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フリングホルニ編
episode752
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「タルコットさん、引っ張ってください!」
「うん、ヴァルト引っ張れ!」
「まーーかせろおおおおおおっ!!」
メルヴィンを掴んでいるタルコットが引っ張り、そのタルコットを掴んでいるヴァルトが、渾身の力を込めて引っ張った。
「どりゃああっ!」
ガラスの柩に上半身を埋めていたメルヴィンが引っ張り出され、メルヴィンの手に掴まれていたキュッリッキが、ようやく柩の外に引っ張り出された。
「キューリちゃん!」
「キューリさん!」
マリオンとシビルが嬉しそうに声を上げた。
「いってぇ……」
3人を引っ張り上げた拍子に、ヴァルトは盛大に後ろに倒れると、台座から転げ落ちてしまった。ランドンがやれやれと頭を振って、ヴァルトのそばに膝をつく。
ヴァルトは口を尖らせ台座を見上げると、メルヴィンの腕の中に、キュッリッキがしっかりと抱かれているのを確認した。
「良かった、無事でいてくれて、本当に良かった……」
安堵を吐き出すように、メルヴィンはそっと言った。
腕や手に伝わる、キュッリッキの柔らかな温もりを久しく感じる。やっと助け出すことができて、こうして再び腕にだくことができて、本当に良かったと心の底から思う。
キュッリッキは、メルヴィンの肩に顔を伏せて、小さく泣いていた。
「リッキー……」
囁くように呼ばれ、キュッリッキは伏せていた顔を上げた。
「ごめん……ね、メルヴィンごめんな……さい…」
しゃくり上げながら、たどたどしくキュッリッキは謝った。こうしてメルヴィンに抱かれているのに、罪悪感が後から後から沸き上がってくる。まともに顔を見ることさえできなかった。
「オレのほうこそ、ごめんなさい。守ると言っておきながら、いつも守りきれていなくて……」
悔しさを滲ませて、メルヴィンは目を伏せた。何故こんなに苦しい思いをさせたあとで、助け出す羽目になるのかと、自分の不甲斐なさを責めた。しっかり守っていれば、傷つけることもなかったのに。
「メルヴィン悪くないんだよ、だって、ちゃんと助けに来てくれたもん」
「いや、あの時、アジトでオレが意識を失ったりしなければ、リッキーを奪われることもなかったはずだから」
あの失態は、今もメルヴィンの心に深い後悔を刻んでいる。キュッリッキを抱く手に、無意識に力がこもった。
メルヴィンは強い。しかし、ベルトルドはもっと強い。スキル〈才能〉の種類が違うこともあるが、ベルトルドの力はもはや出鱈目の領域だ。戦闘スキル〈才能〉のメルヴィンとでは相性が悪いのだ。
こんなふうに後悔させてしまい、キュッリッキは自分の軽率な行動にこそ、責任を感じている。安易にベルトルドを信じて、身をあずけた結果が招いたことなのだ。そしてベルトルドに辱められたこともまた、自分の油断が全てだと思っている。
ベルトルドの顔を思い出し、ベルトルドが自分の中に入ってきた時の感触を思い出して、キュッリッキはふいに身を固くした。
「リッキー…」
メルヴィンはキュッリッキを見つめると、額にそっと口づけた。そして、頬にも口づけた。
「メルヴィン?」
キュッリッキが不思議そうに顔を上げると、今度はその唇にそっと口づけた。
瞬きながら見つめるメルヴィンの目は、優しく真摯な光をたたえていた。
「リッキーが汚れたと感じたところは、オレがこうして消毒しますから。だから、もう泣かないでください」
たっぷりと間を置いたあと、キュッリッキの顔は瞬時に真っ赤に染まった。
「えと、えと」
メルヴィンの言わんとしていることを理解し、全身から汗が噴き出す。
(それってつまり、それってつまり……)
真っ赤になるキュッリッキに、メルヴィンはニッコリと笑いかけた。
「あー……お二人さぁん~、せっかくの二人っきりぃの世界の中で申し訳ないんだけどぉ、なぁんか、あっちのほうが、激ヤバなかんじなのぉ」
マリオンが眉間に縦ジワを刻みながら、こめかみに指を当てる。
「何かあったんです?」
「ルーたちのほうが、なんかヤバ~イ展開になってきてるみたい。向こうも混乱しててぇ、うまく通信出来ないわぁ」
マリオンのサイ《超能力》レベルはAAランクである。普段間延びしているが、スキル〈才能〉は最高レベルだ。
「マリオンさんでもよく判らないってのは、マズイかもですね。我々も向こうに合流しないと」
シビルが尻尾をフサフサ揺らしながら提案した。キュッリッキを無事救出できた、ここでやることはもう終わっている。
「ちょっと待ってよーーー!!」
突然、子供のような声が、大きく室内に響き渡った。
「フェンリル助ける約束、ちゃんと守ってよ!」
緊張感のない声が、それでも怒りを顕に滲ませている。フローズヴィトニルだった。
「キュッリッキ助けたんだから、今度はフェンリル助けて!」
「そうだわ、フェンリル助けなくっちゃ」
キュッリッキもハッとすると、少し離れたところにいたシ・アティウスに顔を向けた。
「シ・アティウスさん、フェンリルどこにいるのか知らない?」
