから、その存在自体が神ではないかとまで言う者もいた。
実際に出会ってみて、キュッリッキの繰り出す奇跡の数々は、本当に凄い力だと信じるに値した。それなのに、召喚の力を封じられてしまうと、ただの無力で非力な女の子だということを思い知る。
ナルバ山の遺跡で、瀕死状態のキュッリッキを見たとき、それを痛感したのだ。
こうして腕の中で泣きじゃくる彼女は、紛れもなくただの女の子。
ずっと独りで生きてきたキュッリッキには、頼るべき『人間の仲間』がいなかった。
でも、今は違う。
アルケラのことも、神のことも、召喚のことも、何も知らない。でも、こうして側で支えることはできる。励ますことも、一緒に考えることもできる。
辛いことの連続で、キュッリッキの心身はすでに限界だろうに。
頼みの綱のフェンリルとフローズヴィトニルが、あんなことになってしまって、もはや冷静な判断などできないだろう。
激しく喧嘩する2匹の向こうには、怪我を静かに癒すドラゴンが控えている。傷が癒えれば、再びキュッリッキを殺そうと動き出す。
とにかくあの2匹の喧嘩を、一刻も早く止めなくてはならない。
「スコルさんとハティさんでは、どうしようもない、んですよね…?」
メルヴィンの問いに、スコルもハティも小さく頷くだけ。眷属の身でしかない2匹には、主たちの喧嘩を止めるなど、到底不可能だった。
「では、別の何かを召喚する事は出来ませんか? あの二匹に対抗出来るだけの力を持つ何か」
「何かを…?」
グスグスと涙声でキュッリッキは呟く。
ほかに妙案が浮かばない。メルヴィンの言うとおり、何かを召喚してみることに決めて、キュッリッキはアルケラを視るべく、目を見開いた。
その時、突如視界に紫電の光が過ぎって、ドラゴンの大咆哮が轟渡った。
「ベルトルドさん…?」
「もう、動けるんですか」
白黒の二匹の巨狼の向こうに、己の血で赤く染まった白銀のドラゴンが、強烈な光をその目に宿し、キュッリッキを睨みつけていた。
キュッリッキ目掛けて一歩踏み出そうとしたとき、フェンリルがドラゴン目掛けて飛びかかった。
「フェンリル!!」
フェンリルの頭突きで後ろによろめいたドラゴンは、しかし後ろ足で踏ん張り耐える。
「キュッリッキは殺らせん!」
「ボクとの勝負がついてないだろー!」
突然喧嘩を放棄してドラゴンに飛びかかったフェンリルにムカついて、フローズヴィトニルはフェンリルに体当りした。
弾き飛ばされたフェンリルは、床を数回転がり身を起こす。
「いい加減にやめんか!」
呆れ半分、怒り半分の声音を滲ませ、フェンリルは吐き捨てる。
「ボクとの勝負がまだ終わってないんだ! いくらでも邪魔してやるからな」
「本当にお前は、いつまで経ってもバカのままだ」
牙を食いしばり、目を細めたその時、視界に金色の光が差した。
「あれは」
ドラゴンの周りに、無数の黄金の三叉戟が出現していた。
「――雷霆(ケラウノス)とかいうものか、数が多すぎる…」
人間であった頃のベルトルドが扱っていたものよりも、ずっと巨大な質量をほこる三叉戟だ。
魔法スキル〈才能〉も解放されている今のベルトルドなら、自らの魔力も込めて生み出せるのだろう。それに加えてドラゴンの力もあるのだ。
「守り……きれるか…我に」
「すいません、この鷲お願いします!」
「いや、これ鷹だし」
「頼みます!」
間違いを訂正しつつ、タルコットは面食らって左腕にヴェズルフェルニルを留まらせたまま、目をぱちくりさせた。
「リッキー!」
キュッリッキを呼びながら、メルヴィンは駆け寄った。
「メルヴィン……」
頼りなげな表情で振り向くと、キュッリッキは縋るように手を伸ばした。
「リッキー」
伸ばされた手を握り、メルヴィンはキュッリッキを抱きしめた。
