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フリングホルニ編
episode760
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使い慣れない空間転移を乱用しすぎて、アルカネットはガエルたちが考える以上に、激しく気力と体力を消耗していた。
戦闘での消耗もあったが、31年も存在し続けた仮面(ペルソナ)人格を駆逐する為に、精神力を大量に使っていたからだ。
サイ《超能力》を攻撃の形で使うのは、これが初めてだった。普段はほぼテレパスにサイ《超能力》は働いており、それも受信オンリーである。サイ《超能力》のコントロール訓練等受けてもいないし、隠れて練習も何もしたことがない。いきなり実戦で使っているから、精神力の配分がまだ掴めていなかった。そこへ、この室内の結界維持と、本来の魔法コントロールが重なり、精神と身体への負担は甚大だ。
疲労しているところなど、絶対彼らに気づかれるわけにはいかない――。
そう思った瞬間、アルカネットは自らに激怒した。
(この私が疲労していると!? これから神を倒しに行くというのに、あんなゴミごときに、押されているなどありえない事です!)
宣言時間はとっくに過ぎており、そればかりか大幅に時間をとっている。しかも、まだ目の前の彼らには、死人が出ていない。負傷はしているが、ドーピングでピンピンしているのだ。
リューディアの復讐を遂げるまで、こんなところで足踏みしている場合ではない。
もう、神へ手の届くところまできている。
フリングホルニはすでに大気圏を抜けている。月までは船の空間跳躍システムを使えば、すぐ到達できるのだ。
レディトゥス・システムに向かったメルヴィンたちの存在も気になる。ベルトルドが死守しているが、果たしてあちらの状況はどうなっているのか。
ここまできて、煩わされることが多すぎる。
アルカネットは大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。端整な顔には落ち着きが戻り、優美な笑みが、ゆっくりと広がっていく。
「まだまだ、甚振り度が足りないようですね」
ベルトルドと共に神への復讐を決意したとき、これに異を唱え、反対する者がいた。
愛しいリューディアの弟のリュリュだ。
本来なら、姉の復讐のために、共に手を取り進むべきはずのリュリュは、ベルトルドとアルカネットの邪魔をするために、あらゆる手を講じてきた。
そのもっとも忌々しい存在が、目の前のライオン傭兵団である。
表立ってはベルトルドが、後ろ盾だのスポンサーだのと言われているが、実際は彼らを引き込み、ベルトルドへ後ろ盾につくよう強要したのはリュリュなのだ。そうして子飼いとしてライオン傭兵団を手元へ置き、こうして送り込んできた。
レディトゥス・システムへ閉じ込めたキュッリッキの救出が目的だろうが、それは神への復讐を阻害されることと同義である。
いまだにリュリュの真意を、アルカネットは理解出来ていない。
何故姉を殺した残酷な神へ、復讐しようとしないのか。リュリュもSランクのサイ《超能力》を持っている。
あまりサイ《超能力》を戦闘で使う機会はないが、コントロールも優秀だ。本当の味方になっていれば、頼もしい戦力となっただろう。
それなのに、復讐を諦めるように言い続け、邪魔をし、阻止しようと企んでいる。
リューディアを奪われて、悲しくはないのか?
もう二度と、優しく微笑んでくれることもない、明るく話しかけてくれることもない。
永遠に失ったそのリューディアを、惜しむ気持ちはないのか?
