片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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最終章 永遠の翼

episode772

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 フリングホルニの規模からすると、エグザイル・システムのあるこの部屋は、小部屋と称してもいい程度だ。

 巨大なドームほどもある室内の、天井スレスレの高さまで頭が届く白銀のドラゴンは、フェンリルの繰り出す咆哮による振動波を、サラマブレスで防ぎながら、巨大な尻尾を鞭のようにしならせ反撃していた。

 ドラゴンに変じたベルトルドの力を推し量るため、キュッリッキはフェンリルをけしかけ様子を見ている。

 呪いの力に意識を乗っ取られて、まだ間がない。しかし、ベルトルドは操られる中で、確実にドラゴンの力を制御し始めている。このままだと数分もすれば、元々持っているサイ《超能力》と魔法の力を組み合わせた攻撃を、使ってくることは明らかだった。

 まだ本気を出していないとは言え、フェンリルの力を易易と跳ね返している。もともとのステータスが高いのだから、素体としては最高の逸材だっただろう。

 アルケラを守るためだが、ユリディスの力を、ちょっと恨めしく思うキュッリッキだった。

「やっぱりー、制限付きだとちょっと不利だね」

 キュッリッキを守るように立って、フェンリルとドラゴンの戦闘を見ているフローズヴィトニルが、呑気そうに呟く。

「ボクたち、相当制限されまくってるから、アレを倒すなら制限外してよー、キュッリッキ~」

 フローズヴィトニルにせっつかれながら、キュッリッキは小さく首を傾げて考え込んでいた。

(ベルトルドさん級のドラゴンを召喚してぶつけるとか……、一匹じゃ互角になっちゃうだろうから、2,3匹くらいは呼ばないとダメよね~。でもそしたら、ここじゃ収まりきらなくなっちゃうしー……)

「船が木っ端微塵になるから、そのアイデアは止めたほうがいいだろう」

 戻ってきたフェンリルに、唸るように言われて、キュッリッキは口の端をヒクつかせた。

「う…うん、やっぱ無理だよねっ」

 3匹も4匹もドラゴンが船内で暴れまわっている姿を想像すると、あちこち穴だらけになって宇宙空間に放り出されるのがオチだ。宇宙空間というところには、酸素がないらしい。投げ出されたら、窒息死してしまう。

「フローズヴィトニルが言ったように、我々の制限を一時的に解除して欲しい。それなら確実に、あやつを倒せる」

「そーそー」

「ううん、それしかないかあ……」

 人間の世界に留まるフェンリルとフローズヴィトニルには、沢山の制限がかせられていた。

 力の制限、行動の制限、自由の制限などなど。あらゆる制限にがんじがらめにされ、その状態でキュッリッキに従っている。

 2匹は神であり、ほんの小さな息吹で、国をいくつも崩壊させてしまう威力があった。そうならないために、制限が設けられている。

「シ・アティウスなる人間の学者の話が本当ならば、あの者の祖先を産みし者は、我らが父ロキであろう」

「え?」

 キュッリッキはびっくりしてフェンリルを見た。

 アルケラの最高神の一柱であるロキ。フェンリルやフローズヴィトニルをはじめ、あらゆる神や眷属、幻想の住人たちの父でもある。

「間違いない…、同じ力の波動を感じるのでな。以前は気付かなかったが、完全に覚醒したあの状態だと、嫌でも感じる」

「あー、言われてみると確かに、パパの血を感じるや」

 アルケラで何度も、ロキ神とは話をしたことがある。色々と面白い話をしてくれて、時にはからかわれたりもした。そして、話してくれたことの大半はロキの嘘であり、それを淡々と告げるフェンリルの憮然とした様子も印象に強い。

 これまでフェンリルが、どこかベルトルドやアルカネットに引き気味なところがあったのは、そうした血のルーツが関係していたのかもと、キュッリッキは薄く笑った。

 化物じみた力もなにも、ロキの遺伝情報が備わっているのだったら、不思議にも思わない。

 根掘り葉掘り、後から後から色々な情報が飛び出してくる。それがどれも、人外の領域を確定付ける内容ばかりで、ベルトルドがどれだけ人間離れしていたのかと、あらためて再認識する羽目になっていた。

「……ロキ様の血を引いているなら、制限ありだと倒せないね」
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