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奪われしもの編 彼女が遺した空への想い
episode710
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それまでずっと黙っていたアルカネットが、端整な顔に優美な笑みを浮かべた。
「アルケラの巫女を不浄の鍵に出来ましたが、穢は多いほうがいいでしょう。アルケラの門に捧げてやりますよ」
アルカネットの魔力が昂りだしているのを感じ、ベルトルドは頷いた。
「お前に任せる」
いっそう優美な笑みを深め、アルカネットは踵を返した。
去りゆくアルカネットの後ろ姿を見送りながら、シ・アティウスは「大丈夫なんですか?」と呟いた。
腕を組んだベルトルドは、急に真顔になって小さく頷いた。
「俺たちがこんなに出鱈目に強いのもな、生まれつきそれだけの力を持っていたことに加えて、リューディアのあんな死に様を目にしたからなんだ。あの瞬間から、力が飛躍的に上がったようだ。しばらくはコントロールが難しかったよ」
抜群のコントロール力を有していたベルトルドですら、己の力の大きさを自在にコントロールすることに苦労を強いられてきた。
「俺もアルカネットも、雷を操るのが得意だろ、それもさ。全ては31年前のあの日に狂った。お前も含め、巻き込んだ連中には悪いと思うが、もう俺たちは止まらない。壊れると思っていたアルカネットも、仮面(ペルソナ)を被ることでなんとか凌いできたが、もういいだろう。あいつの魔力は甚大だ。もうすぐ神の元へ行けると思って、より昂ぶっている。少し抜かないと、己の魔力に飲み込まれてしまうから」
だから、とベルトルドは意地の悪い笑みを浮かべた。
「あいつらにはアルカネットの子守をしてもらうさ。航行に支障がない程度にな」
「いくらなんでも、瞬殺されるんじゃないんですか……」
「なあに、リュリュが目をつけた連中だ。1時間くらいは頑張れるだろう。あれでも”オレサマ最強”を自負する連中だからな」
「1時間だけですか……」
それを長いととるか、短いかいととるかは、アルケラに到達する時間が不明なため何とも言い難い。
ライオン傭兵団のことを思い悩んでも仕方がない。もう、事態は進んでいるのだ。
「地上はオールグリーン、とは言えませんが、大陸が3分の1は崩壊します。それによって、周辺の海域も、地続きの国にも、多大な影響や損害災害が襲いかかるでしょうね」
「それについては、ブルーベル将軍にお願いして押し付けてある。出来る限りのことはしてくれるだろう」
モナルダ大陸にとっては、最悪な事態が今まさに、訪れんとしている。
「では、発進合図をこれに」
シ・アティウスは手にしていたパネルをベルトルドへ向けた。
ベルトルドは腕を組んだままパネルに顔を向けると、いつもの不敵な声音で叫んだ。
「フリングホルニ、発進!」
******************
奪われしもの編 彼女が遺した空への想いは、これで終わりとなります。
次は『フリングホルニ編』になります。
引き続きよろしくお願いします!
「アルケラの巫女を不浄の鍵に出来ましたが、穢は多いほうがいいでしょう。アルケラの門に捧げてやりますよ」
アルカネットの魔力が昂りだしているのを感じ、ベルトルドは頷いた。
「お前に任せる」
いっそう優美な笑みを深め、アルカネットは踵を返した。
去りゆくアルカネットの後ろ姿を見送りながら、シ・アティウスは「大丈夫なんですか?」と呟いた。
腕を組んだベルトルドは、急に真顔になって小さく頷いた。
「俺たちがこんなに出鱈目に強いのもな、生まれつきそれだけの力を持っていたことに加えて、リューディアのあんな死に様を目にしたからなんだ。あの瞬間から、力が飛躍的に上がったようだ。しばらくはコントロールが難しかったよ」
抜群のコントロール力を有していたベルトルドですら、己の力の大きさを自在にコントロールすることに苦労を強いられてきた。
「俺もアルカネットも、雷を操るのが得意だろ、それもさ。全ては31年前のあの日に狂った。お前も含め、巻き込んだ連中には悪いと思うが、もう俺たちは止まらない。壊れると思っていたアルカネットも、仮面(ペルソナ)を被ることでなんとか凌いできたが、もういいだろう。あいつの魔力は甚大だ。もうすぐ神の元へ行けると思って、より昂ぶっている。少し抜かないと、己の魔力に飲み込まれてしまうから」
だから、とベルトルドは意地の悪い笑みを浮かべた。
「あいつらにはアルカネットの子守をしてもらうさ。航行に支障がない程度にな」
「いくらなんでも、瞬殺されるんじゃないんですか……」
「なあに、リュリュが目をつけた連中だ。1時間くらいは頑張れるだろう。あれでも”オレサマ最強”を自負する連中だからな」
「1時間だけですか……」
それを長いととるか、短いかいととるかは、アルケラに到達する時間が不明なため何とも言い難い。
ライオン傭兵団のことを思い悩んでも仕方がない。もう、事態は進んでいるのだ。
「地上はオールグリーン、とは言えませんが、大陸が3分の1は崩壊します。それによって、周辺の海域も、地続きの国にも、多大な影響や損害災害が襲いかかるでしょうね」
「それについては、ブルーベル将軍にお願いして押し付けてある。出来る限りのことはしてくれるだろう」
モナルダ大陸にとっては、最悪な事態が今まさに、訪れんとしている。
「では、発進合図をこれに」
シ・アティウスは手にしていたパネルをベルトルドへ向けた。
ベルトルドは腕を組んだままパネルに顔を向けると、いつもの不敵な声音で叫んだ。
「フリングホルニ、発進!」
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奪われしもの編 彼女が遺した空への想いは、これで終わりとなります。
次は『フリングホルニ編』になります。
引き続きよろしくお願いします!
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