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フリングホルニ編
episode768
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リューディアとの恋敵として、アルカネットが自分を疎ましく思っていることは知っていた。時折あからさまな憎悪を向けてくることがあったし、隠そうともしていない。
それでも、ベルトルドはアルカネットが大好きだった。
血のつながりはなくても、弟になってくれたのだ。
普段憎まれ口を叩くし、命令もするし、説教もしてくる。それなのに、いつもどこか悔しそうに甘えてきて、頼りにしてくれた。
そしてなにより、物心着いた時から、ずっと一緒だった。
いつも一緒にいることが当たり前になっていて、離れ離れになることなど考えたこともない。
結婚してそれぞれ家庭を持ったとして、それで住む場所が変わったとしても、やはり一緒に何かをしていただろう。
ベルトルドにとって、アルカネットは最大の心の拠り所だった。
リューディアでもなく、リュリュでもなく、キュッリッキでもない。アルカネットこそが、ベルトルドにとってかけがえのない友であり弟なのだ。
神への復讐を誓い、行動を起こした時から、いずれこういう事態は起こるだろうことは予想していた。でも、まさか神のもとへたどり着く前に、失うことになるなんて。
腕の中のアルカネットの身体からは、温もりが消えていく。人は死んでも、そんなにすぐには冷たくならない。しかし、大量に血を流している遺体は、急速に冷たさを増していく。それが否応無しにも、アルカネットの死を実感させていった。
サイ《超能力》は精神を源とする能力だ。強靭な精神と、揺るぎない集中力。幼い頃からそれが判っていたから、自分は強くあらねばならない、と思い生きてきた。
どんな些細なことにも動揺せず、他者に心を支配されず、己を確固たるものとし、不動の精神を貫く。
しかし、心の片隅で、常に思っていたことがある。
――無理をしている。
自分は本当に強いのか?
弱音なんて吐かないのか?
強くはないが、弱さを見せられない。
誰かに甘えたいが、そんな姿は晒せない。
強く生きよう、強く在ろう、強く、強く…。
リューディアを失ったとき、自信を喪失しかけた。しかし、アルカネットが居てくれた。ずっと、そばに居てくれた。だから、強く生きてこられた。
そのアルカネットが、逝ってしまった。
ベルトルドを置いて、先に逝ってしまった。
強く在ろうとしていた箍が、アルカネットの死を認めた瞬間、脆くも消えた。
ベルトルドはもう何も考えられなかった。悲しみの衝動のまま叫びをあげ続け、意識が闇色に染まるまで叫び続けた。
絶叫し続けるベルトルドの周囲に、突如黒い靄が現れ始めた。それは、ゆっくりと量を増し、ベルトルドの身体を渦のように取り囲みだした。
渦はすっぽりとベルトルドを取り込むと、徐々に大きく膨れ上がる。そして、室内を漆黒に染めるように弾けとんだ。
「んで、そっからあのバカデカイ白銀のドラゴンが出てきた、ってわけ」
その時の映像を、ルーファスは仲間たちに共有しながら説明する。
「うーん……、なんてファンタジーなんだ」
腕を組んで、低く唸りながらタルコットがボヤく。
「しかし惜しいな、鱗が黒なら、剥がして鎧が作れそうなんだが……」
「えー、そっちの関心!?」
妙にガッカリしたように、ルーファスが嘆いた。
「つーか、ンなことしたら、あとで御大から請求書くっぞ…」
「おっさんならぁ、鱗1枚分で請求書作りそうよねぇ~」
ザカリーのツッコミに、マリオンがさらにツッコんだ。
仲間たちのオバカな会話をスルーしながら、ギャリー、カーティス、ガエルの3人は、忙しく作戦を組み立てていた。
数ヶ月前にナルバ山の遺跡で醜悪な化物と戦った時、瀕死の重傷をおったキュッリッキを早く助けたくて、無我夢中で殴りかかった。
分厚すぎる筋肉に覆われたあの巨体は、ガエルの拳とザカリーの魔弾と、ハーマンの魔法で木っ端微塵にした。しかし目の前のドラゴンの身体は、あらゆる攻撃が通りにくそうに見える。さらに、アレがベルトルドの変身した姿、というのが、より慎重を要求していた。
