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フリングホルニ編
episode756
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血まみれで、仰向けに床に転がるガエルを見おろし、アルカネットは小さく鼻を鳴らした。正面に視線を向けると、床に這いつくばるように息の荒いカーティスやギャリーたちがいる。
ベルトルドとメルヴィンたちのパーティが戦闘を開始した頃、アルカネットをとどめていたガエルたちは、あまりの猛攻撃に満身創痍だった。
「先程までの、小生意気な威勢はどうしたのでしょう? そんな無様では、私が楽しめないではないですか」
背にはやした漆黒の片翼を軽く羽ばたかせ、アルカネットはニヤリとほくそ笑んだ。羽ばたきとともに、抜けたいくつかの黒い羽が宙を舞う。
(化物プラス、悪魔だありゃ……。いや、魔王とか魔神の類かもしれん)
魔剣シラーに寄りかかりながら、ギャリーは肩で荒い息をつく。とにかく普通の人間とは規格外、という点では、当たらずも遠からずな表現ばかりが浮かんでくる。それには「やれやれ…」といった雰囲気の仲間たちの同意が、念話で静かに流れていた。
アルカネットの中の仮面(ペルソナ)が消え去ってから、アルカネットの繰り出す攻撃は、ますます苛烈を極めた。
これまでの高位攻撃魔法の連続に加え、ルーファスが透視し指摘したように、サイ《超能力》も使い始めたのだ。生憎サイ《超能力》のほうは、ベルトルドに比べると威力は遥かに落ちるものの、空間転移で攻撃をことごとくかわされて厄介だった。
転移によって意表を突いた場所から、強烈な魔法攻撃を叩きつけられるので、ルーファスの防御では手がまわらず、急遽カーティスも防御支援に回る。
遠隔攻撃を得意とするザカリーの銃撃も、不意をつくペルラの攻撃も、空間転移でかわされ当てることができずにいた。
(どうも考えが足りなかったというか、当てが外れすぎたというか……。ベルトルド卿のほうへ、支援組みを回しすぎたようです)
深々とため息をつきながら、カーティスは簾のような前髪の奥の目を細めた。せめてシビルでもこの場に残しておけば、防御と回復を任せられた。なまじベルトルドの強力なサイ《超能力》による攻撃を考えると、あれでも足りないくらい、と思っていたからだ。
(まっさかサイ《超能力》まで使うなんて、誰も知らなかったんだからしょーがないよ~~)
乱れた髪を手櫛で整えながら、ルーファスもひっそりと息をつく。
本来スキル〈才能〉というものは、一つだけを授かり生まれてくる。二つのスキル〈才能〉を、まして、レアスキル〈才能〉と呼ばれる魔法とサイ《超能力》を両方備えているなど、誰が想像できよう。過去を遡っても、そんな記録はどこにも残っていない。もしかしたら公にされていないだけかもしれなかったが、それでも魔法とサイ《超能力》のダブルスキル〈才能〉など発覚すれば、すぐさま世界中に広まるだろう。
それなりに付き合いはあったが、よくも徹底して隠し通せたものだと、ルーファスは呆れてしまっていた。
開幕戦で高位の攻撃魔法を連打し続けたハーマンは、魔力の消耗が激しく、疲労の局地にあるため下がらせている。ガエルも息が上がってきていたため、カーティスとギャリーのコンビが前に出た。すると、サイ《超能力》を絡めたアルカネットの猛攻撃が始まって、あっという間にのされる有様だ。
なんとか場をしのぐためにガエルが無理をしたが、疲労で注意力が削げていたルーファスの防御が半端となってしまい、ガエルはかなりの深手をおってしまっていた。
(早くガエルの止血をしないと……)
マーゴットが沈痛な声を念話にこぼすが、そんなことはカーティスも百も承知だ。
アルカネットの近くにガエルは倒れている。今飛び出してガエルを回収しようとしても、避けることもできずにアルカネットからの攻撃を浴びる羽目になる。
まだみんな息も整っていない。その状態で飛び出せば、ミイラ取りになるのだ。
それがよく判っているのか、アルカネットはその場で不敵な笑みを浮かべ、カーティスたちを見ている。とくに攻撃姿勢をとるわけでもなく、襲って来いと言わんばかりだ。
