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フリングホルニ編
episode720
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トゥーリ族は外見だけ見ても年齢が判りづらい。老人と呼ばれる領域まで来ると、外側を覆い尽くす毛に白いものが混じって、それで判断するしかない。
平均年齢が20代後半を占めるライオン傭兵団の中で、ガエルは33歳と一番の年長者だ。見た目はずっと若い印象を持たせるが、寡黙な性格も手伝って、落ち着いた雰囲気をまとっている。
主に作戦を考えるのはブルニタルとカーティスだが、いざ実戦となるとガエルが仕切る場面が多くなる。実戦での指揮役であるギャリーの指示も的確だが、相手次第ではガエルの意見を皆尊重する。ガエルにライバル意識を燃やすヴァルトですら、おとなしく従う。
この場で仕切っているのは、現在はガエルのようだ。正面に立つガエルの後ろに目を向け、アルカネットは内心頷いた。
現在ハワドウレ皇国の将軍職を務めるブルーベル将軍の甥で、ロフレス王国の元親衛隊員である。戦闘に関しては師範級のプロだ。ライオン傭兵団の中で、もっとも現実的で経験も多く、その場で作戦を立て実行するのが巧い。それはアルカネットもベルトルドも認めている。
(ギャリーとカーティスがペアを組み、ザカリー、ペルラ、ルーファスが支援と遠隔攻撃に徹するようですね。ガエルのパートナーはハーマンですか。本当に頭の回る男です)
ハーマンの内包する魔力も中々のもので、アルカネットには遥かに及ばないものの、魔法部隊(ビリエル)の中で見れば、ハーマンはトップクラスの魔力の持ち主だ。
概ね自分と同じスキル〈才能〉を持つ者には、自然と興味が向く。ベルトルドもなんだかんだ言いながら、ルーファスやマリオンをよく気にかけていた。性格が似ているところがあるのも、類が友を呼ぶようなノリなのだろうが、アルカネットもハーマンの資質に興味を持っている。
世界中どこを探しても、アルカネットに匹敵、上回る魔法使いなどいない。しかし、ハーマンは魔力のみに関しては、アルカネットの興味を引く程度に高い。だが魔力のコントロールが上達しない。あまりに高い魔力を持て余しているようで、上級レベルの魔法を使うと、大抵暴走する。それが自信喪失に繋がり、肝心な時に真価を発揮できずにいた。
でもこの戦場では、相手に遠慮をする必要もなく、パートナーにも遠慮はいらない。
(魔力コントロールが下手なハーマンと組むことで、劣等感を感じさせず、とにかく全力を出させて、私を攻撃させるようにするためですね。自身がわきまえているから、足を引っ張られることもない。――本当に敵にとって、嫌な男です)
ガエルは己の防具と、ルーファスのサイ《超能力》で守られる。ハーマンが魔法を暴走させても、ガエルは無事だしフリングホルニの安全を気にする必要はない。
魔法は当たらなければ意味はないが、行動を阻害される可能性は大きい。
アルカネットにとっては、厄介だった。
(こんなところで、邪魔をされるわけにはいかないのですよ。31年も我慢したのですから)
目の前で最愛のリューディアを失ったあの日から、もう31年もの歳月が流れている。
10歳だった子供が、今やもう41歳の大人に成長するほどの長い年月だ。
リューディアは13歳のあの時から、永遠に歳を取らない。なのに、いまだにこうして自分は生きている。
あとを追って死ぬことも考えた。しかし、残酷にリューディアを殺した神に復讐するまで、死ぬわけにはいかないのだ。何故なら、一矢報いることもせず、おめおめと彼女のいる場所へなど行けやしない。
空を飛ぶ乗り物のアイデアが浮かんだというだけで、問答無用に命を摘み取った神。
(殺す必要がどこにあったのだ?)
