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フリングホルニ編
episode736
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やれやれという空気が漂う中、メルヴィンだけは爪竜刀を構えたまま、攻撃の隙を伺っていた。
襲いかかってくる多くの剣に阻まれ、なかなか前に踏み出せずにいる。メルヴィンを進ませようと、タルコットとヴァルトが前に踏み出しながら活路を見出そうとするが、ベルトルドは察したように距離を置いていく。
メルヴィンもタルコットも、己の武器の真髄を発揮すれば、こんな攻撃など楽勝で一蹴することが可能だ。しかしそれが出来ないのは、ベルトルドと同じ理由からである。
レディトゥス・システムに損傷を与えたくないのだ。
マリオンやシビルに、レディトゥス・システムへ防御を張ってもらい、攻撃の余波を防いでもらう事も考えた。それでも、二人の防御壁を崩してしまう可能性もあり、踏み切れずにいた。魔剣はそれほどまでに、威力が人智を超えているのだ。
「このままでは、一方的に倒されるのがオチです」
メルヴィンは目の前で剣攻撃を防いでいる二人の背中をじっと見つめ、爪竜刀の柄をしっかりと握る。
「とは言っても、どーすんだあ!」
「ほんの少しの間だけ、あの剣が防げる防御をオレにかけてください」
「数秒しか~もたないと思うけどっ、タブン!」
「十分です!」
一点突破してベルトルドに斬りかかるつもりだと察して、マリオンはすぐさま念を凝らして、メルヴィンの身体を包むように防御の壁を築いた。
床を力強く蹴り、メルヴィンは爪竜刀を八相に構えたまま飛び出した。
「!」
腕を組んで前方を見据えていたベルトルドは、思いがけずメルヴィンが飛び出してきて、慌てて後ろに飛び退った。
振り下ろされた爪竜刀の刃が、ベルトルドの頭部スレスレのところで、何かに阻まれ、火花を散らす。腕に力を込め、見えない何かを砕こうとするが、メルヴィンの力はそれを上回る力で止められてしまった。
”終わりなき無限の剣(グラム)”は尚もメルヴィンに向けて降り続けていたが、それはタルコットとヴァルトが、必死に払い除けていた。
「全く…小癪な真似をする」
不愉快げに、ベルトルドは目を眇めた。
「早くあなたを倒し、リッキーを助けるっ」
「お前になんぞ、絶対に渡さん!」
「ぐっ」
ベルトルドの強烈な念波に払われ、メルヴィンは上体をグラリと後ろに傾けた。一瞬目を閉じたその瞬間、ベルトルドの手がメルヴィンの喉を掴んだ。
「ぐぁ…」
「お前だけは、空間転移などで消したりはせん。絶対にこの俺の手で殺す!」
「メルヴィン!!」
マリオンが咄嗟に悲鳴を上げる。いきなり剣攻撃が止んで、タルコットとヴァルトは同時に振り向くと、ギョッと目を見張った。
全身の動きも力も、ベルトルドの念力で封じられ、メルヴィンは喉を締め上げられていた。
ぶつけられるサイ《超能力》の力ならば、爪竜刀で無力化出来るが、こうして直接身体に害を与えられると無力化出来ない。
握力にサイ《超能力》も加えられているのだろう。メルヴィンの身体を片手で悠々と持ち上げ、ベルトルドは険しい顔で見上げた。
「確かに俺は、リッキーを裏切った。だがな、愛している気持ちは変わらん。何も判っていないお前に、薄っぺらな説教など言われたくないわ!!」
爪竜刀が手から落ち、メルヴィンの腕は力なくだらりと垂れ下がった。呼吸が止まりかけ、メルヴィンの意識はだんだんと白濁していく。
その時である。
突如ベルトルドの動きが止まった。その様子に、シ・アティウスもライオン傭兵団も、皆訝しんで首をかしげた。
数秒の間、ベルトルドはこの場ではないところを見るように、大きく目を見張っている。