(昔っから、あのドS野郎は、インケンで度し難いと思っていたがよ、今の”アルカネット”は、更にパワーアップしてんな……)
ベルトルドとメルヴィンたちのパーティが戦闘を開始した頃、アルカネットをとどめていたガエルたちは、あまりの猛攻撃に満身創痍だった。
「先程までの、小生意気な威勢はどうしたのでしょう? そんな無様では、私が楽しめないではないですか」
背にはやした漆黒の片翼を軽く羽ばたかせ、アルカネットはニヤリとほくそ笑んだ。羽ばたきとともに、抜けたいくつかの黒い羽が宙を舞う。
(化物プラス、悪魔だありゃ……。いや、魔王とか魔神の類かもしれん)
魔剣シラーに寄りかかりながら、ギャリーは肩で荒い息をつく。とにかく普通の人間とは規格外、という点では、当たらずも遠からずな表現ばかりが浮かんでくる。それには「やれやれ…」といった雰囲気の仲間たちの同意が、念話で静かに流れていた。
アルカネットの中の仮面(ペルソナ)が消え去ってから、アルカネットの繰り出す攻撃は、ますます苛烈を極めた。
これまでの高位攻撃魔法の連続に加え、ルーファスが透視し指摘したように、サイ《超能力》も使い始めたのだ。生憎サイ《超能力》のほうは、ベルトルドに比べると威力は遥かに落ちるものの、空間転移で攻撃をことごとくかわされて厄介だった。
転移によって意表を突いた場所から、強烈な魔法攻撃を叩きつけられるので、ルーファスの防御では手がまわらず、急遽カーティスも防御支援に回る。
遠隔攻撃を得意とするザカリーの銃撃も、不意をつくペルラの攻撃も、空間転移でかわされ当てることができずにいた。
(どうも考えが足りなかったというか、当てが外れすぎたというか……。ベルトルド卿のほうへ、支援組みを回しすぎたようです)
深々とため息をつきながら、カーティスは簾のような前髪の奥の目を細めた。せめてシビルでもこの場に残しておけば、防御と回復を任せられた。なまじベルトルドの強力なサイ《超能力》による攻撃を考えると、あれでも足りないくらい、と思っていたからだ。
(まっさかサイ《超能力》まで使うなんて、誰も知らなかったんだからしょーがないよ~~)
乱れた髪を手櫛で整えながら、ルーファスもひっそりと息をつく。
本来スキル〈才能〉というものは、一つだけを授かり生まれてくる。二つのスキル〈才能〉を、まして、レアスキル〈才能〉と呼ばれる魔法とサイ《超能力》を両方備えているなど、誰が想像できよう。過去を遡っても、そんな記録はどこにも残っていない。もしかしたら公にされていないだけかもしれなかったが、それでも魔法とサイ《超能力》のダブルスキル〈才能〉など発覚すれば、すぐさま世界中に広まるだろう。
それなりに付き合いはあったが、よくも徹底して隠し通せたものだと、ルーファスは呆れてしまっていた。
開幕戦で高位の攻撃魔法を連打し続けたハーマンは、魔力の消耗が激しく、疲労の局地にあるため下がらせている。ガエルも息が上がってきていたため、カーティスとギャリーのコンビが前に出た。すると、サイ《超能力》を絡めたアルカネットの猛攻撃が始まって、あっという間にのされる有様だ。
なんとか場をしのぐためにガエルが無理をしたが、疲労で注意力が削げていたルーファスの防御が半端となってしまい、ガエルはかなりの深手をおってしまっていた。
(早くガエルの止血をしないと……)
マーゴットが沈痛な声を念話にこぼすが、そんなことはカーティスも百も承知だ。
アルカネットの近くにガエルは倒れている。今飛び出してガエルを回収しようとしても、避けることもできずにアルカネットからの攻撃を浴びる羽目になる。
まだみんな息も整っていない。その状態で飛び出せば、ミイラ取りになるのだ。
それがよく判っているのか、アルカネットはその場で不敵な笑みを浮かべ、カーティスたちを見ている。とくに攻撃姿勢をとるわけでもなく、襲って来いと言わんばかりだ。
(昔っから、あのドS野郎は、インケンで度し難いと思っていたがよ、今の”アルカネット”は、更にパワーアップしてんな……)
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