755 / 882
奪われしもの編 彼女が遺した空への想い
episode692
しおりを挟む
長い時間(とき)を経て再会できたかのような喜びに、ベルトルドの心は快哉を叫びだしたい気持ちに満ち溢れていた。
リューディアは死んでなどいなかったんだ、そう思いたいほどに。
「リッキーが見せてくれた召喚の数々、初めて見るものばかりだった。なにせ、国が引き取っている召喚スキル〈才能〉を持つ少女たちは、何一つ召喚出来ていなかったからな。たまによく判らない物体を召喚してみせる者もいたが、リッキーとの能力には差がありすぎた。自分たちの持つ力がどんなものなのか、それすら知らぬ者ばかりで。そこで、色々と調べていくうちに、リッキー以外の召喚スキル〈才能〉を持つ者たちは、フェイクであることが判った」
「フェイク?」
「そう、本物の召喚士を隠すために、用意された存在だとね」
訝しむように眉間をしかめると、キュッリッキは一度だけあった少女たちのことを思い出す。
ベルトルドやアルカネットに憧れるあまり、邪険な態度を取ってきた少女たち。
あの少女たちが偽物とは、一体どういうことなのだろう。
「……何故、そんな必要があったの?」
「1万年前と同じ悲劇を繰り返さないために、神がそう創り出したんだ」
「ティワズさまたちが……」
1万年前の悲劇、それは一体? キュッリッキの心に疑問がじわじわと広がっていく。
「だがこれでいよいよ、リッキーが本物の召喚士であることが判った。唯一の、本物の召喚士。すなわち、アルケラの巫女であると」
その時、この青い世界に、突如アルカネットが現れた。
「!?」
魔法部隊長官の黒い軍服をまとったアルカネットが、ゆっくりと歩いてきて、ベルトルドの傍らに立つ。
全身を恐怖の震えが駆け抜けていった。
キュッリッキは身を竦ませて、自然と手が身体を庇うように胸元で交差する。ベルトルド邸でされたことが、一瞬にして脳裏に蘇った。
思い出したくない、忌まわしいあの出来事が。
怖くて怖くて、こうして距離があいていても怖くてたまらない。
ここは、誰も知らないはずのベルトルドの隠れ家ではなかったのか? 何故アルカネットが。
(な…なんで? ベルトルドさんは嘘を言っていたの?)
キュッリッキの頭の中は混乱していた。
怯えるキュッリッキを、アルカネットは冷たく見つめていた。
いつもキュッリッキを優しく見つめていた目ではない。表情は淡々としていて、怒っているわけでも、笑っているわけでもない。何を考えているのか判らない表情をしている。
それがより、キュッリッキを怯えさせていた。
「ベ…ベルトルドさん……?」
キュッリッキの問いかけを無視するようにして、ベルトルドは話を続けた。まるで耳に入っていないかのように。
「本当に長かった。長い時間をかけて、ようやく神へ至る手がかりを掴んだ。31年前、リューディアの墓の前で俺たちは誓ったんだ、神への復讐を」
「えっ…」
キュッリッキの顔が、みるみるうちに驚きに塗りつぶされていく。
アルカネットの右の背から、そして、ベルトルドの左の背から、それはゆっくりと横に広がっていく。
「どうして……それ」
大きく広がったそれは、紛れもなくアイオン族の翼だった。
リューディアは死んでなどいなかったんだ、そう思いたいほどに。
「リッキーが見せてくれた召喚の数々、初めて見るものばかりだった。なにせ、国が引き取っている召喚スキル〈才能〉を持つ少女たちは、何一つ召喚出来ていなかったからな。たまによく判らない物体を召喚してみせる者もいたが、リッキーとの能力には差がありすぎた。自分たちの持つ力がどんなものなのか、それすら知らぬ者ばかりで。そこで、色々と調べていくうちに、リッキー以外の召喚スキル〈才能〉を持つ者たちは、フェイクであることが判った」
「フェイク?」
「そう、本物の召喚士を隠すために、用意された存在だとね」
訝しむように眉間をしかめると、キュッリッキは一度だけあった少女たちのことを思い出す。
ベルトルドやアルカネットに憧れるあまり、邪険な態度を取ってきた少女たち。
あの少女たちが偽物とは、一体どういうことなのだろう。
「……何故、そんな必要があったの?」
「1万年前と同じ悲劇を繰り返さないために、神がそう創り出したんだ」
「ティワズさまたちが……」
1万年前の悲劇、それは一体? キュッリッキの心に疑問がじわじわと広がっていく。
「だがこれでいよいよ、リッキーが本物の召喚士であることが判った。唯一の、本物の召喚士。すなわち、アルケラの巫女であると」
その時、この青い世界に、突如アルカネットが現れた。
「!?」
魔法部隊長官の黒い軍服をまとったアルカネットが、ゆっくりと歩いてきて、ベルトルドの傍らに立つ。
全身を恐怖の震えが駆け抜けていった。
キュッリッキは身を竦ませて、自然と手が身体を庇うように胸元で交差する。ベルトルド邸でされたことが、一瞬にして脳裏に蘇った。
思い出したくない、忌まわしいあの出来事が。
怖くて怖くて、こうして距離があいていても怖くてたまらない。
ここは、誰も知らないはずのベルトルドの隠れ家ではなかったのか? 何故アルカネットが。
(な…なんで? ベルトルドさんは嘘を言っていたの?)
キュッリッキの頭の中は混乱していた。
怯えるキュッリッキを、アルカネットは冷たく見つめていた。
いつもキュッリッキを優しく見つめていた目ではない。表情は淡々としていて、怒っているわけでも、笑っているわけでもない。何を考えているのか判らない表情をしている。
それがより、キュッリッキを怯えさせていた。
「ベ…ベルトルドさん……?」
キュッリッキの問いかけを無視するようにして、ベルトルドは話を続けた。まるで耳に入っていないかのように。
「本当に長かった。長い時間をかけて、ようやく神へ至る手がかりを掴んだ。31年前、リューディアの墓の前で俺たちは誓ったんだ、神への復讐を」
「えっ…」
キュッリッキの顔が、みるみるうちに驚きに塗りつぶされていく。
アルカネットの右の背から、そして、ベルトルドの左の背から、それはゆっくりと横に広がっていく。
「どうして……それ」
大きく広がったそれは、紛れもなくアイオン族の翼だった。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。
千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。
気付いたら、異世界に転生していた。
なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!?
物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です!
※この話は小説家になろう様へも掲載しています

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~
名無し
ファンタジー
突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。
自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。
もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。
だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。
グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。
人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる