797 / 882
フリングホルニ編
episode734
しおりを挟む
雷霆(ケラウノス)の攻撃は、見た目も派手だが破壊力がとてつもなく強大である。以前まだここには、レディトゥス・システムが運び込まれていなかったので、雷霆(ケラウノス)を使われても、さほど問題はなかった。
しかし今は、この動力部にはレディトゥス・システムが運び込まれ、床下にはシステムと連結した細かな機器が数多く作動している。万が一床を傷つけ、雷霆(ケラウノス)の電気がその下の機器に影響を及ぼせば、航行にも支障が出るし、何よりレディトゥス・システムにも影響を及ぼしかねない。そんなことになれば、レディトゥス・システム内に囚われるキュッリッキにも影響を及ぼす。
それをよく理解しているベルトルドだからこそ、雷霆(ケラウノス)の使用は遠慮していた。
(相変わらずあの攻撃は凄いですね…。剣のデザインはバラバラ、一体どこから呼び集めているんだか)
戦いを観察しながら、シ・アティウスはベルトルドの背中を見つめる。
空間転移を自在に操る、ベルトルドならではの攻撃だ。
”終わりなき無限の剣(グラム)”とは、シ・アティウスが名付けた。過去に数回ほど、この攻撃を目の当たりにしている。その時、とくに技に名前はないと言っていたので、”終わりなき無限の剣(グラム)”と名付けてやったのだ。そして無数に呼び出される剣の出処は、教えてもらえなかった。
尋常ではないこの戦場を、レディトゥス・システムの上で見ているのは、シ・アティウスだけではない。
シ・アティウスはチラリと黒い狼に目を向け、小さく首をかしげた。
「あなたは参戦せずともいいのですか?」
「かまわないもんね~。さっきは事態がちーっとも動かないから出しゃばったけど、キュッリッキを助けるのはあの人間たちだし、ボクのこと重い重いっていっぱい言うから、助けてやらないんだもーん」
ツーンと明後日の方向に鼻面を向けて、フローズヴィトニルは鼻を鳴らした。
「……随分と、人間臭い神ですね」
えらく興味深そうに、シ・アティウスは何度も頷いた。
リューディアを失ったとき、ベルトルドは子供心に、一生愛せる女性は二度と現れない、などと思っていた。
大人になり、友情を感じたことはあっても、恋愛感情をもてた女性はいない。
ハワドウレ皇国の副宰相となり、社交界に出るようになると、言い寄ってくる女は星の数ほどいた。その中から恋愛に発展するような相手は見つからず、性欲を満たすためだけの身体の関係にとどまった。
大抵の女たちは、身体の関係を持つと、それで満足する者が多い。中には、燃え上がって自滅する女もいたが、ベルトルドにとってはどうでもいいことだ。
もう、リューディアに抱いたような、純粋な恋心など無縁なものになった。そう思っていた、それなのに。
アルカネットが見つけてきた、召喚スキル〈才能〉を持つ少女。
召喚スキル〈才能〉を持ちながら、どの国にも保護されず、危険な戦場を駆け抜けているというフリーの傭兵。
見せられた写真に写っている少女の顔を見て、ベルトルドはかつてないほど仰天した。
失ったリューディアに、瓜二つの顔をした少女。瞳の色が違うが、リューディアとそっくりなのだ。
召喚スキル〈才能〉と、リューディアと同じ顔を持つ少女キュッリッキは、ベルトルドの興味を引くのに十分すぎた。
フリーの傭兵ならば、ライオン傭兵団にすぐさま入れてしまえばいいと、自らハーツイーズの傭兵ギルドに赴いた。他人の手に渡る前に、身近に置いておくために。
ギルドの食堂でドリアを食べていたキュッリッキに、ベルトルドは否を言わせない気迫でスカウトした。突然のことに驚いた様子のキュッリッキは、目をぱちくりさせながら頷いていた。
そうして手に入れたキュッリッキは、接していけば接していくほど、リューディアとは全く違う少女だということは、すぐに理解できた。だから、リューディアと重ねて見ることは、すぐしなくなった。
リューディアは恵まれた少女だった。
家族の愛にも、親友や隣人たちの愛にも恵まれ、愛に包まれ心も身体も健やかな少女だった。それに比べキュッリッキは、愛とは無縁の孤独な少女だ。
愛することも知らず、愛されたこともない。誰よりも愛というものに焦がれ、飢えている。他人との接し方に不慣れで、必死に居場所を作ろうとしていた。不器用に、でも健気に頑張る姿はいじらしかった。
ナルバ山で大怪我を負い、過去のトラウマを爆発させてきたときは、
(自分の手で生涯守り、愛してやりたい)
そう、心の底から思ったものだ。
顔が似ていようと、召喚スキル〈才能〉を持っていようと、そんなことは関係ない。ただ、この少女がたまらなく好きで、愛してしまったのだと。
それなのに。
しかし今は、この動力部にはレディトゥス・システムが運び込まれ、床下にはシステムと連結した細かな機器が数多く作動している。万が一床を傷つけ、雷霆(ケラウノス)の電気がその下の機器に影響を及ぼせば、航行にも支障が出るし、何よりレディトゥス・システムにも影響を及ぼしかねない。そんなことになれば、レディトゥス・システム内に囚われるキュッリッキにも影響を及ぼす。
それをよく理解しているベルトルドだからこそ、雷霆(ケラウノス)の使用は遠慮していた。
(相変わらずあの攻撃は凄いですね…。剣のデザインはバラバラ、一体どこから呼び集めているんだか)
戦いを観察しながら、シ・アティウスはベルトルドの背中を見つめる。
空間転移を自在に操る、ベルトルドならではの攻撃だ。
