835 / 882
最終章 永遠の翼
episode772
しおりを挟む
フリングホルニの規模からすると、エグザイル・システムのあるこの部屋は、小部屋と称してもいい程度だ。
巨大なドームほどもある室内の、天井スレスレの高さまで頭が届く白銀のドラゴンは、フェンリルの繰り出す咆哮による振動波を、サラマブレスで防ぎながら、巨大な尻尾を鞭のようにしならせ反撃していた。
ドラゴンに変じたベルトルドの力を推し量るため、キュッリッキはフェンリルをけしかけ様子を見ている。
呪いの力に意識を乗っ取られて、まだ間がない。しかし、ベルトルドは操られる中で、確実にドラゴンの力を制御し始めている。このままだと数分もすれば、元々持っているサイ《超能力》と魔法の力を組み合わせた攻撃を、使ってくることは明らかだった。
まだ本気を出していないとは言え、フェンリルの力を易易と跳ね返している。もともとのステータスが高いのだから、素体としては最高の逸材だっただろう。
アルケラを守るためだが、ユリディスの力を、ちょっと恨めしく思うキュッリッキだった。
「やっぱりー、制限付きだとちょっと不利だね」
キュッリッキを守るように立って、フェンリルとドラゴンの戦闘を見ているフローズヴィトニルが、呑気そうに呟く。
「ボクたち、相当制限されまくってるから、アレを倒すなら制限外してよー、キュッリッキ~」
フローズヴィトニルにせっつかれながら、キュッリッキは小さく首を傾げて考え込んでいた。
(ベルトルドさん級のドラゴンを召喚してぶつけるとか……、一匹じゃ互角になっちゃうだろうから、2,3匹くらいは呼ばないとダメよね~。でもそしたら、ここじゃ収まりきらなくなっちゃうしー……)
「船が木っ端微塵になるから、そのアイデアは止めたほうがいいだろう」
戻ってきたフェンリルに、唸るように言われて、キュッリッキは口の端をヒクつかせた。
「う…うん、やっぱ無理だよねっ」
3匹も4匹もドラゴンが船内で暴れまわっている姿を想像すると、あちこち穴だらけになって宇宙空間に放り出されるのがオチだ。宇宙空間というところには、酸素がないらしい。投げ出されたら、窒息死してしまう。
「フローズヴィトニルが言ったように、我々の制限を一時的に解除して欲しい。それなら確実に、あやつを倒せる」
「そーそー」
「ううん、それしかないかあ……」
人間の世界に留まるフェンリルとフローズヴィトニルには、沢山の制限がかせられていた。
力の制限、行動の制限、自由の制限などなど。あらゆる制限にがんじがらめにされ、その状態でキュッリッキに従っている。
2匹は神であり、ほんの小さな息吹で、国をいくつも崩壊させてしまう威力があった。そうならないために、制限が設けられている。
「シ・アティウスなる人間の学者の話が本当ならば、あの者の祖先を産みし者は、我らが父ロキであろう」
「え?」
キュッリッキはびっくりしてフェンリルを見た。
アルケラの最高神の一柱であるロキ。フェンリルやフローズヴィトニルをはじめ、あらゆる神や眷属、幻想の住人たちの父でもある。
「間違いない…、同じ力の波動を感じるのでな。以前は気付かなかったが、完全に覚醒したあの状態だと、嫌でも感じる」
「あー、言われてみると確かに、パパの血を感じるや」
アルケラで何度も、ロキ神とは話をしたことがある。色々と面白い話をしてくれて、時にはからかわれたりもした。そして、話してくれたことの大半はロキの嘘であり、それを淡々と告げるフェンリルの憮然とした様子も印象に強い。
これまでフェンリルが、どこかベルトルドやアルカネットに引き気味なところがあったのは、そうした血のルーツが関係していたのかもと、キュッリッキは薄く笑った。
化物じみた力もなにも、ロキの遺伝情報が備わっているのだったら、不思議にも思わない。
根掘り葉掘り、後から後から色々な情報が飛び出してくる。それがどれも、人外の領域を確定付ける内容ばかりで、ベルトルドがどれだけ人間離れしていたのかと、あらためて再認識する羽目になっていた。
「……ロキ様の血を引いているなら、制限ありだと倒せないね」
巨大なドームほどもある室内の、天井スレスレの高さまで頭が届く白銀のドラゴンは、フェンリルの繰り出す咆哮による振動波を、サラマブレスで防ぎながら、巨大な尻尾を鞭のようにしならせ反撃していた。
ドラゴンに変じたベルトルドの力を推し量るため、キュッリッキはフェンリルをけしかけ様子を見ている。
呪いの力に意識を乗っ取られて、まだ間がない。しかし、ベルトルドは操られる中で、確実にドラゴンの力を制御し始めている。このままだと数分もすれば、元々持っているサイ《超能力》と魔法の力を組み合わせた攻撃を、使ってくることは明らかだった。
