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奪われしもの編 彼女が遺した空への想い
episode705
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ライオン傭兵団はダエヴァの用意した幌付きの大きな荷馬車に、リュリュとともに乗り込んだ。そして、火災で地獄絵図のようになった皇都イララクスの街街を突っ切り、ハーメンリンナの中へ入る。
馬車などの専用地下通路を通り、迅速に目的地へと向かう。
その車中、リュリュから聞かされたベルトルド、アルカネット、そしてリュリュの過去話に皆絶句した。しかしベルトルドとアルカネットの目的を知り、キュッリッキの身の上に起こることを聞いたとき、メルヴィンが激昂した。
「落ち着きなさい」
リュリュに窘められるが、メルヴィンの怒りはますます高まるばかりだ。
ギャリーとガエルが二人がかりで押さえ込む必要があるほど、メルヴィンの力は大きく、リュリュに掴みかかりそうだった。
「なんで、なんでリッキーが!」
険しいメルヴィンの目を真っ向から見据え、リュリュは口を開く。
「小娘がアルケラの巫女だからよ。1万年前と今とでは、役割のようなものが全然違うようだけど。でも、間違いなく小娘が、アルケラの巫女」
リュリュは深々とため息をつく。フェンリルと召喚の力がその証拠、と付け加える。
「1万年前、神王国ソレル最後の王クレメッティが見つけた、神々の世界アルケラへ至る道は、アタシたちが知る月、すなわちアルケラの門を通って行くことなの。でも、アルケラの門には神の結界が張ってあるわ。そのことは1万年前に科学者たちによって解明されている。――かつて神と人間は、ともにこの世界で生きていたけれど、ある日を境に神々は自分たちの世界へと帰り、この世界は人間たちに委ねられた。でも、神々は人間との接点を持っていたくて、月に門を作り、地上には巫女を置いた。気まぐれの奇跡を通せる門と、言葉を伝えるための巫女。巫女はそれだけじゃなく、門を開くための鍵でもある。けど、巫女が自ら門を開いて、人間たちをアルケラへ案内するわけ無いでしょ。だからクレメッティは思いついたの。巫女から神聖を奪い、不浄の穢に染めて、門へぶつけてしまえばいいと、ね」
「ひでえ…」
胸くそが悪いと顔に書いて、ザカリーは忌々しげに吐き捨てた。
「全くだわ。でもその発想自体は有効だったのよ。神聖な結界の効力を無力化するには、それしか方法がないの。それに、巫女を使って、神々の世界へ迷子にならずに行くための方法も見つけ出した。それがレディトゥス・システム。巫女はその眼でアルケラを視るでしょう、その力をシステムに取り込んで、船を案内させるもの。しょうもないことは、本当に色々思いつくものね人間って。そしてそんな思いつきを形にできるだけの科学力だの技術力だのがあったのが、1万年前の世界」
馬車のあちこちから、ため息がもれた。
「でもぉ、巫女が処女じゃなくなったらあ、巫女としての力とかってぇ、失っちゃうんじゃない?」
首をかしげて話を聞いていたマリオンが、ボソリと呟く。
「前例があったのよ。何代か前の巫女が、好いた男と関係を持って、処女を失っていたけど、役目を全うしたってね」
「そんな前例作るなよ……」
ルーファスがゲッソリとツッコんだ。
馬車などの専用地下通路を通り、迅速に目的地へと向かう。
その車中、リュリュから聞かされたベルトルド、アルカネット、そしてリュリュの過去話に皆絶句した。しかしベルトルドとアルカネットの目的を知り、キュッリッキの身の上に起こることを聞いたとき、メルヴィンが激昂した。
「落ち着きなさい」
リュリュに窘められるが、メルヴィンの怒りはますます高まるばかりだ。
ギャリーとガエルが二人がかりで押さえ込む必要があるほど、メルヴィンの力は大きく、リュリュに掴みかかりそうだった。
「なんで、なんでリッキーが!」
険しいメルヴィンの目を真っ向から見据え、リュリュは口を開く。
「小娘がアルケラの巫女だからよ。1万年前と今とでは、役割のようなものが全然違うようだけど。でも、間違いなく小娘が、アルケラの巫女」
リュリュは深々とため息をつく。フェンリルと召喚の力がその証拠、と付け加える。
「1万年前、神王国ソレル最後の王クレメッティが見つけた、神々の世界アルケラへ至る道は、アタシたちが知る月、すなわちアルケラの門を通って行くことなの。でも、アルケラの門には神の結界が張ってあるわ。そのことは1万年前に科学者たちによって解明されている。――かつて神と人間は、ともにこの世界で生きていたけれど、ある日を境に神々は自分たちの世界へと帰り、この世界は人間たちに委ねられた。でも、神々は人間との接点を持っていたくて、月に門を作り、地上には巫女を置いた。気まぐれの奇跡を通せる門と、言葉を伝えるための巫女。巫女はそれだけじゃなく、門を開くための鍵でもある。けど、巫女が自ら門を開いて、人間たちをアルケラへ案内するわけ無いでしょ。だからクレメッティは思いついたの。巫女から神聖を奪い、不浄の穢に染めて、門へぶつけてしまえばいいと、ね」
「ひでえ…」
胸くそが悪いと顔に書いて、ザカリーは忌々しげに吐き捨てた。
「全くだわ。でもその発想自体は有効だったのよ。神聖な結界の効力を無力化するには、それしか方法がないの。それに、巫女を使って、神々の世界へ迷子にならずに行くための方法も見つけ出した。それがレディトゥス・システム。巫女はその眼でアルケラを視るでしょう、その力をシステムに取り込んで、船を案内させるもの。しょうもないことは、本当に色々思いつくものね人間って。そしてそんな思いつきを形にできるだけの科学力だの技術力だのがあったのが、1万年前の世界」
馬車のあちこちから、ため息がもれた。
「でもぉ、巫女が処女じゃなくなったらあ、巫女としての力とかってぇ、失っちゃうんじゃない?」
首をかしげて話を聞いていたマリオンが、ボソリと呟く。
「前例があったのよ。何代か前の巫女が、好いた男と関係を持って、処女を失っていたけど、役目を全うしたってね」
「そんな前例作るなよ……」
ルーファスがゲッソリとツッコんだ。
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