片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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奪われしもの編 彼女が遺した空への想い

episode693

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 ドレスをギュッと握り締めながらも、キュッリッキの手は小さく震えていた。

 ベルトルドとアルカネットの背に広がったものは、紛れもなくアイオン族の翼だったからだ。

 これまで2人がアイオン族だと思ったことは、一度もなかった。

 アイオン族は翼を隠していると、外見はヴィプネン族とほぼ変わりはない。容姿が優れているといっても、ヴィプネン族にも容姿の優れた者はたくさんいる。

 2人は一度もキュッリッキの前で翼は見せなかったし、アイオン族だと言ったこともない。キュッリッキの知るアイオン族とは、キュッリッキを蔑む存在だ。片翼であることを蔑み、忌み嫌う、それがアイオン族。

 だから、考えたこともなかった。

 種族のことなど。

 そして疑問に思うのは、2人のあの翼が共に片翼であること、漆黒のカラスのような羽の色だった。

「俺たちは誓の証に、それぞれの翼を捧げたんだ。リューディアの魂が、少しでも自由に空を飛べるように願いを込めて。俺は右の翼を、アルカネットは左の翼を、墓の前でもぎ取ってな」

 咄嗟にキュッリッキは両手で口を塞いだ。そのことを想像して、悲鳴を上げそうになったからだ。

「そうしたら、不思議なことに翼が変色していた。真っ白だった羽が漆黒に変わったんだ。――まあ、羽の色が変色しようと、関係ないことだったが」

 無理に翼をもぎ取ったことなのか、何かしらの変異が起きたのか、興味もないから調べてもいない。そうベルトルドは呟いた。

「一度にいろんな情報を詰め込まれて、挙句アルカネットもいるのだから、だいぶ頭が混乱しただろう? だが、リッキーには我慢して話を聞いてもらいたい」

 優しく微笑まれても、キュッリッキには微笑み返すことは、もう無理だった。

 アルカネットは知らない場所だと言っていたのに、こうして居ることで、ベルトルドの言葉を信用出来なくなっていた。

 今もまだ、アルカネットに押さえつけられた力の感触を、身体中が覚えているのに。アルカネットを見ただけで、震えが止まらないというのに。

「さて、話を戻そうか。――召喚スキル〈才能〉を持たない俺たちが神の御元へ行くためには、どうしてもアルケラの門を通る必要がある。空よりももっと高く遠い、宇宙という空間へ行かなくてはならない。アルケラの門、月は宇宙にあるのだから。だが、空を飛ぶ技術を人間たちは持たない。サイ《超能力》や魔法で行くにも限界がある。大気圏を抜けることが出来ないからだ。俺の空間転移を使えば行けるかもと何度も試したんだが、宇宙へは跳べなくてな。しかし、1万年前、人間たちは空を自由に飛び、宇宙へも行くことが出来ていたんだ」

「超古代文明、1万年前に失われた技術があれば、それが可能となるのです」

 それまでずっと黙していたアルカネットが、おもむろに口を開いた。
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