「フェンリルとフローズヴィトニルが、言うこと聞いてくれないの。アタシ、どうすればいいのメルヴィン」
泣き出したキュッリッキの頭を優しく撫でながら、メルヴィンは情けない表情を浮かべて目を閉じる。
「ごめん、オレもどうすればいいか、答えてあげられません。でも、一緒に考えましょう」
召喚士というものは、神の力を操る凄い存在である。そう、世間では言われている。噂には尾ひれが付いて広がるから、その存在自体が神ではないかとまで言う者もいた。
実際に出会ってみて、キュッリッキの繰り出す奇跡の数々は、本当に凄い力だと信じるに値した。それなのに、召喚の力を封じられてしまうと、ただの無力で非力な女の子だということを思い知る。
ナルバ山の遺跡で、瀕死状態のキュッリッキを見たとき、それを痛感したのだ。
こうして腕の中で泣きじゃくる彼女は、紛れもなくただの女の子。
ずっと独りで生きてきたキュッリッキには、頼るべき『人間の仲間』がいなかった。
でも、今は違う。
アルケラのことも、神のことも、召喚のことも、何も知らない。でも、こうして側で支えることはできる。励ますことも、一緒に考えることもできる。
辛いことの連続で、キュッリッキの心身はすでに限界だろうに。
頼みの綱のフェンリルとフローズヴィトニルが、あんなことになってしまって、もはや冷静な判断などできないだろう。
激しく喧嘩する2匹の向こうには、怪我を静かに癒すドラゴンが控えている。傷が癒えれば、再びキュッリッキを殺そうと動き出す。
とにかくあの2匹の喧嘩を、一刻も早く止めなくてはならない。
「スコルさんとハティさんでは、どうしようもない、んですよね…?」
メルヴィンの問いに、スコルもハティも小さく頷くだけ。眷属の身でしかない2匹には、主たちの喧嘩を止めるなど、到底不可能だった。
「では、別の何かを召喚する事は出来ませんか? あの二匹に対抗出来るだけの力を持つ何か」
「何かを…?」
グスグスと涙声でキュッリッキは呟く。
ほかに妙案が浮かばない。メルヴィンの言うとおり、何かを召喚してみることに決めて、キュッリッキはアルケラを視るべく、目を見開いた。
その時、突如視界に紫電の光が過ぎって、ドラゴンの大咆哮が轟渡った。
「ベルトルドさん…?」
「もう、動けるんですか」
白黒の二匹の巨狼の向こうに、己の血で赤く染まった白銀のドラゴンが、強烈な光をその目に宿し、キュッリッキを睨みつけていた。
キュッリッキ目掛けて一歩踏み出そうとしたとき、フェンリルがドラゴン目掛けて飛びかかった。
「フェンリル!!」
フェンリルの頭突きで後ろによろめいたドラゴンは、しかし後ろ足で踏ん張り耐える。
「キュッリッキは殺らせん!」
「ボクとの勝負がついてないだろー!」
突然喧嘩を放棄してドラゴンに飛びかかったフェンリルにムカついて、フローズヴィトニルはフェンリルに体当りした。
弾き飛ばされたフェンリルは、床を数回転がり身を起こす。
「いい加減にやめんか!」
呆れ半分、怒り半分の声音を滲ませ、フェンリルは吐き捨てる。
「ボクとの勝負がまだ終わってないんだ! いくらでも邪魔してやるからな」
「本当にお前は、いつまで経ってもバカのままだ」
牙を食いしばり、目を細めたその時、視界に金色の光が差した。
「あれは」
ドラゴンの周りに、無数の黄金の三叉戟が出現していた。
「――雷霆(ケラウノス)とかいうものか、数が多すぎる…」
人間であった頃のベルトルドが扱っていたものよりも、ずっと巨大な質量をほこる三叉戟だ。
魔法スキル〈才能〉も解放されている今のベルトルドなら、自らの魔力も込めて生み出せるのだろう。それに加えてドラゴンの力もあるのだ。
「守り……きれるか…我に」
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