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フリングホルニ編
episode727
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リューディアの死から、数ヵ月後のことだった。
アルカネットもイーヴォも、お互いどちらが主人格か理解出来ないほど、交互に入れ替わっては、周囲を困惑させていた。リューディアの死の強いショックに、精神を保てなくなっていたからである。
この時初めて、アルカネットの両親やベルトルドたちは、アルカネットが多重人格であることに気づいた。
そして、壊れかかっていたアルカネットを救うため、ベルトルドはアルカネットの心を探り出し、そこでもうひとつの新たな人格を発見した。その新しい人格を引っ張り出し、アルカネットとイーヴォの上にかぶせた。そうすることで、アルカネットの精神は保たれ、新たな人格は”アルカネット”として、31年間を過ごしていくことになる。
「ですが、あなた方はやがて、一つの人格として融合していった……。リューディアへの想いはそのままに、善の心を弱めイーヴォの側面を強くして、”アルカネット”としての人格になっていった」
長い年月の中、仮面(ペルソナ)の奥深くで一つの人格となった”アルカネット”と”イーヴォ”は、あることをきっかけにして、仮面(ペルソナ)に干渉し始めた。
キュッリッキとの出会いである。
リューディアと同じ顔を持つ少女の存在は、奥底で眠っていた善悪の人格を光で照らすように揺さぶった。しかしキュッリッキの生い立ちは不幸を極め、置かれている境遇も、けっして幸せとは言い難い。
哀れみを覚えるより、何故か怒りを覚えた。
リューディアは幸せな少女だった。だから、同じ顔を持つキュッリッキも、幸せでなくてはならないのだ。幸せに笑い、幸せに輝いてなくては認めることなどできない。それなのに、こともあろうに、仮面(ペルソナ)がキュッリッキを愛し始めた。
心の底から、本気で愛し始めていたのだ。
”アルカネット”はそのことを、不愉快に思っていた。リューディアと同じ顔をする、不幸な少女を愛するなど、認められないというのに。
仮面(ペルソナ)の邪魔をするために、様々な場面で仮面(ペルソナ)に干渉した。31年という長い年月の間に、”アルカネット”は表に立つ仮面(ペルソナ)を、押しのけるのではなく、密かに操る術を見出していたのだ。
時折アルカネットが見せる負の感情や暴挙は、”アルカネット”が干渉したゆえに起きていたことだった。
幸いベルトルドはそのことに、全く気づいていなかった。
ところが、キュッリッキがアルケラの巫女であることが判明する。この衝撃は”アルカネット”に大きな衝撃をもたらした。
リューディアを無惨に殺した神、その神に愛される巫女であるキュッリッキ。
”アルカネット”の憎悪は、一気に膨らんだ。
アルケラの神々に向けられていた憎悪は、そのままキュッリッキへも向けられる。
仮面(ペルソナ)は必死で、憎悪を膨張させる”アルカネット”を抑え込もうとした。しかし、日に日に”アルカネット”の力は増していく。
そしてついに、最悪な形で仮面(ペルソナ)は弾き飛ばされてしまった。
ベルトルドとキュッリッキの、親娘のように仲睦まじい姿を目にし、仮面(ペルソナ)は大きな嫉妬を抱いたのだ。
何故なら仮面(ペルソナ)の中に生まれたキュッリッキへの愛は、男女の愛ではなく、親としての情愛だったからだ。
不幸な生い立ちのキュッリッキを慰め、慈しみ、守っているうちに芽生えた愛情は、ベルトルドとは違うもの。キュッリッキを独占し、自分だけのものにしたかったのは、父親としての愛。
ベルトルドが望んでいるのは男女の愛だというのに、二人のあの姿は、まるで親娘のようなのだ。