「アルカネット……?」
ぽつりとそう呟くと、ベルトルドはいきなりその場から消えてしまった。
襲いかかってくる多くの剣に阻まれ、なかなか前に踏み出せずにいる。メルヴィンを進ませようと、タルコットとヴァルトが前に踏み出しながら活路を見出そうとするが、ベルトルドは察したように距離を置いていく。
メルヴィンもタルコットも、己の武器の真髄を発揮すれば、こんな攻撃など楽勝で一蹴することが可能だ。しかしそれが出来ないのは、ベルトルドと同じ理由からである。
レディトゥス・システムに損傷を与えたくないのだ。
マリオンやシビルに、レディトゥス・システムへ防御を張ってもらい、攻撃の余波を防いでもらう事も考えた。それでも、二人の防御壁を崩してしまう可能性もあり、踏み切れずにいた。魔剣はそれほどまでに、威力が人智を超えているのだ。
「このままでは、一方的に倒されるのがオチです」
メルヴィンは目の前で剣攻撃を防いでいる二人の背中をじっと見つめ、爪竜刀の柄をしっかりと握る。
「とは言っても、どーすんだあ!」
「ほんの少しの間だけ、あの剣が防げる防御をオレにかけてください」
「数秒しか~もたないと思うけどっ、タブン!」
「十分です!」
一点突破してベルトルドに斬りかかるつもりだと察して、マリオンはすぐさま念を凝らして、メルヴィンの身体を包むように防御の壁を築いた。
床を力強く蹴り、メルヴィンは爪竜刀を八相に構えたまま飛び出した。
「!」
腕を組んで前方を見据えていたベルトルドは、思いがけずメルヴィンが飛び出してきて、慌てて後ろに飛び退った。
振り下ろされた爪竜刀の刃が、ベルトルドの頭部スレスレのところで、何かに阻まれ、火花を散らす。腕に力を込め、見えない何かを砕こうとするが、メルヴィンの力はそれを上回る力で止められてしまった。
”終わりなき無限の剣(グラム)”は尚もメルヴィンに向けて降り続けていたが、それはタルコットとヴァルトが、必死に払い除けていた。
「全く…小癪な真似をする」
不愉快げに、ベルトルドは目を眇めた。
「早くあなたを倒し、リッキーを助けるっ」
「お前になんぞ、絶対に渡さん!」
「ぐっ」
ベルトルドの強烈な念波に払われ、メルヴィンは上体をグラリと後ろに傾けた。一瞬目を閉じたその瞬間、ベルトルドの手がメルヴィンの喉を掴んだ。
「ぐぁ…」
「お前だけは、空間転移などで消したりはせん。絶対にこの俺の手で殺す!」
「メルヴィン!!」
マリオンが咄嗟に悲鳴を上げる。いきなり剣攻撃が止んで、タルコットとヴァルトは同時に振り向くと、ギョッと目を見張った。
全身の動きも力も、ベルトルドの念力で封じられ、メルヴィンは喉を締め上げられていた。
ぶつけられるサイ《超能力》の力ならば、爪竜刀で無力化出来るが、こうして直接身体に害を与えられると無力化出来ない。
握力にサイ《超能力》も加えられているのだろう。メルヴィンの身体を片手で悠々と持ち上げ、ベルトルドは険しい顔で見上げた。
「確かに俺は、リッキーを裏切った。だがな、愛している気持ちは変わらん。何も判っていないお前に、薄っぺらな説教など言われたくないわ!!」
爪竜刀が手から落ち、メルヴィンの腕は力なくだらりと垂れ下がった。呼吸が止まりかけ、メルヴィンの意識はだんだんと白濁していく。
その時である。
突如ベルトルドの動きが止まった。その様子に、シ・アティウスもライオン傭兵団も、皆訝しんで首をかしげた。
数秒の間、ベルトルドはこの場ではないところを見るように、大きく目を見張っている。
「アルカネット……?」
ぽつりとそう呟くと、ベルトルドはいきなりその場から消えてしまった。
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