片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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フリングホルニ編

episode726

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 そんな時、弱々しいまでに、頼りなげなベルトルドの声が、頭の中に小さく響いてきた。

 いつもの自信に満ち溢れる声ではない。誰も知らない弱い顔のベルトルドの声。

 でも自分に話しかけてきているわけではない。ベルトルドの心が発する、耳には聞こえない独白だ。

 どういうわけかもっと幼い頃から、アルカネットとイーヴォはずっと、ベルトルドの心の声が聞こえてしまう。必ずではないが、距離に関係なく聞こえてくることがある。

 はっきりと聞こえたのは、ベルトルドの母サーラが流産して、生まれてくることのなかった弟を悼んで、悲しみに心が張り裂けそうな声が初めてだった。それまでは、どこか曖昧だったのだ。

 それからよく、ベルトルドの心の声が、はっきりとアルカネットとイーヴォの耳に届いた。

 今回もまた、リューディアを失った悲しみと、死を認めたくない気持ち。そして、本気で恋をしていたという想いが一緒になった声が、アルカネットとイーヴォの心に突き刺さるように聞こえてきたのだ。

 その声に突き動かされるように、ベルトルドの後を追いかけた。

 ベルトルドはリューディアの死の原因を、探ろうとしていた。誰がリューディアをあんなめにあわせたのか。そのことは、アルカネットもイーヴォも真実を知りたかった。

 それにもまして、ベルトルドの心の中に、リューディアへの想いが残っていることも許せない。

 普段威張り散らしているが、本当のベルトルドは弱い。弱さを隠して、強く振舞っているだけだということを、アルカネットとイーヴォだけは知っている。

 生まれてこなかった弟を失ったベルトルドは、浜辺で一人コソコソと泣いているような弱虫だ。だからほんの少し、ベルトルドが望むことを口にすれば、簡単に心を支配できる。

「ボクが、ベルトルドのおとうとになってあげる」

 こんな言葉一つで、ベルトルドは簡単に支配できた。アルカネットのことを、本当の弟のように思い、大事にしてくれる。どんなワガママも聞くし、アルカネットのためになんでもしてくれた。

 リューディアへの想いも、封印してくれた。

「フンッ、なんて、おもしろい男だろう」

 リューディアと相思相愛になるのは、自分だけでいい。ベルトルドなど邪魔なだけだ。

「雷に撃たれたのがベルトルドなら、心底良かったものを」

 だから、リューディアの死の真相を暴き、復讐する。その為に、身を削って働いてもらうのだ。

「呪文をかけてあげよう」

 妨げになるリュリュの存在は鬱陶しかったが、リュリュにも知らない呪文で、ベルトルドを完全に支配する。イーヴォはアルカネットを押しのけるようにして言った。

「ボクが犯人を殺してあげるよ。だから、絶対見つけ出してね、”おにいちゃん”」

 ほら、簡単にかかった。

「あのベルトルドの顔を見てごらんよ!」

 凍りついたような顔の奥底で、アルカネットの中のイーヴォは、愉快そうに大笑いしていた。



「……昔の思い出など見せて、一体、なんの真似です」

 アルカネットは同じ顔をする目の前の男を、汚らわしいものでも見るかのように睨みつけた。

「残忍で、でも脆い主人格を守るために、私は生まれました」

 アルカネットと同じ顔をしたペルソナは、穏やかに言った。そこに、悪意や敵意はない。

「リューディアの死によって、心が苛まれるあなたを守るために、ベルトルドが私を引っ張り出し、あなたの上にかぶせた。仮面(ペルソナ)とでも呼んでいただきましょうか」

 アルカネットはやがて、肩を震わせククッと笑う。

「そうでしたね。あの男が、本来の私を封じ込めたのでした」
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