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奪われしもの編 彼女が遺した空への想い
episode708
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リュリュに連れてこられたのは、アルケラ研究機関ケレヴィルの本部だった。
ライオン傭兵団の誰もが、ここへは来たことがない。
研究機関などというから、てっきり軍本部や関連研究施設と似たようなものを想像していた彼らは、貴族の屋敷と変わらない外観に目を丸くしていた。このあたりの反応は、キュッリッキと差がない。
中へ入ると、地下へ続く階段を下りていく。
「フリングホルニの内部は、ブルニタルに立体映像型地図を渡してあるから、ナビゲートしてもらいなさい。もっとも、向こうから迎えに来てくれるでしょうけど」
「こなくていいっす……」
ゲソッとギャリーが言うと、だらしがなわいねえ、とリュリュが笑う。
「小娘は動力部のレディトゥス・システムの中に囚われているわ。そこはきっと、ベルが死守しているでしょうね。小娘をレディトゥス・システムから抜き出すと、船は月を通れなくなる。船の中に小娘がいるという状態ではダメなの。システムと連動させてはじめて、船は不浄の鍵と一体となって、月を通れるから。――いいこと、殺す気でぶつかりなさい」
「その……いいんですかぃ? 殺すことになっても」
遠慮がちに言うギャリーに、リュリュは笑顔を向ける。
「二人は計画が成功して、神の元へたどり着いても死ぬ気。計画が阻止されても、成功させるまで歩みを止める気はナシ。アルカネットは31年前に壊れちゃってるし、ベルはそんなアルカネットに支配されて、死に場所を求めているわ。小娘を本気で愛しちゃってるくせに、裏切り傷つけたりしてね…。31年という歳月は、本当に長かったわ。もう、解放してあげて。そして姉さんの呪縛から解き放ってあげて」
リュリュの話からしか判らないが、リューディアという女性を奪われて、31年という長い歳月をかけてまで、復讐に及ぼうとしている二人の気持ちを思うと、やるせないと彼らは思った。
一体どんな気持ちで生きてきたのだろう。
一人の少女の死が、ここまで彼らの人生を狂わせることになったのだ。
「でも」
メルヴィンが口を開く。
「リッキーを犠牲にしていい理由にはなりません。生まれてきてずっと、辛い思いばかりを味わい続けてきたリッキーが、二人の復讐の道具にされるなんて、絶対に認めません。親のように慕っていた二人に裏切られて、今頃どれほど傷ついているか……。オレは、二人を解放するとか、そんな事のために向かうんじゃない。リッキーを助けるためだけに行きます。そのために二人を殺す事になるなら、躊躇いません」
真剣な眼差しをするメルヴィンに、リュリュは頷いた。
「それでいいわ。あーたは小娘のために戦いなさい。結果的に、それがベルを救うためにもなるんですもの」
リュリュは目の前の大きな扉を押し開く。
真っ白でシンプルな室内の真ん中に、よく見慣れたエグザイル・システムがあった。しかし、台座の地図が違っている。
「台座に突起が3つあるでしょ、フリングホルニにはエグザイル・システムが3つあるんだけど、こっからはその3箇所のどれかに飛べるようになっているわ。小娘の囚われている動力部へは、この突起を押して飛びなさい。一番近い場所に飛ぶから」
「はい」
ブルニタルが立体地図を見ながら、位置を確認する。
「以前あーたたちを追い掛け回したエンカウンター・グルヴェイグ・システムは、たぶん機能停止したまま復活はさせてない筈。だから迷子になっても、もうあれは発動しないと思うわ」
「た…助かります…」
あの時の悪夢を思い出し、ルーファスが疲れたように薄く笑った。
「迷子にならないように、ちゃんとナビゲートします!」
尻尾を逆立てて、ブルニタルが叫んだ。
「そうしてちょーだい」
台座の上にライオン傭兵団全員が乗ったのを見て、リュリュはにっこり微笑んだ。
「あれ、リュリュさんは一緒に行かないんですか?」
カーティスが怪訝そうに見ると、リュリュは頷いた。
「アタシはこれからダエヴァを指揮して、皇都の面倒を見なくちゃならないの。ベルがあんだけ派手にぶっ壊してくれたから、仕事が一気に増えちゃって大変なのよ」
副宰相職を辞したベルトルド、そのベルトルドの秘書官をしていたリュリュは、現在ダエヴァの総括監になっていた。
「ベルとアルのばら撒いたご迷惑を、最後に掃除して綺麗にするのがアタシのお仕事。皇王様と連携して、今後やっていくことになるわね」
リュリュの表情に浮かんだ悲しげな笑みを見て、みんなようやく思い至れた。
リューディアの死に振り回されたのは、なにもベルトルドとアルカネットだけじゃない。リュリュもまた、姉の死によって、人生を狂わされたのだ。
姉の死で家族関係も崩壊し、今は仕送りをするくらいしかしていないらしい。そして、ベルトルドとアルカネットの二人とその後を共にしながらも、復讐を諦めるように説得し、邪魔を続けてきた。
もしかしたら、一番辛い立場にいるのかもしれなかった。
「ベルトルドとアルカネットを、お願いね。そして、小娘を助け出してきなさい」
亡き姉と同じ顔をするキュッリッキを、今までどんな気持ちで見てきたのだろう。想像を絶するほどの想いがあったのかもしれない。それは、あの二人にしても同じだった。
「必ず」
胸元の爪竜刀を握り締め、メルヴィンは深く頷いた。
「さあ、行きましょう」
「おう!」
気合のこもった彼らの声が、室内に大きく轟く。それを頼もしそうにみやって、リュリュは優しい笑顔を彼らに向けた。
