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奪われしもの編 彼女が遺した空への想い
episode691
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片翼で生まれてきたばかりに、家族にも同族にも国にも捨てられた存在。だから、ライオン傭兵団にくるまで、そんな法律があることなど知らなかった。
皮肉にもヴィプネン族の惑星ヒイシで、19年の時を経て、やっと身の置き所と幸せを手に入れることができたのだ。それを思い返すと、自然とため息が漏れる。
「だがな、おかしいと思わないか? 確かに召喚スキル〈才能〉は珍しい。サイ《超能力》や魔法などレアと括られるスキル〈才能〉を持つ者たちには特別処置はない。機械工学すらそうだ。数が比較にならないというものあるが。しかし、何のために国が保護をする? 珍しいからという理由で、そこまでする必要があったのか? 謎は深まるばかりだろう。しかも不思議なことに、そんな法律は19年前にいきなり出来ていたんだ。昔からあったかように、シレっと人間たちの世界に現れたんだ」
「……19年前に、いきなり?」
ずっと存在していなかった? それは面妖なことだとキュッリッキは思った。
「うん。人間たちの中に、いきなり刻み込まれたんだ。3種族同じようにしてな。さも昔から存在していた法律のように現れ、召喚スキル〈才能〉を持つ者たちを国が保護し始めた。そして保護をしているだけで、特に何もしない。王侯貴族のような贅沢を極めた、仕事も勉強もしなくていい、豪遊三昧を当たり前のように与えていた。国家予算を割いてまでな」
語尾に剣呑さを感じて、キュッリッキは苦笑する。
「それなのにだ、リッキーだけがこのシステムから省かれた。いくら片翼という障害を抱えて生まれいでたとしても、それはリッキーが悪いわけじゃない。アイオン族の中に外見の美醜を重んじる悪い習慣が根付いていただけだ。それでも、イルマタル帝国が保護を拒絶したのはどう考えてもおかしいんだ。リッキーの父母が育てることを放棄したのなら尚更だ。法律で決められていることだ、国が拒否するなどありえない」
キュッリッキは悲しい気持ちになって、顔を伏せた。
そう、片翼で生まれてきたのは自分のせいじゃないのに、どうして誰ひとり守ってくれなかったのだろう。
子供を捨ててまで、外見の美醜が珍重されるほどのことだろうか。
「リッキーのことは、ハワドウレ皇国にいる俺の耳には入ってこなかった。だが、数年前から、変わった力を持った少女が傭兵の中にいる、という噂をアルカネットが聞きつけてきてな。それであいつを調査に行かせて、リッキーの存在を知った」
悲しげな表情のキュッリッキに、ベルトルドは優しく微笑んだ。
「驚いたなんてもんじゃなかった。調査から戻ってきたアルカネットが、呆然としながら報告してきたよ、リューディアにそっくりな少女だったと。生まれ変わりなのかと思い込みたいほど、本当によく似ていて。写真を見せられて、俺も気が動転するほど驚いたさ。――リッキーがフリーになったのを知って、急いでスカウトに行ったんだよ、誰にも渡したくなくてね」
美味しそうにドリアを食べているキュッリッキの顔は、遠い昔に失った少女によく似ていた。
皮肉にもヴィプネン族の惑星ヒイシで、19年の時を経て、やっと身の置き所と幸せを手に入れることができたのだ。それを思い返すと、自然とため息が漏れる。
「だがな、おかしいと思わないか? 確かに召喚スキル〈才能〉は珍しい。サイ《超能力》や魔法などレアと括られるスキル〈才能〉を持つ者たちには特別処置はない。機械工学すらそうだ。数が比較にならないというものあるが。しかし、何のために国が保護をする? 珍しいからという理由で、そこまでする必要があったのか? 謎は深まるばかりだろう。しかも不思議なことに、そんな法律は19年前にいきなり出来ていたんだ。昔からあったかように、シレっと人間たちの世界に現れたんだ」
「……19年前に、いきなり?」
ずっと存在していなかった? それは面妖なことだとキュッリッキは思った。
「うん。人間たちの中に、いきなり刻み込まれたんだ。3種族同じようにしてな。さも昔から存在していた法律のように現れ、召喚スキル〈才能〉を持つ者たちを国が保護し始めた。そして保護をしているだけで、特に何もしない。王侯貴族のような贅沢を極めた、仕事も勉強もしなくていい、豪遊三昧を当たり前のように与えていた。国家予算を割いてまでな」
語尾に剣呑さを感じて、キュッリッキは苦笑する。
「それなのにだ、リッキーだけがこのシステムから省かれた。いくら片翼という障害を抱えて生まれいでたとしても、それはリッキーが悪いわけじゃない。アイオン族の中に外見の美醜を重んじる悪い習慣が根付いていただけだ。それでも、イルマタル帝国が保護を拒絶したのはどう考えてもおかしいんだ。リッキーの父母が育てることを放棄したのなら尚更だ。法律で決められていることだ、国が拒否するなどありえない」
キュッリッキは悲しい気持ちになって、顔を伏せた。
そう、片翼で生まれてきたのは自分のせいじゃないのに、どうして誰ひとり守ってくれなかったのだろう。
子供を捨ててまで、外見の美醜が珍重されるほどのことだろうか。
「リッキーのことは、ハワドウレ皇国にいる俺の耳には入ってこなかった。だが、数年前から、変わった力を持った少女が傭兵の中にいる、という噂をアルカネットが聞きつけてきてな。それであいつを調査に行かせて、リッキーの存在を知った」
悲しげな表情のキュッリッキに、ベルトルドは優しく微笑んだ。
「驚いたなんてもんじゃなかった。調査から戻ってきたアルカネットが、呆然としながら報告してきたよ、リューディアにそっくりな少女だったと。生まれ変わりなのかと思い込みたいほど、本当によく似ていて。写真を見せられて、俺も気が動転するほど驚いたさ。――リッキーがフリーになったのを知って、急いでスカウトに行ったんだよ、誰にも渡したくなくてね」
美味しそうにドリアを食べているキュッリッキの顔は、遠い昔に失った少女によく似ていた。
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