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奪われしもの編 彼女が遺した空への想い
episode694
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「そうだ。しかし不思議なことに、空を飛ぶ技術のみ、記録も何も残されておらず、技術で空を飛ぶ、という発想を、この千年の間誰も思いつかなかった」
ふいに、ベルトルドは訴えかけるように声を荒らげる。
「何故だ? 1万年前の遺跡や遺物を掘り出して、様々なものを復刻させたり応用したりして今に活かしている。映像技術もハーメンリンナの気温調整も、電力も何もかも、全て1万年前の物を使っているんだ。そしてあのエグザイルシ・システムだってそうだ。あれも超古代文明の遺産だ。それなのに、これまでひとつも空を飛ぶ技術が掘り起こされていなければ、誰も発想していないんだ。おかしいだろう? 不思議じゃないか。なんで誰も思いつかない、どうして技術で空を飛ぼうと思わない。誰でもスキル〈才能〉に関係なく空を飛べれば、便利だと判っているだろうに」
肩で息をつくと、ベルトルドは高揚する気持ちを鎮めるように、前髪をかきあげた。
「だがな、31年前、リューディアは空を飛ぶ技術の基礎を見出していたんだ。神に殺される直前に、閃いて、それをスケッチブックに描いた。そして俺たちに見せようとした瞬間に、雷を落とされた」
「それが……リューディアが殺された原因…?」
胸元で手を握り締め、キュッリッキは腰を浮かせた。
一体なぜ、そんなことで神々がリューディアを殺したというのだろうか。
「うん、空を飛ぶ技術を見出した、それが殺された原因(りゆう)だったんだ」
サイ《超能力》や魔法スキル〈才能〉を持つ者は、自由に空を飛んでいる。アイオン族だって翼で空を翔けている。
それなのに、技術で飛ぶことは、何故いけないことなのだろうか? 一人の少女の命を問答無用で奪うほど、それは罪深いことなのだろうか。
(1万年前はよくても、今はダメなの? なんでなの……)
疑問は深まるばかりで、キュッリッキには見当もつかなかった。
「全ては1万年前に起こった大いなる罪が原因なんだ。そのことで、神々は人間の記憶、遺伝子から空を飛ぶ技術、閃きを消し去った。9千年に及ぶ歴史のない年月の間に、神々は人間を作り替えていたのさ」
「そのせいで、歴史もなく記録も残されていない、空白の期間があるのですよ」
「そう、人間たちは確実に生きていたんだけどな。神々の作業が終わったのが千年前ということだ」
人間一人一人から、空を飛ぶ技術に関するすべてを消し去った。ほんの些細な事すら許さず、丁寧に消し去ったのだ。そして、これまでの歴史からも記録からも消した。
長すぎる年月を費やし、そうまでして神々が手を下した理由は、原因とは一体なんだったのか。
キュッリッキは怯えながらも、それを知りたいと思った。知らなくてはならない。
見つめてくるキュッリッキの表情から察したベルトルドは、満足そうに大きく頷く。
「1万年前に起こった大いなる罪、人間の犯した大罪を話してあげよう」
ふいに、ベルトルドは訴えかけるように声を荒らげる。
「何故だ? 1万年前の遺跡や遺物を掘り出して、様々なものを復刻させたり応用したりして今に活かしている。映像技術もハーメンリンナの気温調整も、電力も何もかも、全て1万年前の物を使っているんだ。そしてあのエグザイルシ・システムだってそうだ。あれも超古代文明の遺産だ。それなのに、これまでひとつも空を飛ぶ技術が掘り起こされていなければ、誰も発想していないんだ。おかしいだろう? 不思議じゃないか。なんで誰も思いつかない、どうして技術で空を飛ぼうと思わない。誰でもスキル〈才能〉に関係なく空を飛べれば、便利だと判っているだろうに」
肩で息をつくと、ベルトルドは高揚する気持ちを鎮めるように、前髪をかきあげた。
「だがな、31年前、リューディアは空を飛ぶ技術の基礎を見出していたんだ。神に殺される直前に、閃いて、それをスケッチブックに描いた。そして俺たちに見せようとした瞬間に、雷を落とされた」
「それが……リューディアが殺された原因…?」
胸元で手を握り締め、キュッリッキは腰を浮かせた。
一体なぜ、そんなことで神々がリューディアを殺したというのだろうか。
「うん、空を飛ぶ技術を見出した、それが殺された原因(りゆう)だったんだ」
サイ《超能力》や魔法スキル〈才能〉を持つ者は、自由に空を飛んでいる。アイオン族だって翼で空を翔けている。
それなのに、技術で飛ぶことは、何故いけないことなのだろうか? 一人の少女の命を問答無用で奪うほど、それは罪深いことなのだろうか。
(1万年前はよくても、今はダメなの? なんでなの……)
疑問は深まるばかりで、キュッリッキには見当もつかなかった。
「全ては1万年前に起こった大いなる罪が原因なんだ。そのことで、神々は人間の記憶、遺伝子から空を飛ぶ技術、閃きを消し去った。9千年に及ぶ歴史のない年月の間に、神々は人間を作り替えていたのさ」
「そのせいで、歴史もなく記録も残されていない、空白の期間があるのですよ」
「そう、人間たちは確実に生きていたんだけどな。神々の作業が終わったのが千年前ということだ」
人間一人一人から、空を飛ぶ技術に関するすべてを消し去った。ほんの些細な事すら許さず、丁寧に消し去ったのだ。そして、これまでの歴史からも記録からも消した。
長すぎる年月を費やし、そうまでして神々が手を下した理由は、原因とは一体なんだったのか。
キュッリッキは怯えながらも、それを知りたいと思った。知らなくてはならない。
見つめてくるキュッリッキの表情から察したベルトルドは、満足そうに大きく頷く。
「1万年前に起こった大いなる罪、人間の犯した大罪を話してあげよう」
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