我を忘れながらサイ《超能力》まで使ってきたら、何をされるか想像もつかない。それこそ、絶対防御で空間転移されたらアウトである。そして、無意識に魔法まで使われた日には、目も当てられない。
存在自体が脅威なのだ。
それでも、ベルトルドはアルカネットが大好きだった。
血のつながりはなくても、弟になってくれたのだ。
普段憎まれ口を叩くし、命令もするし、説教もしてくる。それなのに、いつもどこか悔しそうに甘えてきて、頼りにしてくれた。
そしてなにより、物心着いた時から、ずっと一緒だった。
いつも一緒にいることが当たり前になっていて、離れ離れになることなど考えたこともない。
結婚してそれぞれ家庭を持ったとして、それで住む場所が変わったとしても、やはり一緒に何かをしていただろう。
ベルトルドにとって、アルカネットは最大の心の拠り所だった。
リューディアでもなく、リュリュでもなく、キュッリッキでもない。アルカネットこそが、ベルトルドにとってかけがえのない友であり弟なのだ。
神への復讐を誓い、行動を起こした時から、いずれこういう事態は起こるだろうことは予想していた。でも、まさか神のもとへたどり着く前に、失うことになるなんて。
腕の中のアルカネットの身体からは、温もりが消えていく。人は死んでも、そんなにすぐには冷たくならない。しかし、大量に血を流している遺体は、急速に冷たさを増していく。それが否応無しにも、アルカネットの死を実感させていった。
サイ《超能力》は精神を源とする能力だ。強靭な精神と、揺るぎない集中力。幼い頃からそれが判っていたから、自分は強くあらねばならない、と思い生きてきた。
どんな些細なことにも動揺せず、他者に心を支配されず、己を確固たるものとし、不動の精神を貫く。
しかし、心の片隅で、常に思っていたことがある。
――無理をしている。
自分は本当に強いのか?
弱音なんて吐かないのか?
強くはないが、弱さを見せられない。
誰かに甘えたいが、そんな姿は晒せない。
強く生きよう、強く在ろう、強く、強く…。
リューディアを失ったとき、自信を喪失しかけた。しかし、アルカネットが居てくれた。ずっと、そばに居てくれた。だから、強く生きてこられた。
そのアルカネットが、逝ってしまった。
ベルトルドを置いて、先に逝ってしまった。
強く在ろうとしていた箍が、アルカネットの死を認めた瞬間、脆くも消えた。
ベルトルドはもう何も考えられなかった。悲しみの衝動のまま叫びをあげ続け、意識が闇色に染まるまで叫び続けた。
絶叫し続けるベルトルドの周囲に、突如黒い靄が現れ始めた。それは、ゆっくりと量を増し、ベルトルドの身体を渦のように取り囲みだした。
渦はすっぽりとベルトルドを取り込むと、徐々に大きく膨れ上がる。そして、室内を漆黒に染めるように弾けとんだ。
「んで、そっからあのバカデカイ白銀のドラゴンが出てきた、ってわけ」
その時の映像を、ルーファスは仲間たちに共有しながら説明する。
「うーん……、なんてファンタジーなんだ」
腕を組んで、低く唸りながらタルコットがボヤく。
「しかし惜しいな、鱗が黒なら、剥がして鎧が作れそうなんだが……」
「えー、そっちの関心!?」
妙にガッカリしたように、ルーファスが嘆いた。
「つーか、ンなことしたら、あとで御大から請求書くっぞ…」
「おっさんならぁ、鱗1枚分で請求書作りそうよねぇ~」
ザカリーのツッコミに、マリオンがさらにツッコんだ。
仲間たちのオバカな会話をスルーしながら、ギャリー、カーティス、ガエルの3人は、忙しく作戦を組み立てていた。
数ヶ月前にナルバ山の遺跡で醜悪な化物と戦った時、瀕死の重傷をおったキュッリッキを早く助けたくて、無我夢中で殴りかかった。
分厚すぎる筋肉に覆われたあの巨体は、ガエルの拳とザカリーの魔弾と、ハーマンの魔法で木っ端微塵にした。しかし目の前のドラゴンの身体は、あらゆる攻撃が通りにくそうに見える。さらに、アレがベルトルドの変身した姿、というのが、より慎重を要求していた。
我を忘れながらサイ《超能力》まで使ってきたら、何をされるか想像もつかない。それこそ、絶対防御で空間転移されたらアウトである。そして、無意識に魔法まで使われた日には、目も当てられない。
存在自体が脅威なのだ。
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