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フリングホルニ編
episode716
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だらりと両手を下げていたアルカネットは、深呼吸をするようにして反ると、背に漆黒の翼を生やした。
片方だけ大きく広がったその翼を見て、カーティスたちはギョッと目を見張る。
「アイオン族だった…んですか…」
キュッリッキと同様に、アルカネットがアイオン族であることは、ライオン傭兵団は知らないことだった。
しかし、ヴァルトのような綺麗な白い翼ではなく、カラスのような黒々とした色をしていて、おまけに片翼である。
「子供の頃に片方へし折ったので、片翼なのですよ。リッキーさんとお揃いですね」
へし折ったと、なんのことでもないように言い放ち、アルカネットは微笑を浮かべた。
「それにしても、メンバーをバランスよく残しましたね。ガエルとザカリーが厄介なので、この翼も役に立ってもらいましょう」
防御のために生やしたのだと判り、ガエルは苦笑する。とくにヴァルトもだが、戦闘スキル〈才能〉を持つアイオン族は、その翼で攻撃を防御することがよくあるのだ。
アルカネットは魔法使いだ。オマケに魔具がその身体なので、無詠唱でいくらでも魔法を扱える。
しかし、ベルトルドのようなサイ《超能力》と違って、絶対防御もなく、魔法攻撃と物理攻撃を同時に防ぐためには、防御手段を増やさなくてはならない。
これまで常に集団戦では、圧倒的優位な立ち位置か、ベルトルドが共にいたので、防御に気を使っている所を見たことがない。
ヴァルトと違い、強化魔法も込みの防御だから、片翼でも厄介だ。
ああして防御手段を増やしているということは、こちらを相当警戒してくれているのだろう。やっと認めてくれたのかと嬉しいのか困るのか、複雑な心境になる。
「魔力の高まり方が異常だよぉ……カーティス」
ハーマンがおっかなびっくりといった口調でぼやくと、カーティスも眉間にシワを寄せた。魔法スキル〈才能〉を持つ者たちは、相手の魔力を感知し、測定することができる。
「あの人本当に、人間なんでしょうかねえ…」
「カーティス、仕掛けられてくるのも面倒だ。オレ達のほうから仕掛けて、主導権を掴もうぜ。――まあもっとも、主導権なんざ取れるか判らねえがよ」
愛用の魔剣シラーを肩に担いで、ギャリーが不敵に笑みながら言う。
「そうですね。1分宣言されちゃいましたし、1分以上踏ん張りましょう」
「おうよ」
ギャリーとガエルが前方に立ちはだかり、カーティスとハーマンが攻撃魔法を撃てるように詠唱準備に入る。
後方でみんなの様子を見ていたザカリーは、小型拳銃形態にしていた愛銃バーガットを、撃ちやすい大きさの機関銃タイプに変化させる。
メルヴィンの持つ爪竜刀と同じで、持ち主の思い通りに形状を変化させることができる魔銃だ。
背負っているリュックの中には、リュリュがあらかじめ用意してくれていた魔弾が大量に入っている。相当使うだろうと思ったのか、足元にも魔弾の詰まったリュックが2つばかりあった。
火薬の代わりに魔力を込めた弾丸を、魔弾という。魔法使いたちにしか作り出せない、特殊な弾丸だ。そして、魔弾を撃ちだすことのできる銃器もまた、専用に生み出された魔銃のみである。
魔弾の制作は常日頃ランドンがやってくれていたが、今はキュッリッキ救出のために離れている。カーティスやハーマンは攻撃に集中せざるを得ないだろうし、マーゴットは魔弾が作れない。魔力を込める作業はとても繊細で、魔力コントロールが巧みに扱えないと、魔弾は作れないのだ。マーゴットは根本的に魔力コントロールが下手なこともあり、とても頼めなかった。
(残量管理しながらアルカネットとやりあうとか……うーん、難しそうだな)
鼻の下を指で何度か擦り、小さくため息を落とす。
魔法使いとサイ《超能力》使いでは、防御方法が若干違う。さらに、ベルトルドに至っては、絶対防御で魔弾を転移してしまう。しかしアルカネットはそんな器用なことはできないから、防御魔法で身を守るしかない。
ただし、どんなに強い相手であろうと、一瞬の隙というものは必ずある。
遠隔武器スキル〈才能〉のSランクであるザカリーは、見えすぎる視力で一瞬の隙も見逃さない。とくに今はキュッリッキ救出がかかっている。
メルヴィンに恋人役は取られてしまい、完璧に失恋したものの、キュッリッキを好きな気持ちに変わりはない。たとえ恋は成就せずとも、仲間(かぞく)として、可愛い妹分として、これからも大切に守っていく覚悟をしているのだ。
