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奪われしもの編 彼女が遺した空への想い
episode690
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キュッリッキを抱きしめたまま、ベルトルドは囁くように言った。その腕の中で、キュッリッキがベルトルドの顔を見ようと、僅かに頭を上げる。
「犯人の検討もつかなかった。だが、リューディアの身体にほんの少し、残っていたんだ。雷を落とした犯人の意思が、声が」
穏やかな笑みをたたえながら、しかしベルトルドの目は笑ってはいなかった。どこか乾いたような、淡々とした色を宿している。
「アルケラの神。やはり、そうだったのだな」
ゆっくりとキュッリッキを身体から離すと、ベルトルドは悲しそうに表情を歪めた。
「リッキーが断じるのだ。――間違いないのだな?」
キュッリッキは小さく頷いた。
理由は判らないまでも、トールの一撃であることは断言できる。
「そうか。そうか…」
目を伏せベルトルドは立ち上がると、青い水晶のような床を、ゆっくりと歩く。
「俺は力を振り絞って、僅かに残る犯人に至る痕跡を探った。そして、男の声で『ならん!!』と叫ぶような声が聞こえたんだ。その声と同時に、リューディアにあの雷が降り落ちた」
肩で息をつくと、ベルトルドはキュッリッキの方を振り向いた。
「あの声を”神”だと思ったのは俺だ。そう思わせる畏れと威厳が、あの短い言葉に満ちていたからだ。人間では、ああはいかないだろう。それにあの雷の質量とコントロールだ。落ちた衝撃波はきたが、怪我もしなかったし、火傷もしていない。桟橋は木っ端微塵に吹き飛んだが、雷はリューディアだけを攻撃するようにしていた。今のアルカネットにすら、あんな芸当は無理だという。ならば、人間の仕業ではない」
そう、あれほどの質量の雷を、近くにいたベルトルドたちに被害を及ばさず、小さな対象を狙うのは人間には無理なのだ。あれほどの威力なら、島全体が吹き飛んでもおかしくはない。魔法のコントロールも完璧なアルカネットにすら出来ないことならば、人外の存在を信じられる。
「犯人は間違いなく神だ。しかし同時に、相手が神だということで、俺は絶望した。何故なら神など、どこにいるのかすら知らないのだからな。――この世界で神とは、御伽噺の中の空想の産物にしか過ぎない。人が神の存在を信じることがあるとすれば、都合のいい時だけ求め、敬い、拝む。普段は信仰すらしていないのにな」
「うん、そうだね……」
悲しくなって、キュッリッキは俯いた。
人間たちは神の存在を知らない。信じてもいない。
しかし、神はいるのだ。
人間たちとは異なる世界にいて、毎日人間たちを見守っている。
慈しみをこめて、優しく見守っているのだ。
神々は人間が大好きだ。だから、人間たちを大切に思っている。
キュッリッキはそのことを、よく知っている。世界中の誰よりも、一番よく知っているのだから。
だから、理由もなしに、リューディアにあんな酷いことをするわけがない。
「犯人が神だと判った、それはいい。その神とやらにどうやったら会える? 超常の存在に会う術など持ってはいないからな。だが必死に調べたさ。そしてアルケラという名前を見つけた。それが神の住む世界を示す名称であることを知った。それを手がかりに、アルケラ研究機関ケレヴィルという組織があることも知ったんだ。俺はそこに入るために、ハワドウレ皇国の学校へ進学した。アルカネット、リュリュも共に」
ハワドウレ皇国が所有するアルケラ研究機関ケレヴィル。アルケラに関するあらゆる事柄を研究し、保管している。そして、超古代文明のことにも様々な知識を有していた。ケレヴィルに入れば、一般には流出していない、アルケラの知識や情報に触れることが出来る。神の座にもっとも近い、現実的な場所だった。
「俺は副宰相というめんどくさい仕事を引き受ける一方、ケレヴィルの所長の座も手に入れた。――それが条件だったからな。そこで初めて知ったんだ、召喚士という存在を。そして、3種族の間で取り決められている決め事のこともな」
