837 / 882
最終章 永遠の翼
episode774
しおりを挟む
「どっからどう見ても、普通の鷹だなあ…」
タルコットは鷹をしげしげと見つめながら、首をかしげる。
キュッリッキから託されたヴェズルフェルニルを腕に留まらせながら、メルヴィンは苦笑を浮かべた。
こんな見た目普通の鷹が、どう助けてくれるのかと、僅かに興味津々である。
「素晴らしい…、本当に素晴らしい」
シ・アティウスはこの場で起こっていることを、ほんの少しでも見逃すことがないように、ヴェズルフェルニルに目を向けつつ、目の前の戦いを見つめていた。興奮で声が上ずっていることにも、気づかないようだ。
「アウリスの父がロキ神ですか…。どんな神かは知りませんでしたが、なるほど、なるほど。悠久の時の中でその血は薄まれど、あれだけの化物じみた力を発するんですから、やはり凄い血筋ですね」
断片的に漏れ聴こえてくる会話を、全て記憶にインプットしながら、シ・アティウスは喜びを隠そうともせず表情に浮かべた。
「オレぁもう、頭がついていかね~~っす!」
泣き叫ぶようにギャリーが寝転がったまま言うと、タルコットが神妙に頷く。
「ファンタジーすぎて、すでにボクたちの常識の枠から、かけ離れているからな」
「そーそー。アタシぃ~、お化けだって幽霊だってぇ、視たことないものぉ…」
マリオンも頷きながら、ゲッソリとぼやいた。サイ《超能力》の透視能力にも、個人差があるので、そうした現象を目にできない、したくない者もいた。マリオンはなにげにその方面が、大の苦手である。
「みんな、気をしっかりもってください」
パンパンッと手を叩きながら、カーティスがしっかりした口調で嗜める。
「いいですか、目の前のファンタジーはメルヘンではないんです。無害な妖精さんたちが遊んでいるわけじゃないんですよ。デカ狼とデカドラゴンの戦いが激化したら、この船は破壊され、我々は空気のない宇宙空間に放り出され、窒息死して塵になるしかないンです。そうならないためにも、フェンリルを応援して、無事五体満足でエルダー街へ帰れるように、声を張り上げましょう!」
ぬおおおおおおっ! と歓声が上がり、フェンリルの名を喧しく叫びながら、ライオン傭兵団による必死な応援が始まった。
「ん??」
「……」
キュッリッキとフェンリルは、ギョッとして後ろを振り向いた。
メルヴィンは苦笑を浮かべ、ランドンとマーゴットは呆れた表情を浮かべてため息をついている。しかしほかのメンバーは、どこか死に物狂いな表情を浮かべ、狂ったように叫んでいた。
その様子に、やがて疲れたように、フェンリルは小さなため息をこぼした。
ベルトルドの意識は、完全にユリディスの呪いの力に飲み込まれている。ユリディスの力で召喚されたドラゴンを憑依させられ、一体となり、ベルトルドに本来備わっていたサイ《超能力》と魔法のスキル〈才能〉が、徐々にドラゴンの力と融合し始めていた。それに加え、ベルトルドの持つ遺伝子の中に伝わっていた、アウリスの遺伝子まで完全に覚醒している。更に、アウリスの父であるロキ神の力まで覚醒してしまっているため、ドラゴンに変じたベルトルドの力は、もはや高位の神々に匹敵するまでに高まっていた。
「よくぞこの短時間で、あれだけの力が顕現するものだ」
忌々しげに、フェンリルは吐き捨てた。
「スコルとハティの力じゃ、喰らいきれないかも」
同意するように、キュッリッキは呟く。
フェンリルの眷属たるスコルとハティは、ドラゴンの肉体には攻撃せず、直接霊体を攻撃していた。それゆえ、見ている側からすると、ドラゴンの周りの空気に噛み付いているだけにしか見えない。しかしキュッリッキには、ベルトルドの霊体が攻撃されている様がハッキリと見えていた。
あらゆる力の膜が、ベルトルドの霊体を包み込んでいる。
スコルとハティは、猛烈な勢いで食いちぎっているが、膜は少しも減る様子がない。
「無闇に食い散らかしちゃダメ。ベルトルドさんの意識を取り込んでいる、ユリディスの呪いの力のみを引き剥がさないと、多分いつまで経っても終わらないよ」
キュッリッキに指摘され、フェンリルは頷いた。
「ホント、あいつらダメダメーだなあ。ボクがお手本見せてあげるよ」
フェンリルの頭の上で見学を決め込んでいたフローズヴィトニルは、大きく尻尾を振ると、宙に飛び上がった。そして一瞬にして、黒い毛並みはそのままに、フェンリルと同じ姿になる。
「こうやったら早いんだよ~」
フローズヴィトニルはドラゴン目掛けて飛びかかると、頭と首の付け根にガブリと噛み付いた。
タルコットは鷹をしげしげと見つめながら、首をかしげる。
キュッリッキから託されたヴェズルフェルニルを腕に留まらせながら、メルヴィンは苦笑を浮かべた。
こんな見た目普通の鷹が、どう助けてくれるのかと、僅かに興味津々である。
「素晴らしい…、本当に素晴らしい」
