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フリングホルニ編
episode722
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ハーマンは声高に吠え、得意としている火炎系攻撃魔法を放つべく、魔力媒体にしている本を開く。
「火花と火炎を撒き散らし
猛り狂いて焼き尽くさん!
エルプティオ・ヘリオス!!!」
感情で更に膨れ上がった火属性の魔力は、巨大な火の玉を作り出し、アルカネット目掛けて襲いかかった。
「当たらなければ」
「当てればいいんだよっ!!」
アルカネットの声を遮るようにしてハーマンは叫ぶと、アルカネットに火の玉が迫るその瞬間、小さな指をパチリと鳴らす。
「ゲッ」
その次にくることを察知したルーファスは、慌ててガエルの周りに防御を張る。
ハーマンが指を鳴らすと、 エルプティオ・ヘリオスの火の玉は、盛大に大爆発した。
「防げないほど連続でいくからなーーー!!」
絶対あてーる! と、荒ぶるハーマンは、次々と巨大な火の玉を作り出して、アルカネット目掛けて飛ばしまくった。
火の玉が飛んでいっては、大爆発を起こす連続魔法。
(熱い……)
ルーファスの防御で火傷は防げているが、ガエルは容赦ない熱に巻き込まれている。朱に染まる室内は、一瞬にして高温で満たされた。
ガエルはダラダラ汗を垂れ流しながら、この混乱に乗じて、素早くアルカネットに攻撃を開始した。
両拳を前に構えるようにして、爆発の中を躊躇わず突き進む。
アルカネットは水魔法の壁を作ってしのいでいたが、横からガエルの拳が飛んできて、慌てて翼で払う。しかし勢いが足らず、ガエルはすぐに体勢を立て直して襲いかかってきた。
「ちっ」
狂ったように飛んでくる火の玉の起こす爆発は、水の壁で蒸発していたが、室内に蒸気が溢れかえり、視界が悪くなっていく。
「真面目に付き合っていると、こちらが不利になるだけですね…」
アルカネットはガエルの拳を翼でかわしながら、巨大な竜巻を生み出した。
「イアサール・ブロンテ!」
雷と風の混合属性の攻撃魔法。
蒸気が吹きあげられ、かわりに荒れ狂う風と、風に混じって酷い電気が室内に逆巻いた。
ガエルも竜巻に攫われそうになったが、床にしっかりと踏ん張り、ジリジリと後退する。
「負っけるもんかああっ」
風に身体を持って行かれそうになったところを、下がったガエルに間一髪尻尾を掴まれ、風の中で踊るようになりながらハーマンは本を開く。
足場の悪さを気にするより、アルカネットを負かしてやるといきり立つ気合が、ハーマンを突き動かしていた。
「吹き抜ける疾風
怒涛の風の翼よ!
ビュー・レイプト!」
イアサール・ブロンテに匹敵する竜巻が生まれると、竜巻はアルカネット目掛けて移動を開始した。
無駄に広い室内とはいえ、そんな中を竜巻同士がぶつかり合い、衝突の余波があたりに更に吹き荒れる。
(魔弾が撃てねえええええっ!)
轟轟と吹き荒れる風の中、念話でザカリーが絶叫すると、
(無理をしなくていい、暫くはハーマンに頑張ってもらおう)
ずしりと響く声でガエルに言われて、ザカリーは頷いた。
室内はありえないほどの風が暴れまわり、静電気が肌に突き刺さるような感触に、皆顔をしかめていた。トゲトゲと痛い。
身体を吹き飛ばされないように、踏ん張って状況を見ているカーティスは、 ビュー・レイプトを必死にコントロールしているハーマンに目を向けた。ガルエに尻尾を掴まれ、風の中に浮きながら魔法をコントロールしている。
魔力の凄まじさも魅力の一つだったが、同じ魔法部隊(ビリエル)にいた時から、ハーマンの悩みとストレスもよく理解していた。
誰にでも、得意不得意はある。そして、努力をしても、それを克服できないこともあるのだ。
全ての人々が、不得意を思い通りに克服できるわけではない。
あまりに強い魔力を授かって生まれてきたハーマンが、上達しないコントロールを克服しようと常に努力していたところは見ている。そして、そのことで劣等感を抱き、本領を発揮できずにいることも知っていた。
だから、自分の傭兵団に誘ったのだ。
フォローしあえる仲間がいれば、不得意なことを隠す必要はない。むしろ、それを逆手に取る方法や作戦を考えてくれる。シビルやランドンも、コントロール訓練に丁寧に付き合ってくれていた。
そうすることで、精神的な負担を、少しでも軽くしてやりたかった。
同じ魔法スキル〈才能〉を持つカーティスだからこそ、理解してやれたとも言える。
ベルトルドが後ろ盾について、アルカネットも関わるようになったことは、予想外の誤算だった。そのことだけは、申し訳なく思ってる。
克服できないことを判ったうえで、ネチネチ指摘してくるのは、アルカネットのS体質故のことだ。そんなことは百も承知で、ハーマンはぶちキレている。
怨み辛み、負の感情を向けながらも、無詠唱魔法と魔力コントロールの完璧さに、憧憬の念を抱いていることもまた事実。
相反する感情に、ハーマンのイライラは頂点を突き抜けかけていた。
「火花と火炎を撒き散らし
猛り狂いて焼き尽くさん!