(ぜってー、負けらんね)
片方だけ大きく広がったその翼を見て、カーティスたちはギョッと目を見張る。
「アイオン族だった…んですか…」
キュッリッキと同様に、アルカネットがアイオン族であることは、ライオン傭兵団は知らないことだった。
しかし、ヴァルトのような綺麗な白い翼ではなく、カラスのような黒々とした色をしていて、おまけに片翼である。
「子供の頃に片方へし折ったので、片翼なのですよ。リッキーさんとお揃いですね」
へし折ったと、なんのことでもないように言い放ち、アルカネットは微笑を浮かべた。
「それにしても、メンバーをバランスよく残しましたね。ガエルとザカリーが厄介なので、この翼も役に立ってもらいましょう」
防御のために生やしたのだと判り、ガエルは苦笑する。とくにヴァルトもだが、戦闘スキル〈才能〉を持つアイオン族は、その翼で攻撃を防御することがよくあるのだ。
アルカネットは魔法使いだ。オマケに魔具がその身体なので、無詠唱でいくらでも魔法を扱える。
しかし、ベルトルドのようなサイ《超能力》と違って、絶対防御もなく、魔法攻撃と物理攻撃を同時に防ぐためには、防御手段を増やさなくてはならない。
これまで常に集団戦では、圧倒的優位な立ち位置か、ベルトルドが共にいたので、防御に気を使っている所を見たことがない。
ヴァルトと違い、強化魔法も込みの防御だから、片翼でも厄介だ。
ああして防御手段を増やしているということは、こちらを相当警戒してくれているのだろう。やっと認めてくれたのかと嬉しいのか困るのか、複雑な心境になる。
「魔力の高まり方が異常だよぉ……カーティス」
ハーマンがおっかなびっくりといった口調でぼやくと、カーティスも眉間にシワを寄せた。魔法スキル〈才能〉を持つ者たちは、相手の魔力を感知し、測定することができる。
「あの人本当に、人間なんでしょうかねえ…」
「カーティス、仕掛けられてくるのも面倒だ。オレ達のほうから仕掛けて、主導権を掴もうぜ。――まあもっとも、主導権なんざ取れるか判らねえがよ」
愛用の魔剣シラーを肩に担いで、ギャリーが不敵に笑みながら言う。
「そうですね。1分宣言されちゃいましたし、1分以上踏ん張りましょう」
「おうよ」
ギャリーとガエルが前方に立ちはだかり、カーティスとハーマンが攻撃魔法を撃てるように詠唱準備に入る。
後方でみんなの様子を見ていたザカリーは、小型拳銃形態にしていた愛銃バーガットを、撃ちやすい大きさの機関銃タイプに変化させる。
メルヴィンの持つ爪竜刀と同じで、持ち主の思い通りに形状を変化させることができる魔銃だ。
背負っているリュックの中には、リュリュがあらかじめ用意してくれていた魔弾が大量に入っている。相当使うだろうと思ったのか、足元にも魔弾の詰まったリュックが2つばかりあった。
火薬の代わりに魔力を込めた弾丸を、魔弾という。魔法使いたちにしか作り出せない、特殊な弾丸だ。そして、魔弾を撃ちだすことのできる銃器もまた、専用に生み出された魔銃のみである。
魔弾の制作は常日頃ランドンがやってくれていたが、今はキュッリッキ救出のために離れている。カーティスやハーマンは攻撃に集中せざるを得ないだろうし、マーゴットは魔弾が作れない。魔力を込める作業はとても繊細で、魔力コントロールが巧みに扱えないと、魔弾は作れないのだ。マーゴットは根本的に魔力コントロールが下手なこともあり、とても頼めなかった。
(残量管理しながらアルカネットとやりあうとか……うーん、難しそうだな)
鼻の下を指で何度か擦り、小さくため息を落とす。
魔法使いとサイ《超能力》使いでは、防御方法が若干違う。さらに、ベルトルドに至っては、絶対防御で魔弾を転移してしまう。しかしアルカネットはそんな器用なことはできないから、防御魔法で身を守るしかない。
ただし、どんなに強い相手であろうと、一瞬の隙というものは必ずある。
遠隔武器スキル〈才能〉のSランクであるザカリーは、見えすぎる視力で一瞬の隙も見逃さない。とくに今はキュッリッキ救出がかかっている。
メルヴィンに恋人役は取られてしまい、完璧に失恋したものの、キュッリッキを好きな気持ちに変わりはない。たとえ恋は成就せずとも、仲間(かぞく)として、可愛い妹分として、これからも大切に守っていく覚悟をしているのだ。
(ぜってー、負けらんね)
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