”アルカネット”は仮面(ペルソナ)の抱いた嫉妬を見逃さなかった。そして、そのことに動揺する仮面(ペルソナ)と争い、ついに”アルカネット”は仮面(ペルソナ)を押しのけ表に出ることに成功した。
アルカネットもイーヴォも、お互いどちらが主人格か理解出来ないほど、交互に入れ替わっては、周囲を困惑させていた。リューディアの死の強いショックに、精神を保てなくなっていたからである。
この時初めて、アルカネットの両親やベルトルドたちは、アルカネットが多重人格であることに気づいた。
そして、壊れかかっていたアルカネットを救うため、ベルトルドはアルカネットの心を探り出し、そこでもうひとつの新たな人格を発見した。その新しい人格を引っ張り出し、アルカネットとイーヴォの上にかぶせた。そうすることで、アルカネットの精神は保たれ、新たな人格は”アルカネット”として、31年間を過ごしていくことになる。
「ですが、あなた方はやがて、一つの人格として融合していった……。リューディアへの想いはそのままに、善の心を弱めイーヴォの側面を強くして、”アルカネット”としての人格になっていった」
長い年月の中、仮面(ペルソナ)の奥深くで一つの人格となった”アルカネット”と”イーヴォ”は、あることをきっかけにして、仮面(ペルソナ)に干渉し始めた。
キュッリッキとの出会いである。
リューディアと同じ顔を持つ少女の存在は、奥底で眠っていた善悪の人格を光で照らすように揺さぶった。しかしキュッリッキの生い立ちは不幸を極め、置かれている境遇も、けっして幸せとは言い難い。
哀れみを覚えるより、何故か怒りを覚えた。
リューディアは幸せな少女だった。だから、同じ顔を持つキュッリッキも、幸せでなくてはならないのだ。幸せに笑い、幸せに輝いてなくては認めることなどできない。それなのに、こともあろうに、仮面(ペルソナ)がキュッリッキを愛し始めた。
心の底から、本気で愛し始めていたのだ。
”アルカネット”はそのことを、不愉快に思っていた。リューディアと同じ顔をする、不幸な少女を愛するなど、認められないというのに。
仮面(ペルソナ)の邪魔をするために、様々な場面で仮面(ペルソナ)に干渉した。31年という長い年月の間に、”アルカネット”は表に立つ仮面(ペルソナ)を、押しのけるのではなく、密かに操る術を見出していたのだ。
時折アルカネットが見せる負の感情や暴挙は、”アルカネット”が干渉したゆえに起きていたことだった。
幸いベルトルドはそのことに、全く気づいていなかった。
ところが、キュッリッキがアルケラの巫女であることが判明する。この衝撃は”アルカネット”に大きな衝撃をもたらした。
リューディアを無惨に殺した神、その神に愛される巫女であるキュッリッキ。
”アルカネット”の憎悪は、一気に膨らんだ。
アルケラの神々に向けられていた憎悪は、そのままキュッリッキへも向けられる。
仮面(ペルソナ)は必死で、憎悪を膨張させる”アルカネット”を抑え込もうとした。しかし、日に日に”アルカネット”の力は増していく。
そしてついに、最悪な形で仮面(ペルソナ)は弾き飛ばされてしまった。
ベルトルドとキュッリッキの、親娘のように仲睦まじい姿を目にし、仮面(ペルソナ)は大きな嫉妬を抱いたのだ。
何故なら仮面(ペルソナ)の中に生まれたキュッリッキへの愛は、男女の愛ではなく、親としての情愛だったからだ。
不幸な生い立ちのキュッリッキを慰め、慈しみ、守っているうちに芽生えた愛情は、ベルトルドとは違うもの。キュッリッキを独占し、自分だけのものにしたかったのは、父親としての愛。
ベルトルドが望んでいるのは男女の愛だというのに、二人のあの姿は、まるで親娘のようなのだ。
”アルカネット”は仮面(ペルソナ)の抱いた嫉妬を見逃さなかった。そして、そのことに動揺する仮面(ペルソナ)と争い、ついに”アルカネット”は仮面(ペルソナ)を押しのけ表に出ることに成功した。
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