召喚スキル〈才能〉を持つ者は、家族ごと生国に召し上げられて、一生国が面倒を見る、という法律だ。
「生憎リッキーには、適用されなかったがな。イルマタル帝国の怠慢だ」
「……」
「犯人の検討もつかなかった。だが、リューディアの身体にほんの少し、残っていたんだ。雷を落とした犯人の意思が、声が」
穏やかな笑みをたたえながら、しかしベルトルドの目は笑ってはいなかった。どこか乾いたような、淡々とした色を宿している。
「アルケラの神。やはり、そうだったのだな」
ゆっくりとキュッリッキを身体から離すと、ベルトルドは悲しそうに表情を歪めた。
「リッキーが断じるのだ。――間違いないのだな?」
キュッリッキは小さく頷いた。
理由は判らないまでも、トールの一撃であることは断言できる。
「そうか。そうか…」
目を伏せベルトルドは立ち上がると、青い水晶のような床を、ゆっくりと歩く。
「俺は力を振り絞って、僅かに残る犯人に至る痕跡を探った。そして、男の声で『ならん!!』と叫ぶような声が聞こえたんだ。その声と同時に、リューディアにあの雷が降り落ちた」
肩で息をつくと、ベルトルドはキュッリッキの方を振り向いた。
「あの声を”神”だと思ったのは俺だ。そう思わせる畏れと威厳が、あの短い言葉に満ちていたからだ。人間では、ああはいかないだろう。それにあの雷の質量とコントロールだ。落ちた衝撃波はきたが、怪我もしなかったし、火傷もしていない。桟橋は木っ端微塵に吹き飛んだが、雷はリューディアだけを攻撃するようにしていた。今のアルカネットにすら、あんな芸当は無理だという。ならば、人間の仕業ではない」
そう、あれほどの質量の雷を、近くにいたベルトルドたちに被害を及ばさず、小さな対象を狙うのは人間には無理なのだ。あれほどの威力なら、島全体が吹き飛んでもおかしくはない。魔法のコントロールも完璧なアルカネットにすら出来ないことならば、人外の存在を信じられる。
「犯人は間違いなく神だ。しかし同時に、相手が神だということで、俺は絶望した。何故なら神など、どこにいるのかすら知らないのだからな。――この世界で神とは、御伽噺の中の空想の産物にしか過ぎない。人が神の存在を信じることがあるとすれば、都合のいい時だけ求め、敬い、拝む。普段は信仰すらしていないのにな」
「うん、そうだね……」
悲しくなって、キュッリッキは俯いた。
人間たちは神の存在を知らない。信じてもいない。
しかし、神はいるのだ。
人間たちとは異なる世界にいて、毎日人間たちを見守っている。
慈しみをこめて、優しく見守っているのだ。
神々は人間が大好きだ。だから、人間たちを大切に思っている。
キュッリッキはそのことを、よく知っている。世界中の誰よりも、一番よく知っているのだから。
だから、理由もなしに、リューディアにあんな酷いことをするわけがない。
「犯人が神だと判った、それはいい。その神とやらにどうやったら会える? 超常の存在に会う術など持ってはいないからな。だが必死に調べたさ。そしてアルケラという名前を見つけた。それが神の住む世界を示す名称であることを知った。それを手がかりに、アルケラ研究機関ケレヴィルという組織があることも知ったんだ。俺はそこに入るために、ハワドウレ皇国の学校へ進学した。アルカネット、リュリュも共に」
ハワドウレ皇国が所有するアルケラ研究機関ケレヴィル。アルケラに関するあらゆる事柄を研究し、保管している。そして、超古代文明のことにも様々な知識を有していた。ケレヴィルに入れば、一般には流出していない、アルケラの知識や情報に触れることが出来る。神の座にもっとも近い、現実的な場所だった。
「俺は副宰相というめんどくさい仕事を引き受ける一方、ケレヴィルの所長の座も手に入れた。――それが条件だったからな。そこで初めて知ったんだ、召喚士という存在を。そして、3種族の間で取り決められている決め事のこともな」
召喚スキル〈才能〉を持つ者は、家族ごと生国に召し上げられて、一生国が面倒を見る、という法律だ。
「生憎リッキーには、適用されなかったがな。イルマタル帝国の怠慢だ」
「……」
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