”終わりなき無限の剣(グラム)”とは、シ・アティウスが名付けた。過去に数回ほど、この攻撃を目の当たりにしている。その時、とくに技に名前はないと言っていたので、”終わりなき無限の剣(グラム)”と名付けてやったのだ。そして無数に呼び出される剣の出処は、教えてもらえなかった。
尋常ではないこの戦場を、レディトゥス・システムの上で見ているのは、シ・アティウスだけではない。
シ・アティウスはチラリと黒い狼に目を向け、小さく首をかしげた。
「あなたは参戦せずともいいのですか?」
「かまわないもんね~。さっきは事態がちーっとも動かないから出しゃばったけど、キュッリッキを助けるのはあの人間たちだし、ボクのこと重い重いっていっぱい言うから、助けてやらないんだもーん」
ツーンと明後日の方向に鼻面を向けて、フローズヴィトニルは鼻を鳴らした。
「……随分と、人間臭い神ですね」
えらく興味深そうに、シ・アティウスは何度も頷いた。
リューディアを失ったとき、ベルトルドは子供心に、一生愛せる女性は二度と現れない、などと思っていた。
大人になり、友情を感じたことはあっても、恋愛感情をもてた女性はいない。
ハワドウレ皇国の副宰相となり、社交界に出るようになると、言い寄ってくる女は星の数ほどいた。その中から恋愛に発展するような相手は見つからず、性欲を満たすためだけの身体の関係にとどまった。
大抵の女たちは、身体の関係を持つと、それで満足する者が多い。中には、燃え上がって自滅する女もいたが、ベルトルドにとってはどうでもいいことだ。
もう、リューディアに抱いたような、純粋な恋心など無縁なものになった。そう思っていた、それなのに。
アルカネットが見つけてきた、召喚スキル〈才能〉を持つ少女。
召喚スキル〈才能〉を持ちながら、どの国にも保護されず、危険な戦場を駆け抜けているというフリーの傭兵。
見せられた写真に写っている少女の顔を見て、ベルトルドはかつてないほど仰天した。
失ったリューディアに、瓜二つの顔をした少女。瞳の色が違うが、リューディアとそっくりなのだ。
召喚スキル〈才能〉と、リューディアと同じ顔を持つ少女キュッリッキは、ベルトルドの興味を引くのに十分すぎた。
フリーの傭兵ならば、ライオン傭兵団にすぐさま入れてしまえばいいと、自らハーツイーズの傭兵ギルドに赴いた。他人の手に渡る前に、身近に置いておくために。
ギルドの食堂でドリアを食べていたキュッリッキに、ベルトルドは否を言わせない気迫でスカウトした。突然のことに驚いた様子のキュッリッキは、目をぱちくりさせながら頷いていた。
そうして手に入れたキュッリッキは、接していけば接していくほど、リューディアとは全く違う少女だということは、すぐに理解できた。だから、リューディアと重ねて見ることは、すぐしなくなった。
リューディアは恵まれた少女だった。
家族の愛にも、親友や隣人たちの愛にも恵まれ、愛に包まれ心も身体も健やかな少女だった。それに比べキュッリッキは、愛とは無縁の孤独な少女だ。
愛することも知らず、愛されたこともない。誰よりも愛というものに焦がれ、飢えている。他人との接し方に不慣れで、必死に居場所を作ろうとしていた。不器用に、でも健気に頑張る姿はいじらしかった。
ナルバ山で大怪我を負い、過去のトラウマを爆発させてきたときは、
(自分の手で生涯守り、愛してやりたい)
そう、心の底から思ったものだ。
顔が似ていようと、召喚スキル〈才能〉を持っていようと、そんなことは関係ない。ただ、この少女がたまらなく好きで、愛してしまったのだと。
それなのに。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~
さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』
誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。
辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。
だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。
学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる
これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。
ヒロインは始まる前に退場していました
サクラ
ファンタジー
とある乙女ゲームの世界で目覚めたのは、原作を知らない一人の少女
産まれた時点で本来あるべき道筋を外れてしまっていた彼女は、知らない世界でどう生き抜くのか。
母の愛情、突然の別れ、事故からの死亡扱いで目覚めた場所はゴミ捨て場
捨てる神あれば拾う神あり?
人の温かさに触れて成長する少女に再び訪れる試練。
そして、本来のヒロインが現れない世界ではどんな未来が訪れるのか。
主人公が7歳になる頃までは平和、ホノボノが続きます。
ダークファンタジーになる予定でしたが、主人公ヴィオの天真爛漫キャラに ダーク要素は少なめとなっております。
同作品を『小説を読もう』『カクヨム』でも配信中。カクヨム先行となっております
追いつくまで しばらくの間 0時、12時の一日2話更新としております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる