片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
791 / 882
フリングホルニ編

episode728

しおりを挟む
 表に出た”アルカネット”は、憎むべきキュッリッキをレイプしようとする。しかし仮面(ペルソナ)が最後の抵抗をし、それは ”アルカネット”を錯乱させ、結果ベルトルドの介入もあり未遂に終わった。

「完全に消し去ったと思っていたのですがね。しぶとく潜んでいたとは」

「……私は、あなたが壊れ始めた時に生まれました。だから、私にとって愛する者とはリッキーさんだけです。これまでベルトルドに力を貸してきましたが、リッキーさんを害するあなたを、私は許しません」

 ひたと”アルカネット”を見据える仮面(ペルソナ)は、しかし言葉とは裏腹に、膝から下が頼りなげに薄れていた。かろうじて踏みとどまっている。

「今すぐ彼らと手を組み、ベルトルドを止めるのです。彼もまた、あなたに操られ、心を大きく傷つけている」

「フンっ。傷ついている割には、巫女を犯すことに躊躇いはありませんでしたよ。性の限りを謳歌するように、楽しんでいたじゃないですか」

 痛みに泣きじゃくるキュッリッキなどお構いなしに、犯し続けていたベルトルドの姿を思い出して、下卑たように笑い含む。その”アルカネット”の様子に、仮面(ペルソナ)はゆるゆると首を横に振った。

「犯したことは許しがたいことですが、リッキーさんに救いと慰めを求めてのことです。あなたも知ってのように、本当のベルトルドは心の弱い男です。無抵抗にした少女に、救いを求めるような弱い…。それを、あなたがそばにいることで、回避できなくしてしまった。復讐を果たすという約束のもとに。結果的に、双方を傷つけたあなたの企みが、成功したと言えるのでしょう」

 ククッと”アルカネット”は笑った。

「おもしろい見世物でしたよ、巫女が汚れていく様は。おかげでフリングホルニは飛び立ち、アルケラの門を開くところまできました。――本当に長い31年だった。私はリューディアを殺した神を、必ずこの手で殺す。その為には、あなたも邪魔なのですよ、仮面(ペルソナ)」

 次の瞬間、仮面(ペルソナ)の間近に”アルカネット”が移動し、仮面(ペルソナ)の首を片手で掴むと、握り締めながら身体を持ち上げた。

「ぐぅっ……精神世界の中とはいえ……やはり、あなたの人格はサイ《超能力》も使えたんですね…」

 苦痛に表情を歪める仮面(ペルソナ)を見上げ、”アルカネット”はほくそ笑んだ。

「何故二つの人格が生まれたのか、誰も判らなかったのですが…。本来なら一人で二つのスキル〈才能〉を持つなどありえませんから、そういうことなのでしょう」

「くっ…」

「あなたの役目はもう終わったのです。いらなくなったのですよ、仮面など。――これまで長いことご苦労様でしたね、消えなさい!」

 グッと手に力を込めると、仮面(ペルソナ)はガラスが砕け散るように粉々に割れて、空気に溶けて消えてしまった。



「あっ」

 アルカネットを透視していたルーファスは、ハッとなって狼狽えた声を出した。

「仮面(ペルソナ)が壊された、ダメだ、アルカネットさんが…」

「ふふ…。本当に忌々しいものを、今度こそ消すことができました。ある意味礼を言いますよ、ルーファス。あなたのおかげで、ゴミクズのような仮面(ペルソナ)を、完全に消すことができたのですから」

 震えを誘うような、その凄絶な笑顔。ガエルすら、生唾を飲み込むほど圧倒された。

「一体何がどうなったんです、ルーファス?」

 不安そうにカーティスが声を上げると、ルーファスは困ったように床に視線を落とす。

「簡単に言うと、アルカネットさんは多重人格の持ち主だってこと。で、元々のアルカネットさんと悪い人格が合体して、仮面(ペルソナ)を消し去って、今おさまってる」

 そして、とルーファスは更に困惑したように唾を飲む。

「信じられないことなんだけど……、アルカネットさんは魔法だけじゃなく、サイ《超能力》も持ってる……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...