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フリングホルニ編
episode748
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キュッリッキは暫く泣きじゃくっていた。そんなキュッリッキを慰めるように抱きしめているユリディスの表情には、苦いものが広がっている。ヒューゴの表情にもまた、苦いものしか浮かんでいなかった。
「クレメッティ王からしてみれば、私はあの程度の存在でしかなかったのです。辱める姿を見世物にしたのも、クレメッティ王からしてみれば、ただの余興です」
キュッリッキの頭を優しく撫でながら、淡々とユリディスは続けた。
「長い間、平民や貧困層から多くの税金を搾取し、クレメッティ王はフリングホルニを建造していました。反対する貴族や豪族は皆殺しにし、財産を押収して費用にあいててもいました。神の力を手に入れるため、神々の世界アルケラへ至るために。アイオン族やトゥーリ族を滅ぼし、世界の全てを己の手にするために…」
すでに、神王国ソレルは疲弊しきっていた。王都から離れていくほど、民心も疲弊し、王を弑するために立ち上がる者さえも、現れないほどに。
建材に予算を多く取られるため、同じヴィプネン族でありながら、多くの民が奴隷として集められて働かされた。
クレメッティ王は民の血も涙も一滴残らず搾り取り、己の野望を果たすためフリングホルニを完成させたのだ。
「レディトゥス・システムに閉じ込められた私には、もうどうすることもできませんでした。そしてその頃、縛られ自由を奪われていたフェンリルの暴走が、始まろうとしていたのです」
足元の映像には、縛られたフェンリルが映し出された。
白銀の毛並みを持つ巨狼の身体には、黒い縄が巻かれ、縛られていた。
首から下は動かすことができず、牙を剥いて唸るだけである。
「フェンリルの力が……ものすごく膨らんでる」
「ええ。巫女以外には推し量ることができない神の力が、もうあれだけ膨らんでいます。――私の何代か前の巫女が作らせたというグレイプニル、私はあれの存在を知りませんでした。おそらく先代のヴェルナ様もご存知なかったと思います。そのため、あのような狼藉を許してしまう羽目になってしまった…私の責任でもあります」
「フェンリル……」
キュッリッキは涙にくれる目で、縛られ唸るだけしか出来ないフェンリルを、痛ましく見つめた。
フェンリルの力を抑え込むことが出来るというグレイプニル。しかし、あのグレイプニルは完全ではなかった。
中途半端に抑えつけられ、今にも力が爆発しそうなのだ。
「フェンリルは、巫女を護るために地上に遣わされた神です。姿は獣でも、神なのです。クレメッティ王はそのフェンリルの前で私を辱め、レディトゥス・システムの中に封じ込めました。フェンリルの怒りは凄まじいものです」
そして最悪の事態は起こってしまった。
ユリディスが辱められた室内に捨て置かれていたフェンリルの戒めが解け、同時に抑え込まれていた巨大な力も、一気に暴発した。
咆哮と共に白銀色の光が王都を瞬時に吹き飛ばし、惑星ヒイシのいたるところに飛び散った。そればかりか、空間を突き抜け惑星ペッコ、惑星タピオにも力は拡散し、世界は白銀色の光によって数日に渡り大破壊された。
神王国ソレルは崩壊した。
その様子を映像で見て、キュッリッキは言葉を失っていた。
フェンリルの力がどれだけ凄まじいものなのか、初めて目の当たりにしたのだ。
いつも小さな仔犬の姿で寄り添い、必要に応じて狼の姿に戻る。でも、あれだけの力を振るったことなど一度もない。
「あ…」
ふとキュッリッキは思い出す。
「どうしよう、フェンリルまたグレイプニルに捕まってて、たぶん今も捕まったままなの」
「……眠っているのかしら、強い力の波動は感じないわね」
耳を澄ますように、ユリディスは目を閉じ頷く。
「もし、目を覚まして、またフェンリル暴走しちゃったら……どうしようユリディス」
「今見せた映像のように、世界はまた大きな被害を受けることになるわ」
もしそんなことになれば、ライオン傭兵団のみんなも、ファニーとハドリーも、そしてなにより、メルヴィンもどうなるか判らない。たとえ命が無事でも、家も何もかも吹き飛んでしまうだろう。
