829 / 882
フリングホルニ編
episode766
しおりを挟む
あれほど酷い目にあわされたのに、裏切られたのにもかかわらず、キュッリッキはベルトルドを憎むことができなかった。
それは、酷いことをされた以上に、深く深く愛されていたからだ。
生まれて初めて、愛していると言ってくれたのは、ベルトルドだった。
ファニーやハドリーとは、友愛を育んできたが、それ以上の愛をくれたのは、ベルトルドが初めてだったのだ。
親や同族から捨てられ、忌み嫌われ、人間から愛などもらったこともない。
ずっと、自分にだけ注いでくれる愛が欲しくて、愛に飢えていた。愛されることがどんなに幸せなことなのか、知りたいと願っていた。
血のつながりもない、なんの関係もなかったのに、ベルトルドは優しさと愛を惜しみなく注いでくれて、世界中で一番愛されている女の子にしてくれた。普通の女の子のようになれた。
ベルトルドが愛をくれたから、だからキュッリッキは愛を知った。そして、メルヴィンに恋をすることができた。
誰も気づいてくれなかった、与えてくれなかった全てを、ベルトルドはくれた。
労わるように、優しく見つめてくれるメルヴィンの手を、キュッリッキは両手でしっかりと握った。初めて恋をした人、異性を感じ、愛した人。この人と共に、ずっと生きていく。
ベルトルドから向けられる恋愛を、キュッリッキは受け入れなかった。それは、すでに父親の愛だと、認識してしまっていたからだ。アルカネットからの愛も、ベルトルドからの愛も。
神への復讐のために、キュッリッキの全てを傷つけた事実は許されない。でも、それ以上に与えられた愛が、キュッリッキの心から、憎む気持ちを拭っていた。
室内に大きく轟く咆哮。聴いたこともないような声であり、重く響く、悲しげな音も含んだ声。
呪いの力を受け、白銀の鱗を持つ、巨大なドラゴンとなったベルトルド。その背には翼が生えているが片方のみだけで、鳥の翼のようである。その翼は漆黒の色をしていた。
それに気づいたシ・アティウスが、震えるような声で呻く。
「やはりそうか、そうでしたか」
そばに集まっていたライオン傭兵団は、怪訝そうにシ・アティウスを見る。
「なるほど、なるほど、完全に合点がいきました。シグネから確証を得てはいたが、これを見れば納得できます」
「何に、合点がいったんで…?」
首をかしげるギャリーに、シ・アティウスはニヤリと笑ってみせる。
「ベルトルドとアルカネットの正体ですよ」
ライオン傭兵団の皆は、咆哮を上げ続ける白銀のドラゴンに目を向け、再度シ・アティウスを見た。
「正体って…まさか、人間じゃなかったんです~。とか言うんじゃ…」
どっからどう見ても、あれじゃ人間じゃないし? とザカリーはぼやく。
「あのドラゴンの姿は、キュッリッキ嬢の説明であったように、ユリディスの力によるものでしょう。私が言いたいのは、彼らのルーツのことです」
眼鏡のレンズをおし上げながら、シ・アティウスは教壇に立つ教師のような口調で説明を始めた。
「あの二人はスキル〈才能〉がOverランクという、人類史上稀に見る強大な力を有していました。思いっきり人外のレベルです。これまでトリプルSランクまでは記録に残っていますが、それも稀な方です。それに、アルカネットは魔法スキル〈才能〉の持ち主なのに、サイ《超能力》まで使ったそうですね」
「うん。威力は多分Aクラス並だと思うけど、空間転移まで使いこなすんだからビックリしたよー」
ルーファスが肩をすくめる。
「ベルトルドが使う”終わりなき無限の剣(グラム)”も、ギミックがいまひとつ判りませんでした。彼自身もよく判らず使っていたのですが、あれは魔法スキル〈才能〉によるものです」
はああああ!? とタルコットとヴァルトが揃って声を上げた。
それは、酷いことをされた以上に、深く深く愛されていたからだ。
生まれて初めて、愛していると言ってくれたのは、ベルトルドだった。
ファニーやハドリーとは、友愛を育んできたが、それ以上の愛をくれたのは、ベルトルドが初めてだったのだ。
親や同族から捨てられ、忌み嫌われ、人間から愛などもらったこともない。
ずっと、自分にだけ注いでくれる愛が欲しくて、愛に飢えていた。愛されることがどんなに幸せなことなのか、知りたいと願っていた。
血のつながりもない、なんの関係もなかったのに、ベルトルドは優しさと愛を惜しみなく注いでくれて、世界中で一番愛されている女の子にしてくれた。普通の女の子のようになれた。
ベルトルドが愛をくれたから、だからキュッリッキは愛を知った。そして、メルヴィンに恋をすることができた。
誰も気づいてくれなかった、与えてくれなかった全てを、ベルトルドはくれた。
労わるように、優しく見つめてくれるメルヴィンの手を、キュッリッキは両手でしっかりと握った。初めて恋をした人、異性を感じ、愛した人。この人と共に、ずっと生きていく。
ベルトルドから向けられる恋愛を、キュッリッキは受け入れなかった。それは、すでに父親の愛だと、認識してしまっていたからだ。アルカネットからの愛も、ベルトルドからの愛も。
神への復讐のために、キュッリッキの全てを傷つけた事実は許されない。でも、それ以上に与えられた愛が、キュッリッキの心から、憎む気持ちを拭っていた。