突然話を向けられたシ・アティウスは、クイッと眼鏡を押し上げると、小さく頷いた。
「ちょっとお待ちください」
「うん、ヴァルト引っ張れ!」
「まーーかせろおおおおおおっ!!」
メルヴィンを掴んでいるタルコットが引っ張り、そのタルコットを掴んでいるヴァルトが、渾身の力を込めて引っ張った。
「どりゃああっ!」
ガラスの柩に上半身を埋めていたメルヴィンが引っ張り出され、メルヴィンの手に掴まれていたキュッリッキが、ようやく柩の外に引っ張り出された。
「キューリちゃん!」
「キューリさん!」
マリオンとシビルが嬉しそうに声を上げた。
「いってぇ……」
3人を引っ張り上げた拍子に、ヴァルトは盛大に後ろに倒れると、台座から転げ落ちてしまった。ランドンがやれやれと頭を振って、ヴァルトのそばに膝をつく。
ヴァルトは口を尖らせ台座を見上げると、メルヴィンの腕の中に、キュッリッキがしっかりと抱かれているのを確認した。
「良かった、無事でいてくれて、本当に良かった……」
安堵を吐き出すように、メルヴィンはそっと言った。
腕や手に伝わる、キュッリッキの柔らかな温もりを久しく感じる。やっと助け出すことができて、こうして再び腕にだくことができて、本当に良かったと心の底から思う。
キュッリッキは、メルヴィンの肩に顔を伏せて、小さく泣いていた。
「リッキー……」
囁くように呼ばれ、キュッリッキは伏せていた顔を上げた。
「ごめん……ね、メルヴィンごめんな……さい…」
しゃくり上げながら、たどたどしくキュッリッキは謝った。こうしてメルヴィンに抱かれているのに、罪悪感が後から後から沸き上がってくる。まともに顔を見ることさえできなかった。
「オレのほうこそ、ごめんなさい。守ると言っておきながら、いつも守りきれていなくて……」
悔しさを滲ませて、メルヴィンは目を伏せた。何故こんなに苦しい思いをさせたあとで、助け出す羽目になるのかと、自分の不甲斐なさを責めた。しっかり守っていれば、傷つけることもなかったのに。
「メルヴィン悪くないんだよ、だって、ちゃんと助けに来てくれたもん」
「いや、あの時、アジトでオレが意識を失ったりしなければ、リッキーを奪われることもなかったはずだから」
あの失態は、今もメルヴィンの心に深い後悔を刻んでいる。キュッリッキを抱く手に、無意識に力がこもった。
メルヴィンは強い。しかし、ベルトルドはもっと強い。スキル〈才能〉の種類が違うこともあるが、ベルトルドの力はもはや出鱈目の領域だ。戦闘スキル〈才能〉のメルヴィンとでは相性が悪いのだ。
こんなふうに後悔させてしまい、キュッリッキは自分の軽率な行動にこそ、責任を感じている。安易にベルトルドを信じて、身をあずけた結果が招いたことなのだ。そしてベルトルドに辱められたこともまた、自分の油断が全てだと思っている。
ベルトルドの顔を思い出し、ベルトルドが自分の中に入ってきた時の感触を思い出して、キュッリッキはふいに身を固くした。
「リッキー…」
メルヴィンはキュッリッキを見つめると、額にそっと口づけた。そして、頬にも口づけた。
「メルヴィン?」
キュッリッキが不思議そうに顔を上げると、今度はその唇にそっと口づけた。
瞬きながら見つめるメルヴィンの目は、優しく真摯な光をたたえていた。
「リッキーが汚れたと感じたところは、オレがこうして消毒しますから。だから、もう泣かないでください」
たっぷりと間を置いたあと、キュッリッキの顔は瞬時に真っ赤に染まった。
「えと、えと」
メルヴィンの言わんとしていることを理解し、全身から汗が噴き出す。
(それってつまり、それってつまり……)
真っ赤になるキュッリッキに、メルヴィンはニッコリと笑いかけた。
「あー……お二人さぁん~、せっかくの二人っきりぃの世界の中で申し訳ないんだけどぉ、なぁんか、あっちのほうが、激ヤバなかんじなのぉ」
マリオンが眉間に縦ジワを刻みながら、こめかみに指を当てる。
「何かあったんです?」
「ルーたちのほうが、なんかヤバ~イ展開になってきてるみたい。向こうも混乱しててぇ、うまく通信出来ないわぁ」
マリオンのサイ《超能力》レベルはAAランクである。普段間延びしているが、スキル〈才能〉は最高レベルだ。
「マリオンさんでもよく判らないってのは、マズイかもですね。我々も向こうに合流しないと」
シビルが尻尾をフサフサ揺らしながら提案した。キュッリッキを無事救出できた、ここでやることはもう終わっている。
「ちょっと待ってよーーー!!」
突然、子供のような声が、大きく室内に響き渡った。
「フェンリル助ける約束、ちゃんと守ってよ!」
緊張感のない声が、それでも怒りを顕に滲ませている。フローズヴィトニルだった。
「キュッリッキ助けたんだから、今度はフェンリル助けて!」
「そうだわ、フェンリル助けなくっちゃ」
キュッリッキもハッとすると、少し離れたところにいたシ・アティウスに顔を向けた。
「シ・アティウスさん、フェンリルどこにいるのか知らない?」
突然話を向けられたシ・アティウスは、クイッと眼鏡を押し上げると、小さく頷いた。
「ちょっとお待ちください」
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