800 / 882
フリングホルニ編
episode737
しおりを挟む
突然ベルトルドが消えて解放されたメルヴィンは、床に突っ伏して倒れ込むと、激しく咳き込んだ。
「メルヴィン!」
ランドンが慌てて駆け寄り、メルヴィンの喉に手をかざす。
「土に流した毒は、二度と身体に戻らない。
胸から流れ出た苦痛も
戻ることなく去らしめよ…」
回復魔法の柔らかな熱が、痛む喉にじんわりと染み込んでくる。
「意識は大丈夫?」
不安そうにランドンに聞かれ、メルヴィンは小さく頷いた。
何度も大きく息を吸い込み吐き出す。それを何度か繰り返し、回復魔法の効果も手伝って、メルヴィンの身体は落ち着きを取り戻してきていた。
「なあなあ、おっさんドコいっちゃったんだ??」
ヴァルトがレディトゥス・システムの台座の上にいるシ・アティウスに問いかける。
手にしていた立体パネルを操作していたシ・アティウスは、
「ふむ……アルカネットのところへ跳んだようですね」
無精ひげの生える顎をさすりながら答えた。
「あんだけ偉そうに死守していたってのに、あっさり敵前逃亡するとか」
「まー、おっさん消えたし、いんじゃね?」
納得いかない顔をするタルコットに、ヴァルトが無邪気に笑いかけた。
「シ・アティウスさん、リッキーをそこから出してください!!」
メルヴィンは身を起こすと、台座の上のシ・アティウスに、食いつかんばかりに叫んだ。
「そーだそーだ! おっさんが逃げたんだから、フセンショーってやつだ」
両手を腰に当て、ヴァルトはふんぞり返って加勢する。
その様子をジッと見つめ、シ・アティウスは小さく頷いた。
「確かに、ベルトルド様が勝手に逃げたんですから、手助けしても、そのことで文句は言えませんね」
立体パネルを操作し、シ・アティウスはやや難しそうに口を歪める。
「このレディトゥス・システムは、一見ただのガラスの柩のように見えますが、柩の中は亜空間になっています。アルケラの巫女をこの中に入れると、亜空間の中に巫女を閉じ込め、システムと巫女を連結してしまいます。そうなると、巫女は自力で亜空間から出ることができません。召喚の力を使っても、外には出られない」
それがどういうことなのか、皆よく判らずにいる様子に、シ・アティウスは小さく微笑んだ。
「1万年前、最後のアルケラの巫女ユリディスがこの中に閉じ込められ、しかし、フリングホルニは飛び立つことなく地中に埋もれてしまいました。その後、ユリディスは助けられることなく、亜空間の中でシステムに繋がれたままになりました。――ユリディスの意志は、確かにこの中に息づいている。すがってみましょう」
「それってつまり……シ・アティウスさんも、助け方が判らない、てこと?」
縞模様の尻尾をぽてぽて振りながら、シビルが不安そうに言う。
「身も蓋もない言い方をすると、そうなります」
「ナンダッテーーー!!!」
ヴァルトの絶叫が、動力部室内に木霊した。
「リッキー…」
ただの透明なガラスの柩にしか見えないレディトゥス・システムに両掌を押し付け、メルヴィンはそっと呼びかけた。
「オレの声、中に届きますか?」
隣に立つシ・アティウスに、メルヴィンは不安そうに言う。
「判りません。起動実験のデータも残されていませんし、用が済んで巫女を中から出す、というところまで、設計に加わっていたのかも謎ですから」
「作られたの、1万年前ですしね…」
設計者も何も生きていない。シビルが泣きそうな顔で肩を落とす。
「てめーらバカだなあ!」
いきなり台座の下から呆れたようにヴァルトが叫び、一斉に批難の視線が集中する。
「さっきそこのおっさんが言っただろ! ユリなんたらにすがるって。だったら、ユリなんたらに必死で訴えかければいーじゃんか!!」
「……声が届くかどうか、判らないって話をしているわけで…」
「わからねーもんは、やるだけやってみればいーだけダロ!!」
怒鳴り返されて、シビルは首を引っ込めた。
「きゅーり待ってんだろ!」
「そうですね、その通りです」
メルヴィンは頷いた。
「ヴァルトさんの言う通りです。ユリディスという人に訴えかける、それに望みをかけましょう」
助ける方法が判らないのなら、少しの可能性にも賭ける。
「ユリディスさん、聞こえますか? 聞こえていたら、この中に囚われている、キュッリッキという女性を助ける力を、どうか貸してください!」
「メルヴィン!」
ランドンが慌てて駆け寄り、メルヴィンの喉に手をかざす。
「土に流した毒は、二度と身体に戻らない。
胸から流れ出た苦痛も
戻ることなく去らしめよ…」
回復魔法の柔らかな熱が、痛む喉にじんわりと染み込んでくる。
「意識は大丈夫?」
不安そうにランドンに聞かれ、メルヴィンは小さく頷いた。
何度も大きく息を吸い込み吐き出す。それを何度か繰り返し、回復魔法の効果も手伝って、メルヴィンの身体は落ち着きを取り戻してきていた。
「なあなあ、おっさんドコいっちゃったんだ??」
ヴァルトがレディトゥス・システムの台座の上にいるシ・アティウスに問いかける。
手にしていた立体パネルを操作していたシ・アティウスは、
「ふむ……アルカネットのところへ跳んだようですね」
無精ひげの生える顎をさすりながら答えた。
「あんだけ偉そうに死守していたってのに、あっさり敵前逃亡するとか」
「まー、おっさん消えたし、いんじゃね?」
納得いかない顔をするタルコットに、ヴァルトが無邪気に笑いかけた。
「シ・アティウスさん、リッキーをそこから出してください!!」
メルヴィンは身を起こすと、台座の上のシ・アティウスに、食いつかんばかりに叫んだ。
「そーだそーだ! おっさんが逃げたんだから、フセンショーってやつだ」
両手を腰に当て、ヴァルトはふんぞり返って加勢する。
その様子をジッと見つめ、シ・アティウスは小さく頷いた。
「確かに、ベルトルド様が勝手に逃げたんですから、手助けしても、そのことで文句は言えませんね」
立体パネルを操作し、シ・アティウスはやや難しそうに口を歪める。
「このレディトゥス・システムは、一見ただのガラスの柩のように見えますが、柩の中は亜空間になっています。アルケラの巫女をこの中に入れると、亜空間の中に巫女を閉じ込め、システムと巫女を連結してしまいます。そうなると、巫女は自力で亜空間から出ることができません。召喚の力を使っても、外には出られない」
それがどういうことなのか、皆よく判らずにいる様子に、シ・アティウスは小さく微笑んだ。