それ以前に、ベルトルドによってアジトが吹き飛ばされている事など知らないキュッリッキは、みんなのことを思って、心に焦りを広がらせた。
「キュッリッキ、貴女がフェンリルを助けなくては」
「クレメッティ王からしてみれば、私はあの程度の存在でしかなかったのです。辱める姿を見世物にしたのも、クレメッティ王からしてみれば、ただの余興です」
キュッリッキの頭を優しく撫でながら、淡々とユリディスは続けた。
「長い間、平民や貧困層から多くの税金を搾取し、クレメッティ王はフリングホルニを建造していました。反対する貴族や豪族は皆殺しにし、財産を押収して費用にあいててもいました。神の力を手に入れるため、神々の世界アルケラへ至るために。アイオン族やトゥーリ族を滅ぼし、世界の全てを己の手にするために…」
すでに、神王国ソレルは疲弊しきっていた。王都から離れていくほど、民心も疲弊し、王を弑するために立ち上がる者さえも、現れないほどに。
建材に予算を多く取られるため、同じヴィプネン族でありながら、多くの民が奴隷として集められて働かされた。
クレメッティ王は民の血も涙も一滴残らず搾り取り、己の野望を果たすためフリングホルニを完成させたのだ。
「レディトゥス・システムに閉じ込められた私には、もうどうすることもできませんでした。そしてその頃、縛られ自由を奪われていたフェンリルの暴走が、始まろうとしていたのです」
足元の映像には、縛られたフェンリルが映し出された。
白銀の毛並みを持つ巨狼の身体には、黒い縄が巻かれ、縛られていた。
首から下は動かすことができず、牙を剥いて唸るだけである。
「フェンリルの力が……ものすごく膨らんでる」
「ええ。巫女以外には推し量ることができない神の力が、もうあれだけ膨らんでいます。――私の何代か前の巫女が作らせたというグレイプニル、私はあれの存在を知りませんでした。おそらく先代のヴェルナ様もご存知なかったと思います。そのため、あのような狼藉を許してしまう羽目になってしまった…私の責任でもあります」
「フェンリル……」
キュッリッキは涙にくれる目で、縛られ唸るだけしか出来ないフェンリルを、痛ましく見つめた。
フェンリルの力を抑え込むことが出来るというグレイプニル。しかし、あのグレイプニルは完全ではなかった。
中途半端に抑えつけられ、今にも力が爆発しそうなのだ。
「フェンリルは、巫女を護るために地上に遣わされた神です。姿は獣でも、神なのです。クレメッティ王はそのフェンリルの前で私を辱め、レディトゥス・システムの中に封じ込めました。フェンリルの怒りは凄まじいものです」
そして最悪の事態は起こってしまった。
ユリディスが辱められた室内に捨て置かれていたフェンリルの戒めが解け、同時に抑え込まれていた巨大な力も、一気に暴発した。
咆哮と共に白銀色の光が王都を瞬時に吹き飛ばし、惑星ヒイシのいたるところに飛び散った。そればかりか、空間を突き抜け惑星ペッコ、惑星タピオにも力は拡散し、世界は白銀色の光によって数日に渡り大破壊された。
神王国ソレルは崩壊した。
その様子を映像で見て、キュッリッキは言葉を失っていた。
フェンリルの力がどれだけ凄まじいものなのか、初めて目の当たりにしたのだ。
いつも小さな仔犬の姿で寄り添い、必要に応じて狼の姿に戻る。でも、あれだけの力を振るったことなど一度もない。
「あ…」
ふとキュッリッキは思い出す。
「どうしよう、フェンリルまたグレイプニルに捕まってて、たぶん今も捕まったままなの」
「……眠っているのかしら、強い力の波動は感じないわね」
耳を澄ますように、ユリディスは目を閉じ頷く。
「もし、目を覚まして、またフェンリル暴走しちゃったら……どうしようユリディス」
「今見せた映像のように、世界はまた大きな被害を受けることになるわ」
もしそんなことになれば、ライオン傭兵団のみんなも、ファニーとハドリーも、そしてなにより、メルヴィンもどうなるか判らない。たとえ命が無事でも、家も何もかも吹き飛んでしまうだろう。
それ以前に、ベルトルドによってアジトが吹き飛ばされている事など知らないキュッリッキは、みんなのことを思って、心に焦りを広がらせた。
「キュッリッキ、貴女がフェンリルを助けなくては」
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