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フリングホルニ編
episode744
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あの二人になら、なんでも話せる。
自分がアルケラの巫女で、ベルトルドにされた酷いことを、死にたいほど苦しい思いを、全部話せる。そして、ファニーとハドリーに慰めて欲しかった。
二人はきっと、話を聞いて励ましてくれるだろう。でも、もしかしたらファニーは叱ってくるかもしれない。慰めにかかるのはハドリーのほうかもしれなかった。
メルヴィンに合わせる顔はない。汚れ切った自分を、愛するメルヴィンの前に出すなど考えられない。それにライオンのみんなにも、羞恥できっと顔も合わせられない。家族(なかま)になったはずなのに、合わせる顔がない。
今の状態のキュッリッキを理解し、しっかり受け止めてくれるのは、ファニーとハドリーだけだと思った。
二人に無性に会いたくなり、キュッリッキは目に涙を浮かべた。
「ああ…泣かないで、キュッリッキ」
ユリディスの小さな手が、白い頬を伝う涙を、労わるようにそっと拭ってくれる。
「さあ、場面は10年進むわよ」
そうユリディスが言うと、足元の映像には大人になったヒューゴ、そして、幼いままのユリディスが映っていた。
キュッリッキは手で目を擦り、映像に目を向け、何度か瞬いた。
「ユリディス、ちょっとだけ大きくなったけど、子供のまま?」
横に居る姿のままである。
「巫女は初潮を迎える歳になると、外見の成長が止まってしまうの。老化しなくなるのね。私は12歳のころに、初潮がくることになっていたみたい」
「生理きて、ないんだ?」
「ええ。身体はずっと、子供のままなのよ」
キュッリッキは思わず、自分のおっぱいを両手で鷲掴んだ。
初潮は13歳の時にきた。
(おっぱいがあんまりおっきくないのは、もしかしたら巫女だから!?)
とは言っても、毎月生理はきているし、13歳の時より身体は大きくなっている。
――はずだ。
(成長はしてるんだよね……だったら、おっぱいがち……ちっさいのは、種族のせいなんだから!)
思わずグッと拳を握って、誰かに言うような表情で天を仰ぐ。
「どうしたの? キュッリッキ」
突然挙動がおかしくなったキュッリッキを、ユリディスが不思議そうに覗き込んだ。
「な…なんでもないよっ!」
あたふたしながら、キュッリッキは誤魔化し笑いを浮かべて、手をぶんぶん振った。
「で、ユリディスとヒューゴは、何をしているの?」
話題をそらせようとすると、ユリディスは急に不機嫌そうに片方の頬を膨らませ、唇を尖らせた。
「……ヒューゴに告白して、フラれたところよ」
「………え?」
そこは神殿の中庭だろうか。多くの植木と、小さいが美しい池が設置されている。
緻密な彫刻の施された大理石のベンチにユリディスは座り、傍らにヒューゴは立って、ユリディスを見おろしていた。
ユリディスは小さな手を膝の上で何度も組み合わせては、落ち着きなくドレスを掴んだりしている。その様子を、ヒューゴはただじっと見つめていた。
「あ、あの…」
「うん?」
か細い声を出したユリディスに、ヒューゴが穏やかに返事をする。
「その…」
「うん」
「ヒューゴはその……私のこと、好きですか?」
顔を真っ赤にして、ユリディスは振り絞るように言う。
「うん。ユリディスのこと、大好きだよ」
屈託のない表情(かお)で、ヒューゴはにっこりと頷いた。
花が咲いたように、パアーッと明るい笑みが広がりかかったユリディスに、しかしヒューゴは片手を上げた。
「でもね、ボクがユリディスを大好きだと思う気持ちは、親友としてだよ」
瞬間、ユリディスの表情が、固く凍りついた。
「ボクは、イーダを愛してる。ずっと、小さい時から、イーダだけを見ている」
ヒューゴの表情は、ずっと穏やかな笑みを浮かべたままだ。
「だから、ユリディスの恋心を、ボクは受け入れられないんだ。ごめんね」
暫くユリディスは、途方にくれたような顔で、ヒューゴをずっと凝視していた。そしてヒューゴもまた、穏やかな表情のまま、ユリディスを見つめていた。
12歳の時に外見の時間(とき)が止まったユリディスは17歳、ヒューゴは出会った時から10年経ち、3歳年上の20歳。
少女のような面影はなくなり、ほどよく引き締まった体躯と、優しい風貌はそのままに、端整で大人の顔をするヒューゴ。
長い時間そうしていた二人は、やがてユリディスがため息をついて終わった。
「そんなに昔から想い合っていたのなら、私の入る隙間はないわね」
「え、それって、イーダもボクのこと好きなの?」
想い合っていた、の部分に気づいて、ヒューゴは驚いたように目を見張った。
「ええ、イーダの口から直接聞いたもの」