今日までリュリュを殺さなかったのは、ベルトルドに止められていたこともあるが、その顔に、リューディアの懐かしい面影を見てしまうからだった。顔立ちは似ていないのだが、やはりそこは血のつながりだろう。
だがその躊躇いがライオン傭兵団を、この船に招くきっかけとなったといっても過言ではない。
31年経った今も、一瞬たりとも忘れたことはない。リューディアの命を儚く摘み取った、あの強大な雷(いかずち)を。
キュッリッキの話によれば、あの雷を落としたのは、トールという神。
――必ず、殺してやる。
アルカネットは握り締めた拳に、魔力を込め高めていく。そして、ゆっくりと目を閉じた。
「神を殺すまで、私はこんなところで立ち止まっているわけにはいかないのです。絶対に、アルケラへたどり着き、復讐を遂げます」
戦闘での消耗もあったが、31年も存在し続けた仮面(ペルソナ)人格を駆逐する為に、精神力を大量に使っていたからだ。
サイ《超能力》を攻撃の形で使うのは、これが初めてだった。普段はほぼテレパスにサイ《超能力》は働いており、それも受信オンリーである。サイ《超能力》のコントロール訓練等受けてもいないし、隠れて練習も何もしたことがない。いきなり実戦で使っているから、精神力の配分がまだ掴めていなかった。そこへ、この室内の結界維持と、本来の魔法コントロールが重なり、精神と身体への負担は甚大だ。
疲労しているところなど、絶対彼らに気づかれるわけにはいかない――。
そう思った瞬間、アルカネットは自らに激怒した。
(この私が疲労していると!? これから神を倒しに行くというのに、あんなゴミごときに、押されているなどありえない事です!)
宣言時間はとっくに過ぎており、そればかりか大幅に時間をとっている。しかも、まだ目の前の彼らには、死人が出ていない。負傷はしているが、ドーピングでピンピンしているのだ。
リューディアの復讐を遂げるまで、こんなところで足踏みしている場合ではない。
もう、神へ手の届くところまできている。
フリングホルニはすでに大気圏を抜けている。月までは船の空間跳躍システムを使えば、すぐ到達できるのだ。
レディトゥス・システムに向かったメルヴィンたちの存在も気になる。ベルトルドが死守しているが、果たしてあちらの状況はどうなっているのか。
ここまできて、煩わされることが多すぎる。
アルカネットは大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。端整な顔には落ち着きが戻り、優美な笑みが、ゆっくりと広がっていく。
「まだまだ、甚振り度が足りないようですね」
ベルトルドと共に神への復讐を決意したとき、これに異を唱え、反対する者がいた。
愛しいリューディアの弟のリュリュだ。
本来なら、姉の復讐のために、共に手を取り進むべきはずのリュリュは、ベルトルドとアルカネットの邪魔をするために、あらゆる手を講じてきた。
そのもっとも忌々しい存在が、目の前のライオン傭兵団である。
表立ってはベルトルドが、後ろ盾だのスポンサーだのと言われているが、実際は彼らを引き込み、ベルトルドへ後ろ盾につくよう強要したのはリュリュなのだ。そうして子飼いとしてライオン傭兵団を手元へ置き、こうして送り込んできた。
レディトゥス・システムへ閉じ込めたキュッリッキの救出が目的だろうが、それは神への復讐を阻害されることと同義である。
いまだにリュリュの真意を、アルカネットは理解出来ていない。
何故姉を殺した残酷な神へ、復讐しようとしないのか。リュリュもSランクのサイ《超能力》を持っている。
あまりサイ《超能力》を戦闘で使う機会はないが、コントロールも優秀だ。本当の味方になっていれば、頼もしい戦力となっただろう。
それなのに、復讐を諦めるように言い続け、邪魔をし、阻止しようと企んでいる。
リューディアを奪われて、悲しくはないのか?
もう二度と、優しく微笑んでくれることもない、明るく話しかけてくれることもない。
永遠に失ったそのリューディアを、惜しむ気持ちはないのか?
今日までリュリュを殺さなかったのは、ベルトルドに止められていたこともあるが、その顔に、リューディアの懐かしい面影を見てしまうからだった。顔立ちは似ていないのだが、やはりそこは血のつながりだろう。
だがその躊躇いがライオン傭兵団を、この船に招くきっかけとなったといっても過言ではない。
31年経った今も、一瞬たりとも忘れたことはない。リューディアの命を儚く摘み取った、あの強大な雷(いかずち)を。
キュッリッキの話によれば、あの雷を落としたのは、トールという神。
――必ず、殺してやる。
アルカネットは握り締めた拳に、魔力を込め高めていく。そして、ゆっくりと目を閉じた。
「神を殺すまで、私はこんなところで立ち止まっているわけにはいかないのです。絶対に、アルケラへたどり着き、復讐を遂げます」
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