シ・アティウスはこの場で起こっていることを、ほんの少しでも見逃すことがないように、ヴェズルフェルニルに目を向けつつ、目の前の戦いを見つめていた。興奮で声が上ずっていることにも、気づかないようだ。
「アウリスの父がロキ神ですか…。どんな神かは知りませんでしたが、なるほど、なるほど。悠久の時の中でその血は薄まれど、あれだけの化物じみた力を発するんですから、やはり凄い血筋ですね」
断片的に漏れ聴こえてくる会話を、全て記憶にインプットしながら、シ・アティウスは喜びを隠そうともせず表情に浮かべた。
「オレぁもう、頭がついていかね~~っす!」
泣き叫ぶようにギャリーが寝転がったまま言うと、タルコットが神妙に頷く。
「ファンタジーすぎて、すでにボクたちの常識の枠から、かけ離れているからな」
「そーそー。アタシぃ~、お化けだって幽霊だってぇ、視たことないものぉ…」
マリオンも頷きながら、ゲッソリとぼやいた。サイ《超能力》の透視能力にも、個人差があるので、そうした現象を目にできない、したくない者もいた。マリオンはなにげにその方面が、大の苦手である。
「みんな、気をしっかりもってください」
パンパンッと手を叩きながら、カーティスがしっかりした口調で嗜める。
「いいですか、目の前のファンタジーはメルヘンではないんです。無害な妖精さんたちが遊んでいるわけじゃないんですよ。デカ狼とデカドラゴンの戦いが激化したら、この船は破壊され、我々は空気のない宇宙空間に放り出され、窒息死して塵になるしかないンです。そうならないためにも、フェンリルを応援して、無事五体満足でエルダー街へ帰れるように、声を張り上げましょう!」
ぬおおおおおおっ! と歓声が上がり、フェンリルの名を喧しく叫びながら、ライオン傭兵団による必死な応援が始まった。
「ん??」
「……」
キュッリッキとフェンリルは、ギョッとして後ろを振り向いた。
メルヴィンは苦笑を浮かべ、ランドンとマーゴットは呆れた表情を浮かべてため息をついている。しかしほかのメンバーは、どこか死に物狂いな表情を浮かべ、狂ったように叫んでいた。
その様子に、やがて疲れたように、フェンリルは小さなため息をこぼした。
ベルトルドの意識は、完全にユリディスの呪いの力に飲み込まれている。ユリディスの力で召喚されたドラゴンを憑依させられ、一体となり、ベルトルドに本来備わっていたサイ《超能力》と魔法のスキル〈才能〉が、徐々にドラゴンの力と融合し始めていた。それに加え、ベルトルドの持つ遺伝子の中に伝わっていた、アウリスの遺伝子まで完全に覚醒している。更に、アウリスの父であるロキ神の力まで覚醒してしまっているため、ドラゴンに変じたベルトルドの力は、もはや高位の神々に匹敵するまでに高まっていた。
「よくぞこの短時間で、あれだけの力が顕現するものだ」
忌々しげに、フェンリルは吐き捨てた。
「スコルとハティの力じゃ、喰らいきれないかも」
同意するように、キュッリッキは呟く。
フェンリルの眷属たるスコルとハティは、ドラゴンの肉体には攻撃せず、直接霊体を攻撃していた。それゆえ、見ている側からすると、ドラゴンの周りの空気に噛み付いているだけにしか見えない。しかしキュッリッキには、ベルトルドの霊体が攻撃されている様がハッキリと見えていた。
あらゆる力の膜が、ベルトルドの霊体を包み込んでいる。
スコルとハティは、猛烈な勢いで食いちぎっているが、膜は少しも減る様子がない。
「無闇に食い散らかしちゃダメ。ベルトルドさんの意識を取り込んでいる、ユリディスの呪いの力のみを引き剥がさないと、多分いつまで経っても終わらないよ」
キュッリッキに指摘され、フェンリルは頷いた。
「ホント、あいつらダメダメーだなあ。ボクがお手本見せてあげるよ」
フェンリルの頭の上で見学を決め込んでいたフローズヴィトニルは、大きく尻尾を振ると、宙に飛び上がった。そして一瞬にして、黒い毛並みはそのままに、フェンリルと同じ姿になる。
「こうやったら早いんだよ~」
フローズヴィトニルはドラゴン目掛けて飛びかかると、頭と首の付け根にガブリと噛み付いた。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。
千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。
気付いたら、異世界に転生していた。
なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!?
物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です!
※この話は小説家になろう様へも掲載しています
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる