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フリングホルニ編
episode753
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手にしている立体パネルを操作しながら、シ・アティウスは誰にも気づかれないほどの、小さな笑みを口元に浮かべた。
キュッリッキが無事レディトゥス・システムから助け出されたことが、実はとても嬉しいのである。
アルケラをこの目で見たい、神という存在を知りたい。そういう興味本位からベルトルド達に手を貸してしまったが、ベルトルドの腕に抱かれたキュッリッキの絶望した顔を見た時に、激しく後悔したのだ。
初めてナルバ山の遺跡で出会った時から、これまで密かに観察してきた。
重い過去を背負いながらも、くるくると愛くるしい表情を浮かべるこの美しい少女が、シ・アティウスは大好きだった。メルヴィンと恋人同士になってから、ますます良い表情をするようになった。
恋愛感情などは一切ナイが、自分の子供を見ているような気分に浸ってしまうのだ。家庭など持っていないし子供もいないが、父親とはきっとこんな気持ちなのだろうと、つい思ってしまう。
この短い時間で、レディトゥス・システムの中で何があったのだろう。目が自然と追いかけてしまうほど、素敵な顔になっている。まだ全てを乗り越えたわけではないだろうが、今まで以上に惹きつける魅力をたたえていた。
「フェンリルの声が全然聞こえないんだ、どうしちゃったんだろう、早く探してよー」
勝手に狼の姿に戻っていたフローズヴィトニルは、仔犬の姿に戻ると、メルヴィンに抱かれているキュッリッキの腕の中に飛び移った。
その瞬間ズシッと重みが増し、メルヴィンの表情が小さく歪んだ。
「グレイプニルっていう特殊な縄で縛られちゃってるの。そのせいで、意識を失ってたから、フローズヴィトニルともコンタクトとれないのね」
キュッリッキは困ったように、腕の中のフローズヴィトニルに溜息をついた。
「ここに転送します」
そう言って、シ・アティウスはパネルのボタンを押した。すると、シ・アティウスの足元に、フェンリルが横たわったまま姿を現した。
「フェンリル!」
レディトゥス・システムの台座の上に転送されてきたフェンリルに、フローズヴィトニルが飛び乗って、前脚でフェンリルの顔を叩く。
「起きてー、フェンリルってばー」
キュッリッキはおろしてもらうと、フェンリルのそばに膝をついた。
「フェンリル……」
白銀の毛並みに、蛇のようにぐるぐると巻かれた黒い縄。触れると縄は、まるで鋼のように硬い。掴んで引っ張ってみるが、まるで表皮に吸い付いたように、ぴくりとも動かないのだ。
「一体どうやって外せばいいのかな…」
シ・アティウスを見上げるが、頭は横に振られた。
唇を尖らせて縄を睨みつけていると、
「オレが爪竜刀で斬ってみましょうか」
メルヴィンが爪竜刀の切っ先を、グレイプニルに当てる。
「ダメ、メルヴィン。そんなことしたら、フェンリルが怪我しちゃう」
「え、あ、すみません……」
メルヴィンはすぐに爪竜刀を引っ込めると、申し訳なさそうに肩をすくめた。
暫くグレイプニルを見つめていたキュッリッキは、小さく頷いた。
「ちょっと、意識をリンクしてみるね。フローズヴィトニル、手伝って」
「わかったあ!」
フローズヴィトニルはキュッリッキの肩に飛び乗り、頭の上に前脚を置いて、肩の上に立ち上がる。
「いつでもいいよ~」
尻尾をフサフサ揺らしながら、ご機嫌丸出しの声をあげる。
「このグレイプニルを作らせた巫女の記憶に、直接アプローチして方法を探すわ」
驚きでどよめくみんなの声を黙殺して、キュッリッキは目を閉じた。
キュッリッキが無事レディトゥス・システムから助け出されたことが、実はとても嬉しいのである。
アルケラをこの目で見たい、神という存在を知りたい。そういう興味本位からベルトルド達に手を貸してしまったが、ベルトルドの腕に抱かれたキュッリッキの絶望した顔を見た時に、激しく後悔したのだ。
初めてナルバ山の遺跡で出会った時から、これまで密かに観察してきた。
重い過去を背負いながらも、くるくると愛くるしい表情を浮かべるこの美しい少女が、シ・アティウスは大好きだった。メルヴィンと恋人同士になってから、ますます良い表情をするようになった。
恋愛感情などは一切ナイが、自分の子供を見ているような気分に浸ってしまうのだ。家庭など持っていないし子供もいないが、父親とはきっとこんな気持ちなのだろうと、つい思ってしまう。
この短い時間で、レディトゥス・システムの中で何があったのだろう。目が自然と追いかけてしまうほど、素敵な顔になっている。まだ全てを乗り越えたわけではないだろうが、今まで以上に惹きつける魅力をたたえていた。
「フェンリルの声が全然聞こえないんだ、どうしちゃったんだろう、早く探してよー」
勝手に狼の姿に戻っていたフローズヴィトニルは、仔犬の姿に戻ると、メルヴィンに抱かれているキュッリッキの腕の中に飛び移った。
その瞬間ズシッと重みが増し、メルヴィンの表情が小さく歪んだ。
「グレイプニルっていう特殊な縄で縛られちゃってるの。そのせいで、意識を失ってたから、フローズヴィトニルともコンタクトとれないのね」
キュッリッキは困ったように、腕の中のフローズヴィトニルに溜息をついた。
「ここに転送します」
そう言って、シ・アティウスはパネルのボタンを押した。すると、シ・アティウスの足元に、フェンリルが横たわったまま姿を現した。
「フェンリル!」
レディトゥス・システムの台座の上に転送されてきたフェンリルに、フローズヴィトニルが飛び乗って、前脚でフェンリルの顔を叩く。
「起きてー、フェンリルってばー」
キュッリッキはおろしてもらうと、フェンリルのそばに膝をついた。
「フェンリル……」
白銀の毛並みに、蛇のようにぐるぐると巻かれた黒い縄。触れると縄は、まるで鋼のように硬い。掴んで引っ張ってみるが、まるで表皮に吸い付いたように、ぴくりとも動かないのだ。
「一体どうやって外せばいいのかな…」
シ・アティウスを見上げるが、頭は横に振られた。
唇を尖らせて縄を睨みつけていると、
「オレが爪竜刀で斬ってみましょうか」
メルヴィンが爪竜刀の切っ先を、グレイプニルに当てる。
「ダメ、メルヴィン。そんなことしたら、フェンリルが怪我しちゃう」
「え、あ、すみません……」
メルヴィンはすぐに爪竜刀を引っ込めると、申し訳なさそうに肩をすくめた。
暫くグレイプニルを見つめていたキュッリッキは、小さく頷いた。
「ちょっと、意識をリンクしてみるね。フローズヴィトニル、手伝って」
「わかったあ!」
フローズヴィトニルはキュッリッキの肩に飛び乗り、頭の上に前脚を置いて、肩の上に立ち上がる。
「いつでもいいよ~」
尻尾をフサフサ揺らしながら、ご機嫌丸出しの声をあげる。
「このグレイプニルを作らせた巫女の記憶に、直接アプローチして方法を探すわ」
驚きでどよめくみんなの声を黙殺して、キュッリッキは目を閉じた。
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