カーティスは動力部のもっとも近いエグザイル・システムに飛ぶべく、その場所の突起を踏んだ。
ライオン傭兵団の誰もが、ここへは来たことがない。
研究機関などというから、てっきり軍本部や関連研究施設と似たようなものを想像していた彼らは、貴族の屋敷と変わらない外観に目を丸くしていた。このあたりの反応は、キュッリッキと差がない。
中へ入ると、地下へ続く階段を下りていく。
「フリングホルニの内部は、ブルニタルに立体映像型地図を渡してあるから、ナビゲートしてもらいなさい。もっとも、向こうから迎えに来てくれるでしょうけど」
「こなくていいっす……」
ゲソッとギャリーが言うと、だらしがなわいねえ、とリュリュが笑う。
「小娘は動力部のレディトゥス・システムの中に囚われているわ。そこはきっと、ベルが死守しているでしょうね。小娘をレディトゥス・システムから抜き出すと、船は月を通れなくなる。船の中に小娘がいるという状態ではダメなの。システムと連動させてはじめて、船は不浄の鍵と一体となって、月を通れるから。――いいこと、殺す気でぶつかりなさい」
「その……いいんですかぃ? 殺すことになっても」
遠慮がちに言うギャリーに、リュリュは笑顔を向ける。
「二人は計画が成功して、神の元へたどり着いても死ぬ気。計画が阻止されても、成功させるまで歩みを止める気はナシ。アルカネットは31年前に壊れちゃってるし、ベルはそんなアルカネットに支配されて、死に場所を求めているわ。小娘を本気で愛しちゃってるくせに、裏切り傷つけたりしてね…。31年という歳月は、本当に長かったわ。もう、解放してあげて。そして姉さんの呪縛から解き放ってあげて」
リュリュの話からしか判らないが、リューディアという女性を奪われて、31年という長い歳月をかけてまで、復讐に及ぼうとしている二人の気持ちを思うと、やるせないと彼らは思った。
一体どんな気持ちで生きてきたのだろう。
一人の少女の死が、ここまで彼らの人生を狂わせることになったのだ。
「でも」
メルヴィンが口を開く。
「リッキーを犠牲にしていい理由にはなりません。生まれてきてずっと、辛い思いばかりを味わい続けてきたリッキーが、二人の復讐の道具にされるなんて、絶対に認めません。親のように慕っていた二人に裏切られて、今頃どれほど傷ついているか……。オレは、二人を解放するとか、そんな事のために向かうんじゃない。リッキーを助けるためだけに行きます。そのために二人を殺す事になるなら、躊躇いません」
真剣な眼差しをするメルヴィンに、リュリュは頷いた。
「それでいいわ。あーたは小娘のために戦いなさい。結果的に、それがベルを救うためにもなるんですもの」
リュリュは目の前の大きな扉を押し開く。
真っ白でシンプルな室内の真ん中に、よく見慣れたエグザイル・システムがあった。しかし、台座の地図が違っている。
「台座に突起が3つあるでしょ、フリングホルニにはエグザイル・システムが3つあるんだけど、こっからはその3箇所のどれかに飛べるようになっているわ。小娘の囚われている動力部へは、この突起を押して飛びなさい。一番近い場所に飛ぶから」
「はい」
ブルニタルが立体地図を見ながら、位置を確認する。
「以前あーたたちを追い掛け回したエンカウンター・グルヴェイグ・システムは、たぶん機能停止したまま復活はさせてない筈。だから迷子になっても、もうあれは発動しないと思うわ」
「た…助かります…」
あの時の悪夢を思い出し、ルーファスが疲れたように薄く笑った。
「迷子にならないように、ちゃんとナビゲートします!」
尻尾を逆立てて、ブルニタルが叫んだ。
「そうしてちょーだい」
台座の上にライオン傭兵団全員が乗ったのを見て、リュリュはにっこり微笑んだ。
「あれ、リュリュさんは一緒に行かないんですか?」
カーティスが怪訝そうに見ると、リュリュは頷いた。
「アタシはこれからダエヴァを指揮して、皇都の面倒を見なくちゃならないの。ベルがあんだけ派手にぶっ壊してくれたから、仕事が一気に増えちゃって大変なのよ」
副宰相職を辞したベルトルド、そのベルトルドの秘書官をしていたリュリュは、現在ダエヴァの総括監になっていた。
「ベルとアルのばら撒いたご迷惑を、最後に掃除して綺麗にするのがアタシのお仕事。皇王様と連携して、今後やっていくことになるわね」
リュリュの表情に浮かんだ悲しげな笑みを見て、みんなようやく思い至れた。
リューディアの死に振り回されたのは、なにもベルトルドとアルカネットだけじゃない。リュリュもまた、姉の死によって、人生を狂わされたのだ。
姉の死で家族関係も崩壊し、今は仕送りをするくらいしかしていないらしい。そして、ベルトルドとアルカネットの二人とその後を共にしながらも、復讐を諦めるように説得し、邪魔を続けてきた。
もしかしたら、一番辛い立場にいるのかもしれなかった。
「ベルトルドとアルカネットを、お願いね。そして、小娘を助け出してきなさい」
亡き姉と同じ顔をするキュッリッキを、今までどんな気持ちで見てきたのだろう。想像を絶するほどの想いがあったのかもしれない。それは、あの二人にしても同じだった。
「必ず」
胸元の爪竜刀を握り締め、メルヴィンは深く頷いた。
「さあ、行きましょう」
「おう!」
気合のこもった彼らの声が、室内に大きく轟く。それを頼もしそうにみやって、リュリュは優しい笑顔を彼らに向けた。
カーティスは動力部のもっとも近いエグザイル・システムに飛ぶべく、その場所の突起を踏んだ。
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