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フリングホルニ編
episode732
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激昂するメルヴィンに、ベルトルドは大きく目を見開く。
「貴様のような青二才に何が判る!!」
カッとなったベルトルドが念動波を炸裂させ、メルヴィンを後方へ吹っ飛ばした。
メルヴィンは宙を飛びながら床に片手を滑らせ、強く床に手を押し付けて跳ねると、後ろに身体を回転して着地した。吹っ飛ばされはしたが、身体に負傷は受けなかった。
俯かせていた顔を上げ、傲然と立つベルトルドを見据える。
「あれほど慕われていながら、計画のために陵辱出来るようなあなたのことなど、理解できるものか、判りたくもない!」
声を荒らげて怒鳴ると、メルヴィンは肩で息をついた。
そこにどんな想いがあろうと、キュッリッキを犯し、彼女を裏切った事実はけっして変わらない。
恋人となってまだ日は浅いが、この世でもっとも大切な存在となったキュッリッキ。愛しい想いは、ますます強まっていく。そして、大切に想うからこそ、自らの欲求は抑え込んできた。いつか、彼女から求めてくれるまではと。それなのに目の前のこの男は、計画のためと称し、無下にむしり取った。
恋人として、男として、絶対に許せなかった。それに、いまだに心に大きな深い傷を抱えるキュッリッキに、更に深い傷を負わせたことがもっとも許せない。
ベルトルドの背後に見えるレディトゥス・システムに目を向けた。手を伸ばせば届く距離に、あの中に彼女は囚われている。
早く助け出してやりたい。傷ついているその心を、心を込めて癒したい。
目の前に立つこの男が、どれほど強大な力を持っていようと、臆することなど許されないのだ。
メルヴィンは立ち上がると、爪竜刀を構え直した。
「あなたがどう言おうと、リッキーと愛し合っているのは、このオレです!」
叩きつけられたその言葉に、ベルトルドの顔が瞬時に怒りに染まる。
「この青二才があああ!」
ベルトルドが吠えるのと同時に、突如ベルトルドの前の空間に、鋭い長剣が無数に出現した。
「な、なんだアレ?」
目をぱちくりさせながら、ヴァルトが隣のタルコットに問いかける。
「知らん……」
抜き身の長剣が、ずらりと宙に大きな十字を描いて、鋭い切っ先をメルヴィンに向けている。
レディトゥス・システムの台座の上でその様子を見ているシ・アティウスは、小さく顎を引くと、内心ため息をついた。
(あれは、”終わりなき無限の剣(グラム)”ですねえ……。全く、大人気なく本気で怒っているな)
シ・アティウスはライオン傭兵団のほうへ目を向けると、やや呆け気味の彼らに声をかける。
「見学だけしていると、メルヴィンはすぐ串刺しですよ。対象者が死ぬか、ベルトルド様の殺意が消えない限り、延々と出現して襲いかかる”終わりなき無限の剣(グラム)”です」
メガネのブリッジを押し上げながら、シ・アティウスが解説した。
「なんじゃああそりゃあああ!!!」
頭を抱えてヴァルトが絶叫する。
「1万の剣で刺したところで、俺の怒りが解けるわけではないぞ」
スッと片手をあげると、ベルトルドは眉間に力を込めた。
「ミンチになれ青二才」
ベルトルドが片手を振り下ろすと、宙に出現した長剣が、メルヴィンめがけて襲いかかった。
「うおらああああああああああ!!」
怒鳴り声を上げながら、ヴァルトが飛び込んできて、拳風で剣を吹き飛ばす。その次にタルコットがスルーズで払い除けた。
「メルヴィンはキューリを助けるために、おっさんのみに絞れ。あの剣攻撃はボクたちでなんとかしのぐ」
「しかし…」
メルヴィンの言葉を遮るように、ヴァルトが大声で言う。
「1万とかおっさんいっただろ! 1万くらい屁でもねー!!」
ドラウプニルによって守られた拳は、剣を易易と殴り払っていた。
「数は例えだ、大馬鹿者」
「くあああああああああムカツク!!!」
冷静にツッコミを入れられて、ヴァルトは食いつきそうな顔をベルトルドに向けた。
「シビルの防御魔法と、マリオンのサイ《超能力》のフォローもある。とにかくあのおっさんをどうにかしないと、助けようがない」
タルコットはスルーズをクルクルと回転させ、降り注ぐ大量の剣を器用に打ち払っていった。
「ランドン、回復魔法はボクたちに集中で頼むよ」
「うん」
頷きながらも、ランドンの回復魔法はすでにヴァルトとタルコットの疲労を癒し始めていた。
回復魔法は病気も怪我も、あっという間に治せるような、奇跡の魔法ではない。疲労を癒し、怪我や熱の苦しみを和らげ、出血を抑え、傷口の細胞の壊死の進行を遅らせるのが精一杯だ。それでも、こうした局面では威力を最大限に発揮する。そして、ランドンはライオン傭兵団随一の回復魔法の使い手だ。
メルヴィンはヴァルトとタルコットの背中を暫し見つめ、やがて頷いた。
「すみませんが、お願いします」
「おう。さっさとキューリ助けてこい!」
「はい!」
「貴様のような青二才に何が判る!!」
カッとなったベルトルドが念動波を炸裂させ、メルヴィンを後方へ吹っ飛ばした。
メルヴィンは宙を飛びながら床に片手を滑らせ、強く床に手を押し付けて跳ねると、後ろに身体を回転して着地した。吹っ飛ばされはしたが、身体に負傷は受けなかった。
俯かせていた顔を上げ、傲然と立つベルトルドを見据える。
「あれほど慕われていながら、計画のために陵辱出来るようなあなたのことなど、理解できるものか、判りたくもない!」
声を荒らげて怒鳴ると、メルヴィンは肩で息をついた。
そこにどんな想いがあろうと、キュッリッキを犯し、彼女を裏切った事実はけっして変わらない。
恋人となってまだ日は浅いが、この世でもっとも大切な存在となったキュッリッキ。愛しい想いは、ますます強まっていく。そして、大切に想うからこそ、自らの欲求は抑え込んできた。いつか、彼女から求めてくれるまではと。それなのに目の前のこの男は、計画のためと称し、無下にむしり取った。
恋人として、男として、絶対に許せなかった。それに、いまだに心に大きな深い傷を抱えるキュッリッキに、更に深い傷を負わせたことがもっとも許せない。
ベルトルドの背後に見えるレディトゥス・システムに目を向けた。手を伸ばせば届く距離に、あの中に彼女は囚われている。
早く助け出してやりたい。傷ついているその心を、心を込めて癒したい。
目の前に立つこの男が、どれほど強大な力を持っていようと、臆することなど許されないのだ。
メルヴィンは立ち上がると、爪竜刀を構え直した。
「あなたがどう言おうと、リッキーと愛し合っているのは、このオレです!」
叩きつけられたその言葉に、ベルトルドの顔が瞬時に怒りに染まる。
「この青二才があああ!」
ベルトルドが吠えるのと同時に、突如ベルトルドの前の空間に、鋭い長剣が無数に出現した。
「な、なんだアレ?」
目をぱちくりさせながら、ヴァルトが隣のタルコットに問いかける。
「知らん……」
抜き身の長剣が、ずらりと宙に大きな十字を描いて、鋭い切っ先をメルヴィンに向けている。
レディトゥス・システムの台座の上でその様子を見ているシ・アティウスは、小さく顎を引くと、内心ため息をついた。
(あれは、”終わりなき無限の剣(グラム)”ですねえ……。全く、大人気なく本気で怒っているな)
シ・アティウスはライオン傭兵団のほうへ目を向けると、やや呆け気味の彼らに声をかける。
「見学だけしていると、メルヴィンはすぐ串刺しですよ。対象者が死ぬか、ベルトルド様の殺意が消えない限り、延々と出現して襲いかかる”終わりなき無限の剣(グラム)”です」
メガネのブリッジを押し上げながら、シ・アティウスが解説した。
「なんじゃああそりゃあああ!!!」
頭を抱えてヴァルトが絶叫する。
「1万の剣で刺したところで、俺の怒りが解けるわけではないぞ」
スッと片手をあげると、ベルトルドは眉間に力を込めた。
「ミンチになれ青二才」
ベルトルドが片手を振り下ろすと、宙に出現した長剣が、メルヴィンめがけて襲いかかった。
「うおらああああああああああ!!」
怒鳴り声を上げながら、ヴァルトが飛び込んできて、拳風で剣を吹き飛ばす。その次にタルコットがスルーズで払い除けた。
「メルヴィンはキューリを助けるために、おっさんのみに絞れ。あの剣攻撃はボクたちでなんとかしのぐ」
「しかし…」
メルヴィンの言葉を遮るように、ヴァルトが大声で言う。
「1万とかおっさんいっただろ! 1万くらい屁でもねー!!」
ドラウプニルによって守られた拳は、剣を易易と殴り払っていた。
「数は例えだ、大馬鹿者」
「くあああああああああムカツク!!!」
冷静にツッコミを入れられて、ヴァルトは食いつきそうな顔をベルトルドに向けた。
「シビルの防御魔法と、マリオンのサイ《超能力》のフォローもある。とにかくあのおっさんをどうにかしないと、助けようがない」
タルコットはスルーズをクルクルと回転させ、降り注ぐ大量の剣を器用に打ち払っていった。
「ランドン、回復魔法はボクたちに集中で頼むよ」
「うん」
頷きながらも、ランドンの回復魔法はすでにヴァルトとタルコットの疲労を癒し始めていた。
回復魔法は病気も怪我も、あっという間に治せるような、奇跡の魔法ではない。疲労を癒し、怪我や熱の苦しみを和らげ、出血を抑え、傷口の細胞の壊死の進行を遅らせるのが精一杯だ。それでも、こうした局面では威力を最大限に発揮する。そして、ランドンはライオン傭兵団随一の回復魔法の使い手だ。
メルヴィンはヴァルトとタルコットの背中を暫し見つめ、やがて頷いた。
「すみませんが、お願いします」
「おう。さっさとキューリ助けてこい!」
「はい!」
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