9千年の時間の中で、空を飛ぶ技術や記憶などを消し去ったように、リューディアの記憶から、そのことだけを消せば良かっただけだろう。
絶対に、許すことはできない。
リューディアを殺した神も、そして、神に愛される巫女(キュッリッキ)も。
今も脳裏に焼き付いて離れない、リューディアを殺した雷。あの凄まじくも忌まわしい力を思い出し、アルカネットは右手に雷の魔力を込めだした。
あの時のショックが引き金となり、アルカネットの雷属性の魔力を異常なまでに高めてしまっている。それはベルトルドも同じで、雷エネルギーの扱いが異常に巧い。雷霆(ケラウノス)など、ベルトルド以外の何者にも扱えないのだ。
忌まわしいと感じるその力が、結果的に二人にとって、最強の武器(ちから)になっていた。
アルカネットは笑みを消すと、右手をスッと上にあげる。
「イラアルータ・トニトルス!!」
平均年齢が20代後半を占めるライオン傭兵団の中で、ガエルは33歳と一番の年長者だ。見た目はずっと若い印象を持たせるが、寡黙な性格も手伝って、落ち着いた雰囲気をまとっている。
主に作戦を考えるのはブルニタルとカーティスだが、いざ実戦となるとガエルが仕切る場面が多くなる。実戦での指揮役であるギャリーの指示も的確だが、相手次第ではガエルの意見を皆尊重する。ガエルにライバル意識を燃やすヴァルトですら、おとなしく従う。
この場で仕切っているのは、現在はガエルのようだ。正面に立つガエルの後ろに目を向け、アルカネットは内心頷いた。
現在ハワドウレ皇国の将軍職を務めるブルーベル将軍の甥で、ロフレス王国の元親衛隊員である。戦闘に関しては師範級のプロだ。ライオン傭兵団の中で、もっとも現実的で経験も多く、その場で作戦を立て実行するのが巧い。それはアルカネットもベルトルドも認めている。
(ギャリーとカーティスがペアを組み、ザカリー、ペルラ、ルーファスが支援と遠隔攻撃に徹するようですね。ガエルのパートナーはハーマンですか。本当に頭の回る男です)
ハーマンの内包する魔力も中々のもので、アルカネットには遥かに及ばないものの、魔法部隊(ビリエル)の中で見れば、ハーマンはトップクラスの魔力の持ち主だ。
概ね自分と同じスキル〈才能〉を持つ者には、自然と興味が向く。ベルトルドもなんだかんだ言いながら、ルーファスやマリオンをよく気にかけていた。性格が似ているところがあるのも、類が友を呼ぶようなノリなのだろうが、アルカネットもハーマンの資質に興味を持っている。
世界中どこを探しても、アルカネットに匹敵、上回る魔法使いなどいない。しかし、ハーマンは魔力のみに関しては、アルカネットの興味を引く程度に高い。だが魔力のコントロールが上達しない。あまりに高い魔力を持て余しているようで、上級レベルの魔法を使うと、大抵暴走する。それが自信喪失に繋がり、肝心な時に真価を発揮できずにいた。
でもこの戦場では、相手に遠慮をする必要もなく、パートナーにも遠慮はいらない。
(魔力コントロールが下手なハーマンと組むことで、劣等感を感じさせず、とにかく全力を出させて、私を攻撃させるようにするためですね。自身がわきまえているから、足を引っ張られることもない。――本当に敵にとって、嫌な男です)
ガエルは己の防具と、ルーファスのサイ《超能力》で守られる。ハーマンが魔法を暴走させても、ガエルは無事だしフリングホルニの安全を気にする必要はない。
魔法は当たらなければ意味はないが、行動を阻害される可能性は大きい。
アルカネットにとっては、厄介だった。
(こんなところで、邪魔をされるわけにはいかないのですよ。31年も我慢したのですから)
目の前で最愛のリューディアを失ったあの日から、もう31年もの歳月が流れている。
10歳だった子供が、今やもう41歳の大人に成長するほどの長い年月だ。
リューディアは13歳のあの時から、永遠に歳を取らない。なのに、いまだにこうして自分は生きている。
あとを追って死ぬことも考えた。しかし、残酷にリューディアを殺した神に復讐するまで、死ぬわけにはいかないのだ。何故なら、一矢報いることもせず、おめおめと彼女のいる場所へなど行けやしない。
空を飛ぶ乗り物のアイデアが浮かんだというだけで、問答無用に命を摘み取った神。
(殺す必要がどこにあったのだ?)
9千年の時間の中で、空を飛ぶ技術や記憶などを消し去ったように、リューディアの記憶から、そのことだけを消せば良かっただけだろう。
絶対に、許すことはできない。
リューディアを殺した神も、そして、神に愛される巫女(キュッリッキ)も。
今も脳裏に焼き付いて離れない、リューディアを殺した雷。あの凄まじくも忌まわしい力を思い出し、アルカネットは右手に雷の魔力を込めだした。
あの時のショックが引き金となり、アルカネットの雷属性の魔力を異常なまでに高めてしまっている。それはベルトルドも同じで、雷エネルギーの扱いが異常に巧い。雷霆(ケラウノス)など、ベルトルド以外の何者にも扱えないのだ。
忌まわしいと感じるその力が、結果的に二人にとって、最強の武器(ちから)になっていた。
アルカネットは笑みを消すと、右手をスッと上にあげる。
「イラアルータ・トニトルス!!」
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