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奪われしもの編 彼女が遺した空への想い
episode698
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(に…逃げなきゃ…)
ベルトルドとアルカネットを交互に見ながら、キュッリッキは立ち上がろうとした。しかし身体はすくみ、腰が浮かない。
これから自分の身に起こるだろうことを考えると、早くこの場から逃げ出さなくてはと心は焦るのに、何故身体が動かないのだろう。
(そうだ、アルケラの子たちに助けてもらえば)
すぐさまアルケラを視ようと目を凝らす。
(え? どうしてっ? 視えない……アルケラが視えない??)
ナルバ山の遺跡の時みたいに、アルケラが全く視えてこない。
「無駄だよ、リッキー」
ベルトルドが見透かしたように、優しい声で言う。
「ユリディスの結界の力を、この場にも引き込んでいてね。結界は、召喚士の、アルケラの巫女の力を封じてしまうんだ。だから、今のリッキーは、非力で何もできない女の子だ」
「そんな……」
「さっさと済ませてしまいましょう。処女を貫くだけなら1分もかかりませんから」
無表情にアルカネットが一歩踏み出したところで、ベルトルドが肩を掴んだ。
「お前は下がってろ、俺がやるから」
「……同情心に垂れ流されるようなあなたに、出来るのですか?」
「念願叶うんだからな。当然、出来るさ」
「なら、さっさと済ませてしまいなさい」
アルカネットは肩をすくめ、壁際まで下がると、壁にもたれて腕を組んだ。
それを見やってから、ベルトルドはキュッリッキの前に立つ。
「い、いや…、こない…で、ベルトルドさん……」
怯えながら見上げてくるキュッリッキを、ベルトルドは優しく見おろした。
「こんな形でリッキーを抱くことになるとは、思わなかったが……」
喋りながら胸元のスカーフを、ゆっくりと外して床に捨てる。絹のたてる小さな音にも、キュッリッキの身体はビクリと反応した。
次にマントの留め具を外すと、するりとマントは床に滑り落ちる。ベルトルドは片膝をつき、すくんだまま動けないキュッリッキをそっと抱き寄せ、ギュッと抱きしめた。
腕の中の少女は、可哀想なほど大きく震えている。これから自分の身に起こることを、しっかりと理解している証拠だ。
こんなに怯えさせながら、ことに及ぶことになろうとは、さすがに思わなかった。
アルカネットのことがなければ、戸惑いながらも、ベルトルドの腕の中で初めての行為に、愛らしい艶やかな声をあげたのだろうか。そう思うと残念でならなかった。
少しでも落ち着かせようと頭を優しく撫でても、震えは止まる気配がない。こうして触れているだけで、キュッリッキの不安と恐怖に包まれた気持ちが流れ込んでくる。
こんなに怯えきったキュッリッキを抱くのは胸が痛む。しかし、アルカネットに任せれば、本当にただの作業のように乱暴に扱われ、より悲惨な思いを味わわせることになるだろう。
仮面(ペルソナ)の外れたアルカネットは、もうキュッリッキがよく知るアルカネットではない。優しさも、慈しむ心も、キュッリッキに対しては、ひと欠片も持ち合わせていないのだ。
愛しているのなら、止めるべきだろう。しかし、情に流され止めることはできない。そんな温い覚悟で始めたことではないからだ。
「許せ、リッキー…」
ベルトルドとアルカネットを交互に見ながら、キュッリッキは立ち上がろうとした。しかし身体はすくみ、腰が浮かない。
これから自分の身に起こるだろうことを考えると、早くこの場から逃げ出さなくてはと心は焦るのに、何故身体が動かないのだろう。
(そうだ、アルケラの子たちに助けてもらえば)
すぐさまアルケラを視ようと目を凝らす。
(え? どうしてっ? 視えない……アルケラが視えない??)
ナルバ山の遺跡の時みたいに、アルケラが全く視えてこない。
「無駄だよ、リッキー」
ベルトルドが見透かしたように、優しい声で言う。
「ユリディスの結界の力を、この場にも引き込んでいてね。結界は、召喚士の、アルケラの巫女の力を封じてしまうんだ。だから、今のリッキーは、非力で何もできない女の子だ」
「そんな……」
「さっさと済ませてしまいましょう。処女を貫くだけなら1分もかかりませんから」
無表情にアルカネットが一歩踏み出したところで、ベルトルドが肩を掴んだ。
「お前は下がってろ、俺がやるから」
「……同情心に垂れ流されるようなあなたに、出来るのですか?」
「念願叶うんだからな。当然、出来るさ」
「なら、さっさと済ませてしまいなさい」
アルカネットは肩をすくめ、壁際まで下がると、壁にもたれて腕を組んだ。
それを見やってから、ベルトルドはキュッリッキの前に立つ。
「い、いや…、こない…で、ベルトルドさん……」
怯えながら見上げてくるキュッリッキを、ベルトルドは優しく見おろした。
「こんな形でリッキーを抱くことになるとは、思わなかったが……」
喋りながら胸元のスカーフを、ゆっくりと外して床に捨てる。絹のたてる小さな音にも、キュッリッキの身体はビクリと反応した。
次にマントの留め具を外すと、するりとマントは床に滑り落ちる。ベルトルドは片膝をつき、すくんだまま動けないキュッリッキをそっと抱き寄せ、ギュッと抱きしめた。
腕の中の少女は、可哀想なほど大きく震えている。これから自分の身に起こることを、しっかりと理解している証拠だ。
こんなに怯えさせながら、ことに及ぶことになろうとは、さすがに思わなかった。
アルカネットのことがなければ、戸惑いながらも、ベルトルドの腕の中で初めての行為に、愛らしい艶やかな声をあげたのだろうか。そう思うと残念でならなかった。
少しでも落ち着かせようと頭を優しく撫でても、震えは止まる気配がない。こうして触れているだけで、キュッリッキの不安と恐怖に包まれた気持ちが流れ込んでくる。
こんなに怯えきったキュッリッキを抱くのは胸が痛む。しかし、アルカネットに任せれば、本当にただの作業のように乱暴に扱われ、より悲惨な思いを味わわせることになるだろう。
仮面(ペルソナ)の外れたアルカネットは、もうキュッリッキがよく知るアルカネットではない。優しさも、慈しむ心も、キュッリッキに対しては、ひと欠片も持ち合わせていないのだ。
愛しているのなら、止めるべきだろう。しかし、情に流され止めることはできない。そんな温い覚悟で始めたことではないからだ。
「許せ、リッキー…」
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