片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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奪われしもの編 彼女が遺した空への想い

episode688

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 誰も言葉を発さず、リュリュの話に聞き入っていた。しかしみんなの表情は、苦く辛さに満ちている。

「透視も使えないくせに、どういうわけか勘がイイのよ、アルカネットのやつ。こっちも随分頑張って、復讐計画を妨害し続けてきたけど、相手があのベルでしょ。妨害しきれなくって、ついに小娘を持って行かれてしまったわ…」

 まとめた荷物を手にして座り込むライオン傭兵団を見渡し、リュリュは小さく苦笑した。

「しおらしいじゃない。あーたらには、似合わなくてよ」

「…ツッコミどころが見えなくって」

 頭をガシガシ掻きながら、ギャリーがため息混じりにぼやく。

「その、リューディアさんを殺した犯人は、視えたんですか?」

 メルヴィンが遠慮がちに質問すると、リュリュは頷いた。

「アルから励まされたベルが、時間をかけてついに見つけ出したの。でも、真犯人を確定してそこへ至るまで、随分と長い年月を費やしたわ。ベルもアルも、それだけのために生きてきたの。そしてようやく、復讐出来るのよ」

「犯人、誰だったんだ?」

 身を乗り出したザカリーに、リュリュはチラリと視線を向ける。そして、人差し指を空へと向けた。

「神様よ」

 場が、一気に静まり返った。

「えと……へ?」

 ザカリーが困惑を深めた声を出す。

「神の存在信じてないでしょ、あーた達。だったらどうして、召喚士がいるのよ?」

「それは……」

「フェンリルがただの仔犬だったとか、思ってたりしてんじゃないでしょうね? ちゃんとね、居るのよ、神様って」

 フェンリルやフローズヴィトニルを散々見てるでしょ、とリュリュは肩をすくめる。

「だから小娘を攫っていったのよ。いい? 召喚士とは正式な名称を隠すための呼び名。すなわち、アルケラの巫女、というのが、召喚士の本当の正体。神と人間を繋ぐ、唯一の接点になる存在なのよ」

「アルケラの巫女……、リッキーが巫女」

 俯いて呟くメルヴィンの肩を、ヴァルトがポンッと勢いよく叩いた。

「手を出さなくてヨカッタナ!」

「えっ」

 一瞬で顔を真っ赤にして慌てふためくメルヴィンを、リュリュは苦笑交じりに見つめる。

(出しておいて欲しかったけどネ…)

「んで、お嬢をどうするんです? 攫っていって」

 怪訝そうにギャリーが言うと、リュリュは顎を引いた。

「もちろん、神様のもとへ案内させるのよ」

「どうやって?」

「それも説明するわ。けど、移動しながらよ。荷物持って、アタシについてらっしゃい」

 ハーメンリンナに向かって歩きだしたリュリュを、皆慌てて追いかける。

「恐らく小娘は酷い目にあってるでしょうけど、それはもう阻止しようがないわ。だからあーた達は、小娘の救出と、2人の復讐の粉砕。そして」

 一旦足を止めて、リュリュは身体を振り向ける。

「アタシからのお願い。――生死は問わない。ベルを、アルカネットから助けてちょうだい」
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