「1万年前、最後のアルケラの巫女ユリディスがこの中に閉じ込められ、しかし、フリングホルニは飛び立つことなく地中に埋もれてしまいました。その後、ユリディスは助けられることなく、亜空間の中でシステムに繋がれたままになりました。――ユリディスの意志は、確かにこの中に息づいている。すがってみましょう」
「それってつまり……シ・アティウスさんも、助け方が判らない、てこと?」
縞模様の尻尾をぽてぽて振りながら、シビルが不安そうに言う。
「身も蓋もない言い方をすると、そうなります」
「ナンダッテーーー!!!」
ヴァルトの絶叫が、動力部室内に木霊した。
「リッキー…」
ただの透明なガラスの柩にしか見えないレディトゥス・システムに両掌を押し付け、メルヴィンはそっと呼びかけた。
「オレの声、中に届きますか?」
隣に立つシ・アティウスに、メルヴィンは不安そうに言う。
「判りません。起動実験のデータも残されていませんし、用が済んで巫女を中から出す、というところまで、設計に加わっていたのかも謎ですから」
「作られたの、1万年前ですしね…」
設計者も何も生きていない。シビルが泣きそうな顔で肩を落とす。
「てめーらバカだなあ!」
いきなり台座の下から呆れたようにヴァルトが叫び、一斉に批難の視線が集中する。
「さっきそこのおっさんが言っただろ! ユリなんたらにすがるって。だったら、ユリなんたらに必死で訴えかければいーじゃんか!!」
「……声が届くかどうか、判らないって話をしているわけで…」
「わからねーもんは、やるだけやってみればいーだけダロ!!」
怒鳴り返されて、シビルは首を引っ込めた。
「きゅーり待ってんだろ!」
「そうですね、その通りです」
メルヴィンは頷いた。
「ヴァルトさんの言う通りです。ユリディスという人に訴えかける、それに望みをかけましょう」
助ける方法が判らないのなら、少しの可能性にも賭ける。
「ユリディスさん、聞こえますか? 聞こえていたら、この中に囚われている、キュッリッキという女性を助ける力を、どうか貸してください!」
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。
なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。
二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。
失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。
――そう、引き篭もるようにして……。
表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。
じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。
ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。
ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。
【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~
柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」
テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。
この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。
誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。
しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。
その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。
だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。
「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」
「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」
これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語
2月28日HOTランキング9位!
3月1日HOTランキング6位!
本当にありがとうございます!


転生調理令嬢は諦めることを知らない!
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。

Fランクの光魔術師ですが、チートな魔剣士に覚醒しました。~あれ? この魔剣、勇者の聖剣より強くね?~
ヒツキノドカ
ファンタジー
「ユーク、遠距離魔術を使えない君なんてもういらないよ」
光魔術師のユークはある日突然勇者パーティを追放される。
光魔術は全属性の中で最高の威力を持つが、ユークには遠距離魔術の才能がなかったのだ。
絶望するユークだったが、あるきっかけで魔剣を手に入れる。
そしてユークが魔剣に魔力を流した途端――ヴゥンッ、という音を立てて光の刃が出現した。
防御不能の最強魔剣、【光の魔剣(フォトンソード)】の誕生である。
「これなら俺も戦えるかもしれない」
ユークは光属性の魔剣を使い次々と手柄を上げていく。
ダンジョンをあっさりクリア。
街を襲う邪教徒たちも殲滅。
真の仲間も手に入れ、あっという間に成り上がっていく。
一方、ユークを失った勇者パーティには徐々に暗雲が立ち込める。
今までの輝かしい実績はユークがいたからこそだと気付き、ユークを連れ戻そうとするがもう遅い。
すでにユークは勇者よりもはるかに強くなっていたから。
これは遠距離魔術の才能はなく、代わりに魔剣士としては最強の少年が栄光を手にする物語。
ーーーーーー
ーーー
※毎日十二時更新です!(初日のみ鬼更新)
【宣伝!】
現在連載中の、
『厨二魔導士の無双が止まらないようです~「貴族じゃないから」と魔導学院を追放された少年、実は規格外の実力者~』
が書籍化されます!
こちらもよろしくお願いします~!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる