片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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フリングホルニ編

episode712

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 それは、深夜のことだった。

 大陸には光がなく、地上は不気味な暗闇が支配している。

 ズンッ、という音が大陸全土から鳴った。そしてその直後、ズズズズッと地鳴りがあり、何かが爆発したような音が轟いた。

 砂塵が巻き上がり、樹木が倒れ、眠りから起こされた鳥たちが、慌てて空へ逃げ飛び立った。

 大気が震撼し、大陸全土に大きな地震が起こる。

 地面には巨大な亀裂がいく筋も走り、建物は亀裂に飲み込まれて崩れ落ちた。そして、ボコボコと地下水が地面に膨れ上がり、やがて勢いよく噴射する。

 街や村は瞬く間に壊滅し、地震は一向に止む気配がない。

 大陸の地震の振動は海にも広がり、海岸沿いに大津波が押し寄せた。

 ハワドウレ皇国軍の潜水艦は3隻待機していたが、津波に押し流されて、大陸に乗り上げそうである。

「いやはや、大災害ですねえ」

 ブルーベル将軍はシートに座りながらも、激しすぎる揺れに身体が固定されず、巨体がシートを離れて飛ぶんじゃないかと、ハギはヒヤヒヤとブルーベル将軍を見ていた。

「いつこの、揺れっは、おさまま、るんです、かね、え?」

 まともに喋ることもできず、ヴィヒトリはメガネを抑えながら唸った。

「舌を噛みますから、閉じていたほうがいいですよ。この揺れで、船内にも怪我人が続出しているでしょうし、先生が先に怪我をしたら大変ですからねえ」

 これだけ激しい揺れの中で、何故普段通りの温厚な口調で喋れるのか、ヴィヒトリは不思議でたまらなかった。

 荒れ狂う海の中で、頼りなく揉まれるだけの潜水艦は、この驚異にじっと耐えることしかできなかった。



 あらゆるものを地中に飲み込みながら、それは、ようやく地上に姿を現した。

 船首で地面を突き抜けるように滑り出したのは、白く光り輝く超巨大な帆船だった。

 ステイセイルと5本のマストを立て、船体表面には窓もなく、ツルッとした光沢に覆われていた。そして捻ったデザインのシンプルな船首は大きく長く突き出し、一角獣の角を思わせるような、黄金で出来ている。

 真っ暗な闇の中に、小さな太陽のような光を放つその優美な姿を、誰も見ることができなかった。

 船が地上に踊りだす余波を受けて、モナルダ大陸は崩壊の危機に直面し、その影響で遠く離れている各大陸や島国にも被害が及んでいたからだ。

 この帆船が目覚めたことで、惑星ヒイシは天変地異に見舞われている有様である。

 帆船は船首を空に向けながら、ゆっくりと浮上し始めた。そして藍色の空に浮かぶ月に進路を取ると、ゆるやかなスピードでまっすぐ飛び立ち始めた。
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