片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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最終章 永遠の翼

episode774

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「どっからどう見ても、普通の鷹だなあ…」

 タルコットは鷹をしげしげと見つめながら、首をかしげる。

 キュッリッキから託されたヴェズルフェルニルを腕に留まらせながら、メルヴィンは苦笑を浮かべた。

 こんな見た目普通の鷹が、どう助けてくれるのかと、僅かに興味津々である。

「素晴らしい…、本当に素晴らしい」

 シ・アティウスはこの場で起こっていることを、ほんの少しでも見逃すことがないように、ヴェズルフェルニルに目を向けつつ、目の前の戦いを見つめていた。興奮で声が上ずっていることにも、気づかないようだ。

「アウリスの父がロキ神ですか…。どんな神かは知りませんでしたが、なるほど、なるほど。悠久の時の中でその血は薄まれど、あれだけの化物じみた力を発するんですから、やはり凄い血筋ですね」

 断片的に漏れ聴こえてくる会話を、全て記憶にインプットしながら、シ・アティウスは喜びを隠そうともせず表情に浮かべた。

「オレぁもう、頭がついていかね~~っす!」

 泣き叫ぶようにギャリーが寝転がったまま言うと、タルコットが神妙に頷く。

「ファンタジーすぎて、すでにボクたちの常識の枠から、かけ離れているからな」

「そーそー。アタシぃ~、お化けだって幽霊だってぇ、視たことないものぉ…」

 マリオンも頷きながら、ゲッソリとぼやいた。サイ《超能力》の透視能力にも、個人差があるので、そうした現象を目にできない、したくない者もいた。マリオンはなにげにその方面が、大の苦手である。

「みんな、気をしっかりもってください」

 パンパンッと手を叩きながら、カーティスがしっかりした口調で嗜める。

「いいですか、目の前のファンタジーはメルヘンではないんです。無害な妖精さんたちが遊んでいるわけじゃないんですよ。デカ狼とデカドラゴンの戦いが激化したら、この船は破壊され、我々は空気のない宇宙空間に放り出され、窒息死して塵になるしかないンです。そうならないためにも、フェンリルを応援して、無事五体満足でエルダー街へ帰れるように、声を張り上げましょう!」

 ぬおおおおおおっ! と歓声が上がり、フェンリルの名を喧しく叫びながら、ライオン傭兵団による必死な応援が始まった。

「ん??」

「……」

 キュッリッキとフェンリルは、ギョッとして後ろを振り向いた。

 メルヴィンは苦笑を浮かべ、ランドンとマーゴットは呆れた表情を浮かべてため息をついている。しかしほかのメンバーは、どこか死に物狂いな表情を浮かべ、狂ったように叫んでいた。

 その様子に、やがて疲れたように、フェンリルは小さなため息をこぼした。



 ベルトルドの意識は、完全にユリディスの呪いの力に飲み込まれている。ユリディスの力で召喚されたドラゴンを憑依させられ、一体となり、ベルトルドに本来備わっていたサイ《超能力》と魔法のスキル〈才能〉が、徐々にドラゴンの力と融合し始めていた。それに加え、ベルトルドの持つ遺伝子の中に伝わっていた、アウリスの遺伝子まで完全に覚醒している。更に、アウリスの父であるロキ神の力まで覚醒してしまっているため、ドラゴンに変じたベルトルドの力は、もはや高位の神々に匹敵するまでに高まっていた。

「よくぞこの短時間で、あれだけの力が顕現するものだ」

 忌々しげに、フェンリルは吐き捨てた。

「スコルとハティの力じゃ、喰らいきれないかも」

 同意するように、キュッリッキは呟く。

 フェンリルの眷属たるスコルとハティは、ドラゴンの肉体には攻撃せず、直接霊体を攻撃していた。それゆえ、見ている側からすると、ドラゴンの周りの空気に噛み付いているだけにしか見えない。しかしキュッリッキには、ベルトルドの霊体が攻撃されている様がハッキリと見えていた。

 あらゆる力の膜が、ベルトルドの霊体を包み込んでいる。

 スコルとハティは、猛烈な勢いで食いちぎっているが、膜は少しも減る様子がない。

「無闇に食い散らかしちゃダメ。ベルトルドさんの意識を取り込んでいる、ユリディスの呪いの力のみを引き剥がさないと、多分いつまで経っても終わらないよ」

 キュッリッキに指摘され、フェンリルは頷いた。

「ホント、あいつらダメダメーだなあ。ボクがお手本見せてあげるよ」

 フェンリルの頭の上で見学を決め込んでいたフローズヴィトニルは、大きく尻尾を振ると、宙に飛び上がった。そして一瞬にして、黒い毛並みはそのままに、フェンリルと同じ姿になる。

「こうやったら早いんだよ~」

 フローズヴィトニルはドラゴン目掛けて飛びかかると、頭と首の付け根にガブリと噛み付いた。
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