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奪われしもの編 彼女が遺した空への想い
episode696
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「リッキーはヒューゴを知っているのかい?」
「うん。エルアーラ遺跡で会ったユーレイなの。その時に、ヤルヴィレフト王家の野望は潰えてないって、血の波動を感じるからって言ってた」
「なるほど。だがもうそれは大丈夫だ。俺の手でヤルヴィレフト王家の最後の末裔は処刑したからな」
「えっ」
キュッリッキはモナルダ大陸戦争での、ベルトルドが行った世界中継での処刑劇を知らない。
「じゃ、じゃあ、もう大丈夫なんだ…?」
「ああ、心配ない」
胸元に手を添えて、キュッリッキはホッと小さく息をついた。
――キミは必ずヤルヴィレフト王家に狙われるだろう。
そうヒューゴが言っていたからだ。
「クレメッティの貪欲なまでの支配欲は、禁忌の領域に至った。誰も思いつかなかったことを実行したのだからな。そしてそれが引き金となり、世界は半壊し、空を自由に飛ぶこともできなくなった」
ベルトルドは僅かに俯くと、口元に苦笑をたたえた。
「そうだな、リューディアを殺した真犯人は、クレメッティということになるんだろう。実際に手を下したのは神だが、元凶という点で見れば、クレメッティに復讐せねばなるまい。まあ、もうとっくに死んでいるから何もできないが」
「……」
「戦争を繰り返すばかりの世界で、力も拮抗していた状況を打開し、優位に立つためには、より強力な力を持たなければならなかった。そこでクレメッティは、普段崇めもせず敬いもしないアルケラの巫女を利用し、アルケラの神々の力を我がものとすることを思いついた。今の世界と違い、1万年前の世界では、神の存在を人々は信じていた。それはアルケラの巫女の存在があったからだ。奇跡の力を目の当たりにする機会が、昔では当たり前のようにあったしな」
常に神殿に在ったアルケラの巫女は、乞われれば赴いて奇跡を施す。そして、時に世界各地の神殿に出向いて、人々に正しき道を説いた。
「神の力を自在に操る巫女を利用する、とは言っても、巫女には常にフェンリルが付き従い護っていた。だから争いごとを好まず由としない巫女に、虐殺をさせることは無理だ。そこでクレメッティはフリングホルニを建造させ、フリングホルニに乗ってアルケラへ自ら赴き、神の力を奪うという発想に帰結した」
奇想天外な発想、と誰もが思うだろう。しかし、それを可能にするだけの技術力を持っていた1万年前の世界で、それは実行されようとしていた。
「宇宙を航行する艦艇を作ることの出来る高い技術力を使い、クレメッティが作らせたフリングホルニは、次元航行をも可能にさせる船だった。アルケラはこの世界とは違う次元に存在する世界、そこへ至るには、別次元の扉を開いて入り込まなければならない。そして、そんなことを可能にするのが、アルケラの巫女だ。別次元の扉を開いたところで、それがアルケラのある次元とは限らない。迷子にならず、神々の御元へたどり着くための道しるべとなるアルケラの巫女を、フリングホルニに設置することを思いついた。それで間違いなくたどり着き、神々の力を本当に手にすることが出来るかは謎だがな」
「フリングホルニに、設置する……」
設置するとは、どういうことだろう。
その、あまりにも不遜極まる嫌な響きに胸がざわついて、キュッリッキは落ち着かない気分になった。
「フリングホルニには二つの動力がある。一つは通常航行用、もう一つが次元航行用だ。その次元航行用の動力に、巫女を閉じ込めて、力を引き出し船を動かす。そうして作られたものが、レディトゥス・システム。リッキーが大怪我を負う羽目になった、あのナルバ山の神殿に隠されていた、謎のエグザイル・システムのことだよ」
「うん。エルアーラ遺跡で会ったユーレイなの。その時に、ヤルヴィレフト王家の野望は潰えてないって、血の波動を感じるからって言ってた」
「なるほど。だがもうそれは大丈夫だ。俺の手でヤルヴィレフト王家の最後の末裔は処刑したからな」
「えっ」
キュッリッキはモナルダ大陸戦争での、ベルトルドが行った世界中継での処刑劇を知らない。
「じゃ、じゃあ、もう大丈夫なんだ…?」
「ああ、心配ない」
胸元に手を添えて、キュッリッキはホッと小さく息をついた。
――キミは必ずヤルヴィレフト王家に狙われるだろう。
そうヒューゴが言っていたからだ。
「クレメッティの貪欲なまでの支配欲は、禁忌の領域に至った。誰も思いつかなかったことを実行したのだからな。そしてそれが引き金となり、世界は半壊し、空を自由に飛ぶこともできなくなった」
ベルトルドは僅かに俯くと、口元に苦笑をたたえた。
「そうだな、リューディアを殺した真犯人は、クレメッティということになるんだろう。実際に手を下したのは神だが、元凶という点で見れば、クレメッティに復讐せねばなるまい。まあ、もうとっくに死んでいるから何もできないが」
「……」
「戦争を繰り返すばかりの世界で、力も拮抗していた状況を打開し、優位に立つためには、より強力な力を持たなければならなかった。そこでクレメッティは、普段崇めもせず敬いもしないアルケラの巫女を利用し、アルケラの神々の力を我がものとすることを思いついた。今の世界と違い、1万年前の世界では、神の存在を人々は信じていた。それはアルケラの巫女の存在があったからだ。奇跡の力を目の当たりにする機会が、昔では当たり前のようにあったしな」
常に神殿に在ったアルケラの巫女は、乞われれば赴いて奇跡を施す。そして、時に世界各地の神殿に出向いて、人々に正しき道を説いた。
「神の力を自在に操る巫女を利用する、とは言っても、巫女には常にフェンリルが付き従い護っていた。だから争いごとを好まず由としない巫女に、虐殺をさせることは無理だ。そこでクレメッティはフリングホルニを建造させ、フリングホルニに乗ってアルケラへ自ら赴き、神の力を奪うという発想に帰結した」
奇想天外な発想、と誰もが思うだろう。しかし、それを可能にするだけの技術力を持っていた1万年前の世界で、それは実行されようとしていた。
「宇宙を航行する艦艇を作ることの出来る高い技術力を使い、クレメッティが作らせたフリングホルニは、次元航行をも可能にさせる船だった。アルケラはこの世界とは違う次元に存在する世界、そこへ至るには、別次元の扉を開いて入り込まなければならない。そして、そんなことを可能にするのが、アルケラの巫女だ。別次元の扉を開いたところで、それがアルケラのある次元とは限らない。迷子にならず、神々の御元へたどり着くための道しるべとなるアルケラの巫女を、フリングホルニに設置することを思いついた。それで間違いなくたどり着き、神々の力を本当に手にすることが出来るかは謎だがな」
「フリングホルニに、設置する……」
設置するとは、どういうことだろう。
その、あまりにも不遜極まる嫌な響きに胸がざわついて、キュッリッキは落ち着かない気分になった。
「フリングホルニには二つの動力がある。一つは通常航行用、もう一つが次元航行用だ。その次元航行用の動力に、巫女を閉じ込めて、力を引き出し船を動かす。そうして作られたものが、レディトゥス・システム。リッキーが大怪我を負う羽目になった、あのナルバ山の神殿に隠されていた、謎のエグザイル・システムのことだよ」
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