片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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フリングホルニ編

episode737

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 突然ベルトルドが消えて解放されたメルヴィンは、床に突っ伏して倒れ込むと、激しく咳き込んだ。

「メルヴィン!」

 ランドンが慌てて駆け寄り、メルヴィンの喉に手をかざす。

「土に流した毒は、二度と身体に戻らない。

 胸から流れ出た苦痛も

 戻ることなく去らしめよ…」

 回復魔法の柔らかな熱が、痛む喉にじんわりと染み込んでくる。

「意識は大丈夫?」

 不安そうにランドンに聞かれ、メルヴィンは小さく頷いた。

 何度も大きく息を吸い込み吐き出す。それを何度か繰り返し、回復魔法の効果も手伝って、メルヴィンの身体は落ち着きを取り戻してきていた。

「なあなあ、おっさんドコいっちゃったんだ??」

 ヴァルトがレディトゥス・システムの台座の上にいるシ・アティウスに問いかける。

 手にしていた立体パネルを操作していたシ・アティウスは、

「ふむ……アルカネットのところへ跳んだようですね」

 無精ひげの生える顎をさすりながら答えた。

「あんだけ偉そうに死守していたってのに、あっさり敵前逃亡するとか」

「まー、おっさん消えたし、いんじゃね?」

 納得いかない顔をするタルコットに、ヴァルトが無邪気に笑いかけた。

「シ・アティウスさん、リッキーをそこから出してください!!」

 メルヴィンは身を起こすと、台座の上のシ・アティウスに、食いつかんばかりに叫んだ。

「そーだそーだ! おっさんが逃げたんだから、フセンショーってやつだ」

 両手を腰に当て、ヴァルトはふんぞり返って加勢する。

 その様子をジッと見つめ、シ・アティウスは小さく頷いた。

「確かに、ベルトルド様が勝手に逃げたんですから、手助けしても、そのことで文句は言えませんね」

 立体パネルを操作し、シ・アティウスはやや難しそうに口を歪める。

「このレディトゥス・システムは、一見ただのガラスの柩のように見えますが、柩の中は亜空間になっています。アルケラの巫女をこの中に入れると、亜空間の中に巫女を閉じ込め、システムと巫女を連結してしまいます。そうなると、巫女は自力で亜空間から出ることができません。召喚の力を使っても、外には出られない」

 それがどういうことなのか、皆よく判らずにいる様子に、シ・アティウスは小さく微笑んだ。

「1万年前、最後のアルケラの巫女ユリディスがこの中に閉じ込められ、しかし、フリングホルニは飛び立つことなく地中に埋もれてしまいました。その後、ユリディスは助けられることなく、亜空間の中でシステムに繋がれたままになりました。――ユリディスの意志は、確かにこの中に息づいている。すがってみましょう」

「それってつまり……シ・アティウスさんも、助け方が判らない、てこと?」

 縞模様の尻尾をぽてぽて振りながら、シビルが不安そうに言う。

「身も蓋もない言い方をすると、そうなります」

「ナンダッテーーー!!!」

 ヴァルトの絶叫が、動力部室内に木霊した。



「リッキー…」

 ただの透明なガラスの柩にしか見えないレディトゥス・システムに両掌を押し付け、メルヴィンはそっと呼びかけた。

「オレの声、中に届きますか?」

 隣に立つシ・アティウスに、メルヴィンは不安そうに言う。

「判りません。起動実験のデータも残されていませんし、用が済んで巫女を中から出す、というところまで、設計に加わっていたのかも謎ですから」

「作られたの、1万年前ですしね…」

 設計者も何も生きていない。シビルが泣きそうな顔で肩を落とす。

「てめーらバカだなあ!」

 いきなり台座の下から呆れたようにヴァルトが叫び、一斉に批難の視線が集中する。

「さっきそこのおっさんが言っただろ! ユリなんたらにすがるって。だったら、ユリなんたらに必死で訴えかければいーじゃんか!!」

「……声が届くかどうか、判らないって話をしているわけで…」

「わからねーもんは、やるだけやってみればいーだけダロ!!」

 怒鳴り返されて、シビルは首を引っ込めた。

「きゅーり待ってんだろ!」

「そうですね、その通りです」

 メルヴィンは頷いた。

「ヴァルトさんの言う通りです。ユリディスという人に訴えかける、それに望みをかけましょう」

 助ける方法が判らないのなら、少しの可能性にも賭ける。

「ユリディスさん、聞こえますか? 聞こえていたら、この中に囚われている、キュッリッキという女性を助ける力を、どうか貸してください!」
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