片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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フリングホルニ編

episode740

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 まだ自分よりも幼い容姿のユリディスに抱きしめられ、キュッリッキの心は少しずつ落ち着きを取り戻していた。何故だかとても、心休まるのだ。見た目より、お姉さんなのかなと感じるほどに。

 キュッリッキの落ち着いた様子に、ユリディスは口を開く。

「神王国ソレル最後の王クレメッティは、貪欲の塊だった。長く続く戦争に、終止符を打ちたかったのも、単に、他種族を自らの支配に置きたかったから。民に施すこともせず、神を敬うこともしない。己の欲望にのみ動く王でした」

 幼い響きを持つ声だが、悲しみに満ち、キュッリッキの心に沁みていくように広がる。

「神の力を欲し、フリングホルニを建造させ、レディトゥス・システムに私を閉じ込めることに、なんの躊躇いもなかった。人前で私を犯すことにも、喜々とし率先して遂げました。巫女の地位に就いて15年、その間ほんの数回ほどしか直接会っていません。神を敬わないのだから、当然私にも会いませんでしたし。――でも、王の野望は潰えました」

「フェンリルが暴走した…」

「はい。グレイプニルによって束縛されていたフェンリルの力が、暴走したのです。フェンリルの力は、惑星ヒイシだけにとどまらず、惑星タピオ、惑星ペッコにも及び、世界は半壊してしまいました」

 キュッリッキは目を見張った。

「1万年前に何が起こったのか、あなたに見ていただきたいのです」

 ユリディスは懇願するように、頭を下げた。すると、二人の足元に波紋が起こり、やがて新たな景色を映し出していった。



 平凡で身体的特徴を持たないヴィプネン族、背に翼を持ち容姿の優れたアイオン族、動物と人とを混合したトゥーリ族を、神はそれぞれ生み出した。そして、各種族には惑星を与えて、そこを治めさせた。

 ヴィプネン族は惑星ヒイシを与えられ、3種族の中では一番に種族統一国家が生まれた。それが、ソレル王国と呼ばれる、モナルダ大陸の海岸沿いを首都にした、ヴィプネン族の国だ。

 アイオン族やトゥーリ族のように、身体的にはなんら特徴を持たないが、好奇心や探究心は旺盛で、良いものは積極的に取り入れ進化させる。発明においても研究においても、他種族と圧倒的な差を見せつけるほどに。

 国はどんどん栄え、組織は拡大し、惑星ヒイシはほぼ完全に統一された。

 ソレル王国の開祖ハンヌス・ヤルヴィレフトから、ソレル王国はヤルヴィレフト王家によって治められていくことになる。

 暫くは聡明な王が排出され、国は安定と繁栄を続けていた。数千年という長い時を、緩やかに治めていた。しかし、長い時を刻むに連れ、愚王が出現し始める。

 国は安定していたが、アイオン族とトゥーリ族との戦争が絶え間なく続き、戦局が拡大・悪化していくと、ヤルヴィレフト王家にも陰りが射し始めたのだ。

 それを後押しするかのように、アルケラの巫女がここ何代か続けて、ヴィプネン族から排出された。そのことでヤルヴィレフト王家は驕り、国の名を”神王国ソレル”と称し、ヴィプネン族の優位性をアイオン族とトゥーリ族に見せつけたのだ。

 戦争はどんどん泥沼と化し、クレメッティ王の誕生とともに、神王国ソレルは崩壊をはじめて行く。
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