室内に大きく轟く咆哮。聴いたこともないような声であり、重く響く、悲しげな音も含んだ声。
呪いの力を受け、白銀の鱗を持つ、巨大なドラゴンとなったベルトルド。その背には翼が生えているが片方のみだけで、鳥の翼のようである。その翼は漆黒の色をしていた。
それに気づいたシ・アティウスが、震えるような声で呻く。
「やはりそうか、そうでしたか」
そばに集まっていたライオン傭兵団は、怪訝そうにシ・アティウスを見る。
「なるほど、なるほど、完全に合点がいきました。シグネから確証を得てはいたが、これを見れば納得できます」
「何に、合点がいったんで…?」
首をかしげるギャリーに、シ・アティウスはニヤリと笑ってみせる。
「ベルトルドとアルカネットの正体ですよ」
ライオン傭兵団の皆は、咆哮を上げ続ける白銀のドラゴンに目を向け、再度シ・アティウスを見た。
「正体って…まさか、人間じゃなかったんです~。とか言うんじゃ…」
どっからどう見ても、あれじゃ人間じゃないし? とザカリーはぼやく。
「あのドラゴンの姿は、キュッリッキ嬢の説明であったように、ユリディスの力によるものでしょう。私が言いたいのは、彼らのルーツのことです」
眼鏡のレンズをおし上げながら、シ・アティウスは教壇に立つ教師のような口調で説明を始めた。
「あの二人はスキル〈才能〉がOverランクという、人類史上稀に見る強大な力を有していました。思いっきり人外のレベルです。これまでトリプルSランクまでは記録に残っていますが、それも稀な方です。それに、アルカネットは魔法スキル〈才能〉の持ち主なのに、サイ《超能力》まで使ったそうですね」
「うん。威力は多分Aクラス並だと思うけど、空間転移まで使いこなすんだからビックリしたよー」
ルーファスが肩をすくめる。
「ベルトルドが使う”終わりなき無限の剣(グラム)”も、ギミックがいまひとつ判りませんでした。彼自身もよく判らず使っていたのですが、あれは魔法スキル〈才能〉によるものです」
はああああ!? とタルコットとヴァルトが揃って声を上げた。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヒロインは始まる前に退場していました
サクラ
ファンタジー
とある乙女ゲームの世界で目覚めたのは、原作を知らない一人の少女
産まれた時点で本来あるべき道筋を外れてしまっていた彼女は、知らない世界でどう生き抜くのか。
母の愛情、突然の別れ、事故からの死亡扱いで目覚めた場所はゴミ捨て場
捨てる神あれば拾う神あり?
人の温かさに触れて成長する少女に再び訪れる試練。
そして、本来のヒロインが現れない世界ではどんな未来が訪れるのか。
主人公が7歳になる頃までは平和、ホノボノが続きます。
ダークファンタジーになる予定でしたが、主人公ヴィオの天真爛漫キャラに ダーク要素は少なめとなっております。
同作品を『小説を読もう』『カクヨム』でも配信中。カクヨム先行となっております
追いつくまで しばらくの間 0時、12時の一日2話更新としております
工芸職人《クラフトマン》はセカンドライフを謳歌する
鈴木竜一
ファンタジー
旧題:工芸職人《クラフトマン》はセカンドライフを謳歌する~ブラック商会をクビになったので独立したら、なぜか超一流の常連さんたちが集まってきました~
【お知らせ】
このたび、本作の書籍化が正式に決定いたしました。
発売は今月(6月)下旬!
詳細は近況ボードにて!
超絶ブラックな労働環境のバーネット商会に所属する工芸職人《クラフトマン》のウィルムは、過労死寸前のところで日本の社畜リーマンだった前世の記憶がよみがえる。その直後、ウィルムは商会の代表からクビを宣告され、石や木片という簡単な素材から付与効果付きの武器やアイテムを生みだせる彼のクラフトスキルを頼りにしてくれる常連の顧客(各分野における超一流たち)のすべてをバカ息子であるラストンに引き継がせると言いだした。どうせ逆らったところで無駄だと悟ったウィルムは、退職金代わりに隠し持っていた激レアアイテムを持ちだし、常連客たちへ退職報告と引き継ぎの挨拶を済ませてから、自由気ままに生きようと隣国であるメルキス王国へと旅立つ。
ウィルムはこれまでのコネクションを駆使し、田舎にある森の中で工房を開くと、そこで畑を耕したり、家畜を飼育したり、川で釣りをしたり、時には町へ行ってクラフトスキルを使って作ったアイテムを売ったりして静かに暮らそうと計画していたのだ。
一方、ウィルムの常連客たちは突然の退職が代表の私情で行われたことと、その後の不誠実な対応、さらには後任であるラストンの無能さに激怒。大貴族、Sランク冒険者パーティーのリーダー、秘境に暮らす希少獣人族集落の長、世界的に有名な鍛冶職人――などなど、有力な顧客はすべて商会との契約を打ち切り、ウィルムをサポートするため次々と森にある彼の工房へと集結する。やがて、そこには多くの人々が移住し、最強クラスの有名人たちが集う村が完成していったのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる