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フリングホルニ編
episode730
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レディトゥス・システムの透明なケースを切なげに見ていたベルトルドは、複数の足音に身体ごと振り向けた。
「ほう、アルカネットをまいてきたのか。やるじゃないか」
メルヴィンたちを見て、フンッと鼻を鳴らす。
「リッキーはどこです!」
「彼女なら、この中にいますよ」
メルヴィンの放つ激しい闘気に怯むことなく、レディトゥス・システムの傍らにいたシ・アティウスが、指で示して教える。
透明な柩のようなケース。しかしその中に、人が収まっているようには見えない。
それを訝しむ様子に気づいたシ・アティウスは、ああ、と頷く。
「ケースの中は特殊な亜空間に繋がっているんですよ。だから、外から見るとなんの変哲もない透明なケースです。そして、亜空間はシステムと連動しています。そのため彼女は自力で、ここから出ることが出来ません」
「そんな…」
「この俺を倒し、こいつに助けてもらうしかないということだ、青二才ども」
こいつ、と呼ばれたシ・アティウスは、小さく肩をすくめた。
「そしてな、リッキーをここから出すことは、この俺が許さん!」
レディトゥス・システムの台座の上から、メルヴィンたちを睥睨し、ベルトルドは露骨に殺気を漂わせて怒鳴った。
「あなたを殺して、リッキーを助け出すまでです」
睨み返しながら、メルヴィンは爪竜刀を抜くと、切っ先をベルトルドに向けて構えた。
ずっと走ってきた通路と同じように、動力部の室内も真っ白だった。
メルヴィンは目だけを動かし、ザッと室内を見回す。
室内のほぼ中央に、大きな台座がある。以前ここへ来た時はなかったものだ。そして台座の上には、透明な柩のようなケースが立てて置かれている。
旧ソレル王国のナルバ山にあった、遺跡の中で見つけた変わったエグザイル・システム。今は正式名称を、レディトゥス・システムというらしい。
そのレディトゥス・システムを背に庇うようにして、白い軍服をまとったベルトルドは立っていた。
切れ長の目のなかのブルーグレーの瞳には、射抜くような鋭い光が満ち、じっとメルヴィンたちを見据えている。
3年前、旧コッコラ王国で対決したときも、普段彼らに接するときにも、ここまで強い殺気を向けてきたことはない。怒っていても、どこか本気ではないような、そんな甘さが潜んでいる程度だった。
しかし今は違う。
全てを取り払って、殺意だけが残った、純粋な凄まじい殺気を向けてきていた。
ベルトルドの殺気に刺激され、メルヴィンの爪竜刀、タルコットのスルーズが敏感に感じ取り、血を求めて微かに震えだしていた。二人の武器は魔剣の類な為、殺気にはとくに強い反応を示す。
ベルトルドもメルヴィンたちも、一歩も踏み出さず、距離を保ち睨み合いを続けていた。
まさに一触即発。とくにメルヴィンの発する殺気も凄まじく、タルコットとヴァルトは内心で冷や汗をかいていた。
メルヴィンは普段、感情を抑えているところがある。キュッリッキと恋人同士になってからは、感情の昂ぶりを抑えることはあまりしなくなっていたが、それはあくまでもキュッリッキに関することだけで、そのほかの事柄には変わらず抑制をしている。
キュッリッキが犯されたことを知り、瞬時に激昂したとき以上に、今のメルヴィンの殺気は膨れ上がっていた。それを隠すことなく、爪竜刀の切っ先に乗せて、ベルトルドへと向けていた。
(このままでは、埓が明かないな……)
睨み合う彼らを交互に見ながら、シ・アティウスは小さく嘆息した。事態が動かないのは、傍観者にとっては退屈である。そしてその思いはフローズヴィトニルも同じようで、身をよじってマリオンの腕の中から逃れると、突然身体を大きく狼に戻してベルトルドに襲いかかった。
次の瞬間、ベルトルドとメルヴィンは、互いに前に飛び出した。
「ほう、アルカネットをまいてきたのか。やるじゃないか」
メルヴィンたちを見て、フンッと鼻を鳴らす。
「リッキーはどこです!」
「彼女なら、この中にいますよ」
メルヴィンの放つ激しい闘気に怯むことなく、レディトゥス・システムの傍らにいたシ・アティウスが、指で示して教える。
透明な柩のようなケース。しかしその中に、人が収まっているようには見えない。
それを訝しむ様子に気づいたシ・アティウスは、ああ、と頷く。
「ケースの中は特殊な亜空間に繋がっているんですよ。だから、外から見るとなんの変哲もない透明なケースです。そして、亜空間はシステムと連動しています。そのため彼女は自力で、ここから出ることが出来ません」
「そんな…」
「この俺を倒し、こいつに助けてもらうしかないということだ、青二才ども」
こいつ、と呼ばれたシ・アティウスは、小さく肩をすくめた。
「そしてな、リッキーをここから出すことは、この俺が許さん!」
レディトゥス・システムの台座の上から、メルヴィンたちを睥睨し、ベルトルドは露骨に殺気を漂わせて怒鳴った。
「あなたを殺して、リッキーを助け出すまでです」
睨み返しながら、メルヴィンは爪竜刀を抜くと、切っ先をベルトルドに向けて構えた。
ずっと走ってきた通路と同じように、動力部の室内も真っ白だった。
メルヴィンは目だけを動かし、ザッと室内を見回す。
室内のほぼ中央に、大きな台座がある。以前ここへ来た時はなかったものだ。そして台座の上には、透明な柩のようなケースが立てて置かれている。
旧ソレル王国のナルバ山にあった、遺跡の中で見つけた変わったエグザイル・システム。今は正式名称を、レディトゥス・システムというらしい。
そのレディトゥス・システムを背に庇うようにして、白い軍服をまとったベルトルドは立っていた。
切れ長の目のなかのブルーグレーの瞳には、射抜くような鋭い光が満ち、じっとメルヴィンたちを見据えている。
3年前、旧コッコラ王国で対決したときも、普段彼らに接するときにも、ここまで強い殺気を向けてきたことはない。怒っていても、どこか本気ではないような、そんな甘さが潜んでいる程度だった。
しかし今は違う。
全てを取り払って、殺意だけが残った、純粋な凄まじい殺気を向けてきていた。
ベルトルドの殺気に刺激され、メルヴィンの爪竜刀、タルコットのスルーズが敏感に感じ取り、血を求めて微かに震えだしていた。二人の武器は魔剣の類な為、殺気にはとくに強い反応を示す。
ベルトルドもメルヴィンたちも、一歩も踏み出さず、距離を保ち睨み合いを続けていた。
まさに一触即発。とくにメルヴィンの発する殺気も凄まじく、タルコットとヴァルトは内心で冷や汗をかいていた。
メルヴィンは普段、感情を抑えているところがある。キュッリッキと恋人同士になってからは、感情の昂ぶりを抑えることはあまりしなくなっていたが、それはあくまでもキュッリッキに関することだけで、そのほかの事柄には変わらず抑制をしている。
キュッリッキが犯されたことを知り、瞬時に激昂したとき以上に、今のメルヴィンの殺気は膨れ上がっていた。それを隠すことなく、爪竜刀の切っ先に乗せて、ベルトルドへと向けていた。
(このままでは、埓が明かないな……)
睨み合う彼らを交互に見ながら、シ・アティウスは小さく嘆息した。事態が動かないのは、傍観者にとっては退屈である。そしてその思いはフローズヴィトニルも同じようで、身をよじってマリオンの腕の中から逃れると、突然身体を大きく狼に戻してベルトルドに襲いかかった。
次の瞬間、ベルトルドとメルヴィンは、互いに前に飛び出した。
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