まだ本気を出していないとは言え、フェンリルの力を易易と跳ね返している。もともとのステータスが高いのだから、素体としては最高の逸材だっただろう。
アルケラを守るためだが、ユリディスの力を、ちょっと恨めしく思うキュッリッキだった。
「やっぱりー、制限付きだとちょっと不利だね」
キュッリッキを守るように立って、フェンリルとドラゴンの戦闘を見ているフローズヴィトニルが、呑気そうに呟く。
「ボクたち、相当制限されまくってるから、アレを倒すなら制限外してよー、キュッリッキ~」
フローズヴィトニルにせっつかれながら、キュッリッキは小さく首を傾げて考え込んでいた。
(ベルトルドさん級のドラゴンを召喚してぶつけるとか……、一匹じゃ互角になっちゃうだろうから、2,3匹くらいは呼ばないとダメよね~。でもそしたら、ここじゃ収まりきらなくなっちゃうしー……)
「船が木っ端微塵になるから、そのアイデアは止めたほうがいいだろう」
戻ってきたフェンリルに、唸るように言われて、キュッリッキは口の端をヒクつかせた。
「う…うん、やっぱ無理だよねっ」
3匹も4匹もドラゴンが船内で暴れまわっている姿を想像すると、あちこち穴だらけになって宇宙空間に放り出されるのがオチだ。宇宙空間というところには、酸素がないらしい。投げ出されたら、窒息死してしまう。
「フローズヴィトニルが言ったように、我々の制限を一時的に解除して欲しい。それなら確実に、あやつを倒せる」
「そーそー」
「ううん、それしかないかあ……」
人間の世界に留まるフェンリルとフローズヴィトニルには、沢山の制限がかせられていた。
力の制限、行動の制限、自由の制限などなど。あらゆる制限にがんじがらめにされ、その状態でキュッリッキに従っている。
2匹は神であり、ほんの小さな息吹で、国をいくつも崩壊させてしまう威力があった。そうならないために、制限が設けられている。
「シ・アティウスなる人間の学者の話が本当ならば、あの者の祖先を産みし者は、我らが父ロキであろう」
「え?」
キュッリッキはびっくりしてフェンリルを見た。
アルケラの最高神の一柱であるロキ。フェンリルやフローズヴィトニルをはじめ、あらゆる神や眷属、幻想の住人たちの父でもある。
「間違いない…、同じ力の波動を感じるのでな。以前は気付かなかったが、完全に覚醒したあの状態だと、嫌でも感じる」
「あー、言われてみると確かに、パパの血を感じるや」
アルケラで何度も、ロキ神とは話をしたことがある。色々と面白い話をしてくれて、時にはからかわれたりもした。そして、話してくれたことの大半はロキの嘘であり、それを淡々と告げるフェンリルの憮然とした様子も印象に強い。
これまでフェンリルが、どこかベルトルドやアルカネットに引き気味なところがあったのは、そうした血のルーツが関係していたのかもと、キュッリッキは薄く笑った。
化物じみた力もなにも、ロキの遺伝情報が備わっているのだったら、不思議にも思わない。
根掘り葉掘り、後から後から色々な情報が飛び出してくる。それがどれも、人外の領域を確定付ける内容ばかりで、ベルトルドがどれだけ人間離れしていたのかと、あらためて再認識する羽目になっていた。
「……ロキ様の血を引いているなら、制限ありだと倒せないね」
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧乏秀才令嬢がヤサグレ天才少年と、世界の理を揺るがします。
凜
恋愛
貧乏貴族のダリアは、国一番の魔法学校の副首席。首席になりたいのに、その壁はとんでもなくぶあつく…。
ある日謎多き少年シアンと出会い、彼が首席とわかるやいなや強烈な興味を持ち粘着するようになった。
クセの多い登場人物が織りなす、身分、才能、美醜が絡み、陰謀渦巻く魔法学校でのスクールストーリー。

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~
さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』
誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。
辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。
だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。
学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる
これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる