片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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フリングホルニ編

episode731

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 フローズヴィトニルの身体をすり抜け、ベルトルドは片手をメルヴィンに向けてかざす。メルヴィンは爪竜刀の切っ先を、ベルトルドの眉間に定めて突き出した。

 ベルトルドの指先と爪竜刀の切っ先が触れるその時、ベルトルドは瞬時に手を引っ込めて、転移でその場から消えると、台座の上に移動した。

「……サイ《超能力》の力を相殺するのか、その刀は」

「ええ。サイ《超能力》も魔法も、この爪竜刀の前では無意味です。普段は爪竜刀の力を抑えているので、あなたも知らなかったはず」

「フンっ、忌々しい…」

 ベルトルドは前に飛び出た時に、念動波でメルヴィンを吹き飛ばそうとして力を放った。ところが、爪竜刀の切っ先に念動波が触れた瞬間、力が霧散したのだ。それで慌てて転移で後退した。

 ベルトルドが放った念動波は、並大抵の威力ではない。迷いも躊躇いも一切ない、純粋な殺意で放ったものだ。喰らえば内蔵ごと吹き飛ばされ、即死するレベルである。

「前らの手の内なんぞ、全てお見通しだと、たかを括り過ぎたな」

 自嘲するように呟くと、眉間を寄せて掌を見つめた。

 やがて、掌の上に白く発光するメロン大の玉が出現した。

「レディトゥス・システムが起動した今、さすがに雷霆(ケラウノス)を使うわけにはいかないからな」

 掌の光の玉がふわりと宙に浮くと、綿毛を飛ばすようにして、飴玉くらいの小さな白い玉に形を変え、無数にベルトルドの周りに散り始めた。

「リッキーに危害が及ばないよう、お前たちだけを殺す」

 増え続ける白い光の玉を見つめながら、タルコットは目を眇める。

「あれは数が多すぎるな……爪竜刀だけじゃ、さばききれない」

「そうですね…」

「あれってぇ、おっさんのサンダー・スパークじゃぁ……」

「マリオンさん、シビルさん、お願いします!」

「おっけぇ~」

「はいっ!」

 メルヴィンの号令に、二人は返事をして作業に掛かる。

 マリオンは念を強めて凝らし、皆の周りに透明なガラスのような壁を張った。サイ《超能力》も魔力も物理攻撃も通さない、鉄壁のような硬さを持つ。

 サイ《超能力》によって作り出される防御壁は、サイ《超能力》を持たない者には見えない。しかし、精神エネルギーによって生み出されるサイ《超能力》の力は、目に見えずとも、確かにそこに、なにかを感じることができる。とくに戦闘スキル〈才能〉や魔法スキル〈才能〉を持つ者には、それを顕著に感じる者が多い。

 シビルは魔力媒体にしている木の杖を両手で握り締め、呪文を唱えてマリオンの防御壁に被せるようにして防御魔法を展開した。サイ《超能力》や魔力を弾く力を持つのが、防御魔法だ。物理攻撃にはやや耐久性に劣る。

 ライオン傭兵団の中では、シビルは防御魔法が得意だ。強化や防御といった、複雑で繊細な魔法を得意分野としているので、攻撃魔法は平凡なほうである。カーティスやハーマンといった、攻撃魔法の得意な魔法使いがいるので、シビル自身はそれでいいと常に思っていた。

 皆を守る魔法も、大切な戦力の一つだからだ。守りが硬ければ、戦闘組みが安心して戦える。

 だが相手はベルトルドだ。常識が通用しないほどの力を持っているため、油断は出来ない。

「気休めだけど、ボクも内側に結界魔法を敷いておくね」

「うん、ありがとう」

 ランドンは攻撃を跳ね返す結界魔法を、二重防御の中に敷いた。万が一突破されても、これで多少は弾ける。

「防ぐ準備はいいか? 行くぞ!」

 ベルトルドが大きく腕を横に薙ぐと、無数の光の玉がライオン傭兵団めがけて襲いかかった。

「サンダー・スパーク!!」

 ぱちりとベルトルドが指先を鳴らすと、ライオン傭兵団の周りを取り囲んだ光の玉が、盛大に爆発した。

 爆音とともに白煙が室内に溢れかえり、その中を無数の電気線が踊り狂った。レディトゥス・システムには、ベルトルドが張り巡らせた防御壁に守られ、電気の力は及んでいなかった。

「ゴホッ…」

 室内に充満した白煙に、シ・アティウスは軽く咳き込んだ。煙までは防いでくれなかったらしい。

「フンッ」

 ベルトルドは目を眇めると、腰に下げていた片手剣を素早く抜いて構えた。

「ハッ!」

 まだ室内に濃く揺蕩う煙の中から、爪竜刀を構えたメルヴィンが飛び出してきた。
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