「や……やったあ! てっきり恋愛対象外って思われてたと思ってたのに、そうなんだ…そうか…ははっ」
ちょっと混乱気味に言うヒューゴに、ユリディスは悲しげに微笑んでいた。
自分がアルケラの巫女で、ベルトルドにされた酷いことを、死にたいほど苦しい思いを、全部話せる。そして、ファニーとハドリーに慰めて欲しかった。
二人はきっと、話を聞いて励ましてくれるだろう。でも、もしかしたらファニーは叱ってくるかもしれない。慰めにかかるのはハドリーのほうかもしれなかった。
メルヴィンに合わせる顔はない。汚れ切った自分を、愛するメルヴィンの前に出すなど考えられない。それにライオンのみんなにも、羞恥できっと顔も合わせられない。家族(なかま)になったはずなのに、合わせる顔がない。
今の状態のキュッリッキを理解し、しっかり受け止めてくれるのは、ファニーとハドリーだけだと思った。
二人に無性に会いたくなり、キュッリッキは目に涙を浮かべた。
「ああ…泣かないで、キュッリッキ」
ユリディスの小さな手が、白い頬を伝う涙を、労わるようにそっと拭ってくれる。
「さあ、場面は10年進むわよ」
そうユリディスが言うと、足元の映像には大人になったヒューゴ、そして、幼いままのユリディスが映っていた。
キュッリッキは手で目を擦り、映像に目を向け、何度か瞬いた。
「ユリディス、ちょっとだけ大きくなったけど、子供のまま?」
横に居る姿のままである。
「巫女は初潮を迎える歳になると、外見の成長が止まってしまうの。老化しなくなるのね。私は12歳のころに、初潮がくることになっていたみたい」
「生理きて、ないんだ?」
「ええ。身体はずっと、子供のままなのよ」
キュッリッキは思わず、自分のおっぱいを両手で鷲掴んだ。
初潮は13歳の時にきた。
(おっぱいがあんまりおっきくないのは、もしかしたら巫女だから!?)
とは言っても、毎月生理はきているし、13歳の時より身体は大きくなっている。
――はずだ。
(成長はしてるんだよね……だったら、おっぱいがち……ちっさいのは、種族のせいなんだから!)
思わずグッと拳を握って、誰かに言うような表情で天を仰ぐ。
「どうしたの? キュッリッキ」
突然挙動がおかしくなったキュッリッキを、ユリディスが不思議そうに覗き込んだ。
「な…なんでもないよっ!」
あたふたしながら、キュッリッキは誤魔化し笑いを浮かべて、手をぶんぶん振った。
「で、ユリディスとヒューゴは、何をしているの?」
話題をそらせようとすると、ユリディスは急に不機嫌そうに片方の頬を膨らませ、唇を尖らせた。
「……ヒューゴに告白して、フラれたところよ」
「………え?」
そこは神殿の中庭だろうか。多くの植木と、小さいが美しい池が設置されている。
緻密な彫刻の施された大理石のベンチにユリディスは座り、傍らにヒューゴは立って、ユリディスを見おろしていた。
ユリディスは小さな手を膝の上で何度も組み合わせては、落ち着きなくドレスを掴んだりしている。その様子を、ヒューゴはただじっと見つめていた。
「あ、あの…」
「うん?」
か細い声を出したユリディスに、ヒューゴが穏やかに返事をする。
「その…」
「うん」
「ヒューゴはその……私のこと、好きですか?」
顔を真っ赤にして、ユリディスは振り絞るように言う。
「うん。ユリディスのこと、大好きだよ」
屈託のない表情(かお)で、ヒューゴはにっこりと頷いた。
花が咲いたように、パアーッと明るい笑みが広がりかかったユリディスに、しかしヒューゴは片手を上げた。
「でもね、ボクがユリディスを大好きだと思う気持ちは、親友としてだよ」
瞬間、ユリディスの表情が、固く凍りついた。
「ボクは、イーダを愛してる。ずっと、小さい時から、イーダだけを見ている」
ヒューゴの表情は、ずっと穏やかな笑みを浮かべたままだ。
「だから、ユリディスの恋心を、ボクは受け入れられないんだ。ごめんね」
暫くユリディスは、途方にくれたような顔で、ヒューゴをずっと凝視していた。そしてヒューゴもまた、穏やかな表情のまま、ユリディスを見つめていた。
12歳の時に外見の時間(とき)が止まったユリディスは17歳、ヒューゴは出会った時から10年経ち、3歳年上の20歳。
少女のような面影はなくなり、ほどよく引き締まった体躯と、優しい風貌はそのままに、端整で大人の顔をするヒューゴ。
長い時間そうしていた二人は、やがてユリディスがため息をついて終わった。
「そんなに昔から想い合っていたのなら、私の入る隙間はないわね」
「え、それって、イーダもボクのこと好きなの?」
想い合っていた、の部分に気づいて、ヒューゴは驚いたように目を見張った。
「ええ、イーダの口から直接聞いたもの」
「や……やったあ! てっきり恋愛対象外って思われてたと思ってたのに、そうなんだ…そうか…ははっ」
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