片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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フリングホルニ編

episode759

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「自分にイラアルータ・トニトルスをぶちかますとは、さすがに思わなかったぜ」

 身体を起こしながら、ギャリーは薄く笑った。

「オレたちの力は屁の河童でも、自分の力じゃ大ダメージもらってんじゃね?」

 立ち上がってシラーを構え、ギャリーは嫌味を吐きつける。

 実際、自らのイラアルータ・トニトルスを浴びたアルカネットは、見た目でも消耗しているのが、ようやく判る状態になっていた。それほどの魔力を投入しないと、シラーのリヴヤーターン・モードを弾き飛ばせなかったのだ。

「やはり、接近戦は相性が悪いですね。調子に乗りすぎたようです……自重しなければ」

 忌々しげに口元を歪め、アルカネットは自らを嗜める。

「調子に乗ってくれた方が、やりやすかったんだがよ」

 残念そうにギャリーは息をついた。

 また空間転移を乱用され、死角から魔法攻撃されると分が悪い。

(おい、ギャリー)

(あん?)

(そろそろオレにも出番くれ。リュリュさんからもらった魔弾が、てんこ盛りで余りまくりなんだよ……)

(へへっ、そーだなあ……)

 魔剣シラーのリヴヤーターン・モードは、敵を自動追尾する。空間転移されても、自ら追いかけるのでいいが、射撃は的がフラフラしていると当てづらい。さすがに魔銃バーガットでも、撃った魔弾が自動追尾する機能までは有していないのだ。

 サイ《超能力》は精神力によってコントロールされる。集中力も規格外のアルカネットの精神を、大混乱に陥らせることができれば、空間転移の乱用だけは阻止できるかもしれない。

(だったらもう、ドンパチのオンパレードで、攪乱攻撃しかないよね!)

 ルーファスの提案に、皆神妙に唸った。

(おそらくそれでいいだろう…)

 ずしりとした声が割って入り、ようやくガエルが意識を取り戻した。

(ハーマンの魔法乱舞、ギャリーのリヴヤーターン・モード、ザカリーの魔弾連打で攪乱し、ペルラのアサシン能力で的確に位置を狙って短剣を放ち、ルーとカーティスが防御結界を張って皆を援護だ。そして、マーゴットも攻撃魔法を使え)

(えっ!?)

 常に蚊帳の外に置かれていたマーゴットは、いきなり役割を振られて激しく動揺した。

(とにかく攻撃魔法を使え。コントロールなんて繊細なことは考えなくていい、攪乱が目的だからな)

(でも私、そんな…いきなり)

(ここは戦場だ。ついてきたのなら、役に立て)

 突っぱねるように言われ、マーゴットはカーティスを見る。しかし、カーティスはいつものように、庇い立てはしてくれなかった。顔も振り向けず、背中が拒絶しているのが見て判る。

 マーゴットは拗ねたように顔をしかめると、ギュッと握った自分の手の甲を、鋭く睨みつけた。

 傭兵として、これまで戦闘では殆ど役に立ったことはない。得意な――だと思い込んでいる――回復魔法すら使わせてもらえない。せいぜいが、夜道を照らす明かり係か、野宿の時の焚き火に火をつけるくらいである。

 何もしなくても、みんなと同じ報酬をもらっていた。仲間だから、当然だと思っていた。

 キュッリッキを助けるために同行したが、本音では嫌だった。

 カーティスの恋人であり、ライオン傭兵団のマスコット的存在だったのに、キュッリッキがきてからすっかりその座を追われてしまった。挙句、後ろ盾のベルトルドやアルカネットに溺愛され、みんなもチヤホヤしてやまない。

 攻撃魔法は得意ではない。それなのに、使って役に立てと言われてしまった。

(マーゴット、今後、傭兵を続けていきたいのなら、ガエルの指示に従ってください。それができなければ、もうウチには必要ありません)

「そんなっ」

 思わず口をついて、マーゴットは腰を浮かせた。カーティスからそんな言葉を聞く日がくるとは、思いもよらなかった。

「ちんたら昼ドラしてる暇はねえよ、行くぞ!」

 ギャリーの号令に、ハーマンとザカリーは攻撃を開始した。ギャリーは再びシラーに命じると、リヴヤーターン・モードを発動させてアルカネットに向けた。

 案の定アルカネットは、空間転移を使って攻撃をかわしはじめた。しかし、アルカネットが移動してきた場所へ、すかさずペルラが短剣を放つ。防御魔法でアルカネットの身を貫くことはできなかったが、それでも逃げた場所へ短剣が確実に飛んでくることで、アルカネットは僅かに動揺していた。

 アサシン技術は、魔法やサイ《超能力》に対抗するために編み出された。ペルラはアサシンのエキスパートでもある。

 無秩序に飛び交うライオン傭兵団の攻撃に、アルカネットは徐々に押され始めた。

「猪口才な……ぬっ」

 その攻撃に、新たな攻撃魔法が加わって、アルカネットは少し目を見張る。

 普段何もせず後ろに隠れているマーゴットが、お粗末な攻撃魔法を仕掛けてきているのだ。

 あの程度は攻撃の数にもならないが、それでも目障りなこと、この上なかった。

「やればできるじゃねーかよ」

 ニヤリと口元を歪ませギャリーが言うと、マーゴットはツンッとそっぽを向いた。
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