片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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フリングホルニ編

episode715

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 そこは、ひたすらだだっ広い部屋だった。白い天井と床、そして、エグザイル・システムしかない。

「ここかー、フリングホルニとやらは。つか、前にも来たか…」

 ギャリーは忙しなくタバコをふかしながら、ぐるりと室内を見回す。

「なんにもないぞ! 無駄に広すぎる!」

 気合を入れたヴァルトが大声を上げ、ついでに無意味に翼を広げ羽ばたかせ、周りからひんしゅくを買う。

「時間がないようなことをリュリュさんが言ってましたから、早急にキューリさんを見つけましょう」

 簾のような前髪をかきあげカーティスが言うと、皆黙って頷いた。

「そうはいきませんよ、みなさん」

 そこに、にこやかな声が割って入り、ライオン傭兵団の視線が集中する。

「へっ……おいでなすったか」

 冷や汗を額に滲ませて、ギャリーは小声で呟く。

 すでに退役したというのに、魔法部隊(ビリエル)の長官服を着込んだアルカネットが、優美な笑みをたたえて目の前に立ち塞がった。

 そつも隙もない立ち姿に、鬱陶しさと不快感をを滲ませた、皆の視線が集中する。

「フリングホルニは無事発進しました。あとはアルケラの門を通り、忌々しい神のもとへ行くだけなのです。あなたがたに、邪魔はさせませんよ」

 笑顔はそのままに、声音がスーッと冷たさを帯びていく。

 以前ならこの声を聞いただけで、心底震え上がったものだ。しかし、今回ばかりは怖がるわけにはいかない。

 あの男の向こうに、助けを待っている、大切な仲間がいるのだ。

「パーティを分けますよ」

 アルカネットをじっと見据えながら、カーティスが口を開く。

「メルヴィン、マリオン、タルコット、ヴァルト、ブルニタル、シビル、ランドンは、キューリさんの救出へ向かってください。もちろん、あちらにはベルトルド卿が詰めているはずです」

「お…おぅ」

 怯んだようにヴァルトが言うと、ガエルがフフンと鼻で笑う。

「ケツまくって逃げるなよ? ヴァルト」

「なんだとテメークマ野郎!! オレサマがあんなジジイごときにビビってるとでもいうのかよ!」

 いきり立つヴァルトの耳を、マリオンがつまむ。

「はーいはいはい、喧嘩なんかぁしてるよゆーなんて、ナイのよぅ? サッサ行くわよん」

「イテーよブス!!」

「なぁんですってぇ~?」

「メルヴィン、頼みましたよ」

 疲れたようにカーティスが笑うと、メルヴィンも苦笑する。

「はい。リッキーを必ず助けてきます」

「ああ、メルヴィン」

 突然アルカネットに名を呼ばれ、メルヴィンは振り向く。

「リッキーさんは、ベルトルドの愛撫に歓喜の声を上げて、感じ悶えていましたよ。恥ずかしい姿を惜しげもなく晒しながら、ベルトルドに抱かれていました」

「るっせーぞテメー!」

 ザカリーが咄嗟に怒鳴る。

 ククッと嘲笑するアルカネットを、メルヴィンは黙って見つめた。

「みんな行きましょう。オレたちが抜けるフォローを、お願いします」

 仔犬姿のフローズヴィトニルを腕に抱え、メルヴィンはカーティスに頷く。アルカネットの挑発は黙殺した。

 今はこの男の安い挑発にのっている暇などない。キュッリッキを助け出さなければならないのだ。

「ええ、任せてください」

 カーティスの返事を合図に、メルヴィンたちは出入り口に駆け出した。それと同時に、ハーマンとカーティスの攻撃魔法がアルカネットに飛び、ルーファスのサイ《超能力》がメルヴィンたちを守った。

「小賢しいことを…」

 アルカネットが魔法で対処しようとしたとき、突如目の前にガエルが飛び出してきて、巨大な拳が襲いかかった。

 直撃を防御魔法で防いでいる隙に、メルヴィンたちは室外へと姿を消してしまう。

 それを目の端でとらえ、アルカネットは小さく舌打ちした。

「フンッ、まあいいでしょう。どうせすぐに追いかければ済むことです」

 すでにガエルは飛び退っていて、一定の距離を保って構えていた。

「1分でカタをつけますよ」

 アルカネットは不気味な笑みで顔を彩ると、両手に魔力を込め始めた。
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