片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
830 / 882
フリングホルニ編

episode767

しおりを挟む
 空間転移を応用して、剣を召喚してきているわけではなく、魔力で生み出されていた無数の剣。サイ《超能力》で新たな物質を生み出すことはできないが、魔力ではそれが可能だ。

「つまり、アレか? 二人共魔法とサイ《超能力》のダブルスキル〈才能〉保持者だった、てことか…?」

「そういうことですね」

 ギャリーに深く頷き、シ・アティウスはドラゴンに目を向け、アルカネットの遺体にも目を向ける。

「二人のあの翼、漆黒の色をしているでしょう。あれは紛れもなく、アウリスの血によるものです」

 アイオン族の始祖の名を、アウリス・ラッセ・フルメヴァーラという。

 イルマタル帝国を治めるフルメヴァーラ家は、アイオン族の始祖アウリス皇帝の直径の血筋らしい。現在ヴィプネン族の統一国家を治めるハワドウレ家と違い、フルメヴァーラ家は1万年以上の遥か昔から続くと言われている。

「アイオン族の始祖アウリスは、神と人間の混血により誕生したと言われています。アイオン族は白い翼を基本としますが、アウリスに流れる神の血の影響により、アウリス自身は漆黒の翼だったそうです。そのため、暫くはフルメヴァーラ家でも稀に、漆黒の翼を授かる者も生まれてきました。アウリスの血が濃く継がれたと、尊ばれる象徴でもあったと」

「御大とアルカネットは、そのフルメヴァーラ家の血を引いてる、てことか?」

 リュリュから聞かされた話では、思いっきり庶民の家の出だった気が、とギャリーは首をひねる。

「アウリスは末永く、イルマタル帝国が自らの血を引く者で治められることを願い、フルメヴァーラ家に、ある儀式を義務付けました。今後、帝位に就く者は、必ず自分の裁定を受けなければならない、というものでした」

 新たに帝位に就くとき、必ずアウリスを死後の世界から呼び戻し、その者が正しくアウリスの血を継いでいるかを、アウリス自身が見定める。帝位交代の度に、その儀式は行われていく。

「しかしその儀式を疎ましく思う者が現れ、アウリスを蘇らせる儀式に邪魔が入りました。それでもどうにかクーデターをおさめ、正しき血を継ぐ者が帝位に就きましたが、その時をもって儀式はなくなり、蘇ったアウリスはイルマタル帝国から消え、惑星ヒイシに降り立ったといいます。そこでアイオン族の女との間に子を成し、その血がベルトルドとアルカネットに受け継がれたわけです」

「……よく、そんなに詳しいことを知っているんですね……」

 カーティスにぽつりと言われ、シ・アティウスは僅かに得意げな笑みを浮かべた。

「あの二人の化物じみた力のルーツを、ずっと探っていたんです。かなり遠いご先祖が、共通なのですよ、あの二人の母親は。隔世遺伝というやつですね。ベルトルドもアルカネットも、元はそれぞれサイ《超能力》と魔法スキル〈才能〉のみだったのでしょうが、リューディアの死をきっかけに、潜在的に眠っていたもう一つのスキル〈才能〉が覚醒したのかもしれません。本来スキル〈才能〉は遺伝しないものですがね」

 シ・アティウスの話を聞いて、キュッリッキは小さなため息をつく。

 もしも、二人が人外の力を持って生まれてこなければ、そんな先祖を持たなければ、リューディアを目の前で失ったとしても、今のような状況には、ならなかったかもしれない。あれほど強力な力を持ってしまったばっかりに、神へ復讐するなどと、決意させてしまったのだ。

 そんなことを今更思っても、詮無いことだが。

 ドラゴンとなったベルトルドは、ずっと咆哮を続けていた。

 苦しみ悲しんでいる、とキュッリッキには伝わっている。アルカネットを失い、激しい悲しみの中、ああして咆えるしか術がないのだと言わんばかりに。

 神々と幻想の住人たちの住む世界アルケラには、ドラゴンは当たり前に存在している。しかしこちらの人間世界では、伝説上の化物だ。

 ユリディスの呪いを解いて、元の姿に戻さなければ。いつまでも、あんな姿のままにしておくわけにはいかない。

 悲しみの連鎖を終わらせる。

 キュッリッキは厳しい眼差しを、ベルトルドにひたと向けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】

小平ニコ
ファンタジー
聖女として、ずっと国の平和を守ってきたラスティーナ。だがある日、婚約者であるウルナイト王子に、「聖女とか、そういうのもういいんで、国から出てってもらえます?」と言われ、国を追放される。 これからは、ウルナイト王子が召喚術で呼び出した『魔獣』が国の守護をするので、ラスティーナはもう用済みとのことらしい。王も、重臣たちも、国民すらも、嘲りの笑みを浮かべるばかりで、誰もラスティーナを庇ってはくれなかった。 失意の中、ラスティーナは国を去り、隣国に移り住む。 無慈悲に追放されたことで、しばらくは人間不信気味だったラスティーナだが、優しい人たちと出会い、現在は、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。 そんなある日のこと。 ラスティーナは新聞の記事で、自分を追放した国が崩壊寸前であることを知る。 『自分が戻れば国を救えるかもしれない』と思うラスティーナだったが、新聞に書いてあった『ある情報』を読んだことで、国を救いたいという気持ちは、一気に無くなってしまう。 そしてラスティーナは、決別の言葉を、ハッキリと口にするのだった……

処理中です...