エルプティオ・ヘリオス!!!」
感情で更に膨れ上がった火属性の魔力は、巨大な火の玉を作り出し、アルカネット目掛けて襲いかかった。
「当たらなければ」
「当てればいいんだよっ!!」
アルカネットの声を遮るようにしてハーマンは叫ぶと、アルカネットに火の玉が迫るその瞬間、小さな指をパチリと鳴らす。
「ゲッ」
その次にくることを察知したルーファスは、慌ててガエルの周りに防御を張る。
ハーマンが指を鳴らすと、 エルプティオ・ヘリオスの火の玉は、盛大に大爆発した。
「防げないほど連続でいくからなーーー!!」
絶対あてーる! と、荒ぶるハーマンは、次々と巨大な火の玉を作り出して、アルカネット目掛けて飛ばしまくった。
火の玉が飛んでいっては、大爆発を起こす連続魔法。
(熱い……)
ルーファスの防御で火傷は防げているが、ガエルは容赦ない熱に巻き込まれている。朱に染まる室内は、一瞬にして高温で満たされた。
ガエルはダラダラ汗を垂れ流しながら、この混乱に乗じて、素早くアルカネットに攻撃を開始した。
両拳を前に構えるようにして、爆発の中を躊躇わず突き進む。
アルカネットは水魔法の壁を作ってしのいでいたが、横からガエルの拳が飛んできて、慌てて翼で払う。しかし勢いが足らず、ガエルはすぐに体勢を立て直して襲いかかってきた。
「ちっ」
狂ったように飛んでくる火の玉の起こす爆発は、水の壁で蒸発していたが、室内に蒸気が溢れかえり、視界が悪くなっていく。
「真面目に付き合っていると、こちらが不利になるだけですね…」
アルカネットはガエルの拳を翼でかわしながら、巨大な竜巻を生み出した。
「イアサール・ブロンテ!」
雷と風の混合属性の攻撃魔法。
蒸気が吹きあげられ、かわりに荒れ狂う風と、風に混じって酷い電気が室内に逆巻いた。
ガエルも竜巻に攫われそうになったが、床にしっかりと踏ん張り、ジリジリと後退する。
「負っけるもんかああっ」
風に身体を持って行かれそうになったところを、下がったガエルに間一髪尻尾を掴まれ、風の中で踊るようになりながらハーマンは本を開く。
足場の悪さを気にするより、アルカネットを負かしてやるといきり立つ気合が、ハーマンを突き動かしていた。
「吹き抜ける疾風
怒涛の風の翼よ!
ビュー・レイプト!」
イアサール・ブロンテに匹敵する竜巻が生まれると、竜巻はアルカネット目掛けて移動を開始した。
無駄に広い室内とはいえ、そんな中を竜巻同士がぶつかり合い、衝突の余波があたりに更に吹き荒れる。
(魔弾が撃てねえええええっ!)
轟轟と吹き荒れる風の中、念話でザカリーが絶叫すると、
(無理をしなくていい、暫くはハーマンに頑張ってもらおう)
ずしりと響く声でガエルに言われて、ザカリーは頷いた。
室内はありえないほどの風が暴れまわり、静電気が肌に突き刺さるような感触に、皆顔をしかめていた。トゲトゲと痛い。
身体を吹き飛ばされないように、踏ん張って状況を見ているカーティスは、 ビュー・レイプトを必死にコントロールしているハーマンに目を向けた。ガルエに尻尾を掴まれ、風の中に浮きながら魔法をコントロールしている。
魔力の凄まじさも魅力の一つだったが、同じ魔法部隊(ビリエル)にいた時から、ハーマンの悩みとストレスもよく理解していた。
誰にでも、得意不得意はある。そして、努力をしても、それを克服できないこともあるのだ。
全ての人々が、不得意を思い通りに克服できるわけではない。
あまりに強い魔力を授かって生まれてきたハーマンが、上達しないコントロールを克服しようと常に努力していたところは見ている。そして、そのことで劣等感を抱き、本領を発揮できずにいることも知っていた。
だから、自分の傭兵団に誘ったのだ。
フォローしあえる仲間がいれば、不得意なことを隠す必要はない。むしろ、それを逆手に取る方法や作戦を考えてくれる。シビルやランドンも、コントロール訓練に丁寧に付き合ってくれていた。
そうすることで、精神的な負担を、少しでも軽くしてやりたかった。
同じ魔法スキル〈才能〉を持つカーティスだからこそ、理解してやれたとも言える。
ベルトルドが後ろ盾について、アルカネットも関わるようになったことは、予想外の誤算だった。そのことだけは、申し訳なく思ってる。
克服できないことを判ったうえで、ネチネチ指摘してくるのは、アルカネットのS体質故のことだ。そんなことは百も承知で、ハーマンはぶちキレている。
怨み辛み、負の感情を向けながらも、無詠唱魔法と魔力コントロールの完璧さに、憧憬の念を抱いていることもまた事実。
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